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2009年09月10日00:01

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崩壊の足跡を辿りながら物語を読むという事

予定よりも大幅に遅れつつも栗本薫『グイン・サーガ』再読中。
現在、第40巻『アムネリアの罠』まで到達。

リアルタイムでは高校三年生だった、かな?

考えてみれば一番熱狂していた、時期。

読み出した時は13歳くらい。
既刊は26,7巻で、それから28巻が出るまでが
長いブランク(と言っても一年はなかったが、
当時の一年は何せ長かった)もあって、
物語は遅々として進まない印象があった。

だが、30巻『サイロンの豹頭将軍』(なんてときめくタイトル!)
から刊行ペースは早まり、一気阿世に
世に出るようなイメージだった。

登場人物達も野望や理想、夢や欲望、
または市井の哀歓に彩られながら、
どれも気高かった。

そう、まだまだ皆若く『気高かった』のだ。

実際の息吹を感じ取れるような気すら、
当時はしたものだった。

だが。

その後の作者の凋落と物語の質の低下を知る
今の目で読むと、様々な『兆し』が目に留まる。

ああ、この巻からワープロを導入しだしたのか、
ああ、この辺りから芝居に手を出し初めて、
演出家なんて名乗りだしたのか、とか、
もうこんな巻から顔文字(フェイスマーク、なんて
得意げに注釈を入れていた)や(笑)が
あとがきに顔を出しだしたか・・・などなど。

これがどんどん登場人物の白痴化、
地の分の描写の書割化、出来の悪い芝居の台本
そのままのような延々と続く独白(6ページにも
亘って一人の人物の繰言だったりする!)へと
到る布石になっているのだなぁ、などと
悲しくなってくる。

初期からのファンには、ある日突然別人に
なったようなイメージがあるのだが、
現実は当然そのような事はなく。

崩壊は、既にその作品世界の内に
芽吹いていたのだ。

当時は気付く事がなかったが。

それはそうだ。

この頃はまだ彼女は才気に満ちていたし、
それが実は全て借り物に過ぎなかった事を
アレンジし、組み合わせて、独自色にする
事が出来ていた。

以降、彼女はインプットがないまま
ただキーボードを打ち続けて『自動書記』などと
思考停止したままアウトプットをする『のみ』の
存在と成り果てて、自らの物語を殺す。

未だ死んでいない時期の物語を読んでいても
その死の兆候を感じざるを得ないというのは、
とても悲しいことだ。

過去、あれだけ発言の裏を読み取ろうと哀れな
高校生をもがかせた天才アルド・ナリスが
如何に行き当たりばったりで浅薄な発言しか
していなかったかに気付いたり、グインの終生の
友人にして股肱の臣となるランゴバルド候ハゾスが
発言の脇の甘い男オバサンに過ぎない事が
分ったり、神秘的な巫女姫リンダが単なるおきゃんな(古!)
少女に過ぎなかったり、など正直分りたくなかった。

だが。

それでもなお。

この物語は輝いていたし、その光芒は胸を躍らせ、
また痛める。

そして、主人公たる豹頭人身の超戦士グインの
言葉のひとつひとつに如何に自分が影響を受け、
その語り口や語調を真似しているかに正直
驚いた。
なんと、それは今でも変わっていない!

そうか、たまに人に「普通使わないような言葉を使う」
だの「リアルで人の口からそんな言葉が出てくるのを
初めて聞いた」だの云われるのは実は時代劇の影響では
なく、この豹人からの物だったのだな。

未だ、物語は40巻。
これから90巻近い残りがある。

一度、この物語(つうか作者)を見限って読む事を
止めたのが確か85巻目くらいだった。

さて。

その先の領域へ踏み込めるだろうか。

評判を伝え聞く所によると、その頃が底辺で、
少し持ち直していた、とは聞くが。

何より。

他に読みたい、読まなければならない本が
この世には多すぎるのだ!

ま、一気読みはとっくに挫折しているので、
ゆるゆると付き合おう。

なんとなく、苦い確信を得た。

これが、この作品を通読する生涯最後の機会なのだ、という。

好きな巻や好きなシーンをピックアップして、とか
登場人物を絞ってその足跡を追う、というような
読み方はするだろう、今後も。

だが、もうこの物語を『前人未到の大河小説』として
読む事は、今後二度と無い。
自分の中でこの物語は死んでいる。

否定している訳ではない。

中高生から二十代まで、この物語は
自分にとってかけがえの無い物語だった。

それだけに、自分の『青春の物語』なのだ、これは。

だからこそ、焦る事はない。

色々な事を、辿りながら読もう。

一瞬の間違いない人生の宝だったのだから。
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