中島梓『小説道場』を読み返した。
追悼・・・という面持ちの再読ならば、
栗本薫の小説よりも、中島梓の畢竟の力作、と云える
であろうこの作品の方が相応しいと思ったからだ。
この『小説道場』には強く影響を受けた。
要するに雑誌誌面で行われる読者投稿作品への
小説指南、なのだが、これほど実際的でありつつ
『書く』事への喜びや楽しさを伝えてくれる
物は無かった。
掲載誌が『JUNE』という少年愛がテーマと
なっている本だったので、当然投稿作品も
掲載作品もその手の物ばかりだったのだが、
全く気にならなかった。
・・・ま、個人的に耐性があった、というのもあるだろうが。
小説の書き方指南、みたいな企画や本は多々ある。
だが、どれも一線を退いた人間の小遣い稼ぎか、
真の意味で本流にはない作家の戯れ言かのどちらか
が大多数、というのが本音だ。
だが、この『小説道場』は違った。
当時既に第一線の流行作家として、
ベストセラーを連発し、グインも順調に
書き続けていたにも関わらず『日陰の花』たる
少年愛小説というジャンルで熱心に後進を指導する
熱意が凄まじかった。
実践的な書き方・・・視点の設定や、読者を引き込む
文字レイアウトなどから、実際の投稿作品への
アドバイスも素晴らしく当を得た物で、感心する事
しきりだった。
そして、当時最も感銘を受け、今も変わらぬ
敬愛を感じてしまった文章が以下。
『 小説っていいねえ。ほんっとに、小説っていいね、
最高だね。うまい奴は最高だし、ヘタなのはかあいいし、
珍景なのは楽しいし、どんなのでも、ホント私は小説が好き。
愛してる。小説を書いて、書いてる途中で、
ペンを握って死んでゆくのが私の夢だ。
読むにつけ、書くにつけ、小説こそが、
私のただひとつの「剣を捧げた」神なのだ。
(中略)
小説はいいよ、最高だよ。
その中ではどんな人生も送れる。
どんな人にでもなれる。
麻薬などなくともトリップできるのだ。
私は生きてある限り一行でも一章でも一冊でも
多くの小説を書こうとしつづけるだろう。
君たちも一緒においで
――私と一緒に。』
(小説道場�鵯より)
引用以上。
そうだった。ここまで熱くテンションを高くもって、
それに見合うだけの技量で作品を生み出し続けてくれたから、
栗本薫が大好きだったのだ。
小松、星、筒井、豊田、眉村、光瀬といった第一世代で
読書体験は始まったが、その時も現役バリバリとは
正直言いがたかった。
そんな中、田中、菊池、夢枕といった人たちと一緒に
頭角を表わし、その多数産まれて行く作品を
熱狂しながら見守ったのだった。
そして、その中で最も「小説が好きだ!」と全身で
訴えていたのが栗本薫だった。
やはり、今でもこの時期の諸作は大好きだ。
後期、どれだけ劣化しても、その時期がとんでもなく
長かったとしても、その作品群の輝きは、褪せない。
ログインしてコメントを確認・投稿する