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2009年05月27日00:59

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それぞれの、欠落 〜PALM『蜘蛛の紋様 III』〜

PALMシリーズ 第31巻『蜘蛛の紋様 III』読了。

29巻の『蜘蛛の紋様』第一巻から重たくて
仕方なかったが、ますます、重い。

仕方ない、分っている。

この70年代はジェームスにも、カーターにも
あまりにも暗く、重い日々だったのだから。

それは、今までの既刊でも過去の回想という形で
カットインされてきていたので、分っていた。

だが、読む前に漠然と想像していたものとは
やはり差異があり、驚きを禁じえない。

シニカルで老成されたイメージは持たれていた
ものの、その苦悩の根幹がここまで深い物だと
は思いもしなかったカーター。

常人の想像を絶するようなハードな人生を
幼少時より送っていながら、強烈な『強さ』を
揮い続けて諦める事を知らないジェームス。

今巻で具体的に酷い目に合っているのは
圧倒的にジェームスなのだが、カーターの
それと異なるのは彼には『絶望』がないからだ。

だが、カーターには『絶望』しかない。

手に入るものは須らく失われるもの。

和解しかけた母親と見守ってくれた父親、
そして、『父性』というよりも『親性』とすら
云えるかも知れない愛情と庇護をくれた
叔父レイフの死から以後もカーターは
全てを失い続けてきた。

彼には『失われる』事は確定された出来事であり、
それ故に真の愛情に目覚め、その慈しむべき
対象であるジャネットを見出し、初めてその腕に
抱く時、涙を流す。

彼の意思とは無関係に全ては失われ、
それに抵抗する事は無意味だと
思い込んで生きてきた青年が、
初めて失う事を畏れ、だが、それも
受容しなければという諦観が流させる涙。

この僅か一ページの描写に込めた
カーターの絶望は、凄まじい。

それが、何時しか癒される時が
来ると知っていてすら。

この物語は公式HPの発表によると
全5巻だそうだ。

後、2巻。

更に、彼らは失い、そして、『星の歴史』、
『あるはずのない海』でそれぞれに描かれた
カーターとジェームスの邂逅の震える程
美しい場面へと時が移るまでは、まだ
しばらくの時間がある。

相当に辛い場面が続く事だろう。

だが、それを彼らはくぐり抜け、
生き抜き、その結果としてそれぞれの
持ち寄ったピースを集めて『家族』という
単位を作るのだ。

つかの間の、だが、とてつもなく美しいそれを。

それぞれの欠落が作るピースを、
今しばらくは息を詰めて見つめなければ、
ならない。  

彼らの物語は、まだ続いて行く。
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