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2009年05月07日19:33

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必殺仕事人2009 第十三話『給付金対新仕事人』鑑賞

新メンバ仕立て屋の匳加入回。

しっかし、せっかくエポックになる回だというのに
このタイトルはヒドいわな。
もうちょっと何とかならんもんかね。

ま、ともあれ。

結構期待を込めて鑑賞。

前回の引きである以蔵殺しの先を越された
小五郎が謎の殺し屋を追う所から物語はスタートする。

手がかりは現場に残った『薫り』。
そして、その手口から主水が同業者と推定する。
今回は主水のウエイトが非常に重い話だったのが嬉しい限り。

ここから、新登場となる匳の人物の掘り下げとなる訳だが。

今回の悪事の被害者となる人間の旧知、というのは
ベタではあるが導入としては申し分ない。

口入屋での職探しを帳外れという事で番屋に突き出されようと
する伊助(浅利陽介)の窮地を救う所で初登場した匳だが、
その助け方も非常に個性的で、『悪たれ』と云われる
設定がきちんと活きていて良し。

門前でのトラブルを嫌い、金で匳を追い払おうとした上総屋の主・
松蔵(石丸謙二郎)の渡した銭をそっくりそのまま面前の乞食に
やってしまう強烈なプライドの高さも魅力的。

そのルックスは完全に新必殺仕置人時代の念仏の鉄であるが、
鉄の持っていた個性と抵触しないキャラ造りはこの時点では
成功していると思われる。

若さとプライドの高さは表裏一体だからねぇ。

伊助とその女房なつ(森田彩華)が暮らすのは
帳外れとして故郷を逃げ出した農民の暮らす土手。

そこに治安悪化の元、という事で退去を命じる任で
出向いたのが伝七と小五郎だった。

小五郎と伊助の元を訪れていた匳のファーストコンタクトとなる
シーンも素晴らしく美しかった。

荒涼とした土手で強い風の吹く中、強気に交渉を
持ちかける匳。小五郎の裏稼業を見逃す代わりに
帳外れの面々を見逃して欲しい、と持ちかける。

その匳に対して、小五郎は「裏の仕事で溜まった業を
人助けでチャラにしようなんざ、クズのクズだ」
と強いトーンで拒否する。

どうも、最近の小五郎はブレが見られる。

それを否定する事は、針医者である藤枝梅安(仕掛で大金を
得るからこそ、タダ同然で貧乏人を治療できる)や
やいとや又右衛門(やいと治療で月に幾度か無料の日を
設けている)を否定する事となる。

裏稼業にも様々なポリシィを持つ者がいるし、
それはそれぞれの勝手だ。

だが、小五郎は珍しく激昂した。

若手の理想論(小五郎にはそう見えたのだろう)の
危なっかしさに源太の影を見たか。

初期には主水以外の仲間とは関わる事をせず、
泰然としていた小五郎のこのブレは、恐らく初めて経験した
仲間の死によって起因しているのかもしれない。

結果は当たり前のように決裂し、匳が懐の得物に
手を伸ばす間もなく、その首に刃を突きつける小五郎。

これまでのシリーズでも、往々にしてこうした新規メンバとの
対立と対決は見られた。
必ず実力は伯仲し、双方矛を収める形となる。

しかし、今回は違う。小五郎が先を取り、完全に
勝負を制していた。

だが、小五郎は剣を収める。

ここで小五郎が何を思ったかは、正直不明だ。

伝七に仕置を目撃された源太は両者諸共
斬って捨てようとした小五郎とは思えぬ
矛盾。

折々口にする『裏稼業の非情さ』を自身が
実践出来ていない弱さが隠しようもなく
顕になり始めている。

そして、それを見事に指摘した者がいた。

中村主水だ。

自身番所で小五郎が顛末を報告した時の
演技は正に名優藤田まことここにあり!という程
見事さ。

最初は穏やかな『表』のトーンで語る小五郎の
話に相槌を打つのだが、「あれはただの馬鹿です。
長生き出来ませんね」という言葉を受けて、
ガラリと切り替わる『裏』の顔の迫力が素晴らしい。

「何故見逃したんでぇ?・・・二度もよ」

小五郎はこれに、答える事が出来ない。
小五郎自身がその矛盾に気付いていない所を
容赦なく主水は突く。

口ごもる小五郎に、更に一転して冗談めかした
口調に切り替え、「そうか、仕事以外の殺しはもう
うんざりだってぇんだねぇ?もう面倒くさかっただけですよね?婿殿?」
と笑顔で念を押す。

この口調の恐ろしさ。

主水は命じているのだ。

小五郎に『匳を殺してこい』と。

一言もそう云わず。

この三種類のトーンの使い分けは凄すぎる。
小五郎への呼び方も凝っていて、「おめぇ」「婿殿」「渡辺さん」と三種を使い分けていた。
こういう凝り方は嬉しくてならない。

そして、小五郎は一言も主水に返す事が
出来ずに自身番所を辞去する。

完全に貫禄の違いを見せ付けた形だ。

そう、これが中村主水なのだ。

途方も無い年月の仕置の地獄を潜ってきた男の
持つ凄みなのだ。

仕事人IIIからの主水はどうにもボンクラにしか
描写される事がなく、初期に見せていた犀利な
凄みはすっかり形を潜めていた。

よもや、それがこのような時代に新作で
見られるとは思わなかった。

眼福。

完全に小僧っ子扱いな小五郎だが、匳との
決着を着けるべく、その後を追う。

しかし、匳と小五郎が対峙している時、
伊助ら上総屋に利用されるだけ利用されつくした
帳外れの人々は粗末な小屋で無残に
虐殺される。

多勢に対して匳が立ち向かった所で、
地回りのヤクザ者に対して多勢に無勢、
殺されてしまうのがオチではあったろう。

だが、「恨み花は咲かせねぇ」と云う匳は
当然のように助けに入った筈だ。

小五郎の介入が無ければ。

ここでも小五郎は不思議な挙動をした事となる。

結果として匳を助ける形で。

ここにも小五郎のブレは見える。
極めて興味深い人物像の変遷と云えるだろう。

もう一点興味深いのは涼次の存在だ。

ここまであまり話に噛まずにいたのだが、唐突に
虐殺現場となる小屋に現れる。

敢えて想像を膨らませる。

恐らく、主水の指図があったのだろう。
小五郎が源太を信用せず、その最後の仕置の
現場に赴いたように、主水が小五郎を
信用していなかったとしたら。

いざとなれば、涼次は主水に匳を殺せ、という
指示を受けていたのではないだろうか。

敏感に小五郎のブレを察知していた主水なのだから、
それくらいの手を打ってもおかしくはない。

もっと云うと小五郎と諸共、でもおかしくはないとは
思うが、涼次の実力では難しいだろう。

その際は、主水自身が小五郎を殺すのかも知れない。

結局、伊助の死を見取る匳の姿に打たれたか、
涼次も殺す事は出来ず、その仕掛の針を収める。

若手の甘さと主水の凄みがよい塩梅に対比された回で
あった事を嬉しく思う。

そして伊助の末期に渡された財布から頼み料が発生する
訳だが、この描写は非常に素晴らしい。

伊助たちが身を立て、女たちが体を売らずに済むように
仕立てを教えようと匳は試みたのだが、それは
上総屋の悪事により阻まれる。

その伊助が匳に教えられた技術によって
作った物が財布だった。

匳に対して恨みを晴らして欲しいと願った訳では
伊助は、ない。

ただ、匳に教えられた技で作った物を縁に
託しただけだ。

それが仕事人・匳への依頼料となる。

この描写はひどく美しい。

故に匳は助っ人として小五郎のグループに
依頼をするが、その金を匳は取らない。

完全に筋の通った描写だ。

匳は与力や町年寄までが絡む悪事の仕置に
加勢を求めるが、意地を張った頼み方から
素直に頭を下げる姿まで、既に『らしさ』が
産まれている所も素晴らしい。
源太よりよほどキャラが立っている辺りが、
なぁ(笑)。

そして、遂に仕置が始まる。

涼次の的は地回り・熊五郎(壇臣幸)。
素早く針を打ち込もうとした所を、熊五郎の
呼んだ女郎の登場で水を差される。
その時の「やれやれ」という顔芸が面白い。
結局、長くなりそうだと踏んだ涼次が投げた
内掛けで視界を塞ぎ、一気に熊五郎を仕置する。

その際に気になったのが熊五郎に
止めの一撃を加える際に涼次が台詞を吐いた所。

視界を塞いでいるとは言え、無関係の女郎に
その存在を知らしめるようなマネはプロとして
あるまじき事・・・と思った訳だ。
案の定、仕置の針を引き抜き、素早く立ち去った
涼次の後に残された女郎が悲鳴を上げる。

だが、ここで次のアクションが起こり、涼次の意図が
知れる。

手下である熊五郎が殺された事を知った松蔵は
慌てて女郎屋を出る。

そこに待ち構えるのは匳。

つまり、女郎屋から松蔵が泡を食って単身出る
シチュエーションが必要だったのだ。

その為に、自然死に見せるために肩口から
心臓へ針を届かせて殺す涼次の仕置では
その結果は導けない。

それだからこそ、熊五郎に涼次は止めの
一言を掛けたのだ。

考え抜いた演出に拍手。

堀の中で待ち構える匳の仕置も秀逸だった。

橋に差し掛かった松蔵の足首に仕立て糸を
絡め、堀に引きずり込む。

驚く松蔵の首に糸を絡め、縊り殺すのだが、
肩に片足を掛けて固定した状態で糸を上に
引上げる仕置の形は新鮮。」

何度か見返して気付いたのだが、匳の親指の爪に
糸が通る糸道が出来ていたのがアップで
確認出来た。

三味線などの楽器に熟練した人間の爪に
出来る糸道がある、という事で仕事人としての
経験の豊富さを言外に伝える細やかな描写も
行き届いていて素晴らしい。

主水の仕置も凄みに溢れていた。
町年寄・南村彦左衛門(楠年明)に
一気に駆け寄り腹を突き刺す仕置は貫禄の
一言。

最早歩く事も大変な藤田まことでは
駆け寄る演技は不可能で、スタントに
よるものだが、突き刺した後の目の演技と、
倒れ伏した南村へ掛けた

「これでてめぇも帳外れだ」

の台詞の格好よさが全てだ。そして小五郎の仕置・・・と
思わせておいて、予想外のシーンへ。

仕置を完遂し、家へと戻る匳を迎えたのは
なんと中村主水。

仕置の金を受け取らなかった匳へ仕事人の
道を語る。

「金を取らねぇで殺しをすると、人じゃあなくなるぜ・・・」

この台詞は興味深い。

源太の際に語った台詞と真逆なのだ。

だが、源太の状況は『戻れぬ鬼の道』なのであり、
匳に語った『人』とはイコール『仕事人』なのだろう。

源太が持ち得なかった『仕事人としての矜持』に
主水は語りかけた訳だ。

この矜持が、市松や秀を仲間に入れる事が
出来た原因なのだろう。

今回の主水は本当に素晴らしすぎる。

そして、主水の差し出す仕事料を受け取る匳。
仲間として受け入れる笑みを浮かべる主水と、
若者らしさを覗かせる笑いを見せる匳の対比も
また、素晴らしかった。

最後に登場する渡辺小五郎。

彼の的は与力・田島民部(勝部演之)。

障子を突き破り、冥途の渡し賃である六文を
投げつけ、田島を挑発する。

激昂した田島が刀を持ち小五郎を斬ろうとする所を
神速の抜刀で仕置する。

この流れも面白い。

舞台は田島の屋敷であり、用人や下男などが
いない筈はない。

そこを与力と同心という絶対的に越えられない
身分の壁を利用して激発させる事で
斬り掛からせた上で、その上を行く技術で
切り捨てる仕置は初期小五郎の『汚い』
仕置や最近の正面から挑んで多人数すら切り伏せる
強烈な剣客ぶりともまた違う風合いだ。

恐らく、声を上げようとしたのであれば、
一気に切り伏せてしまっただろう。

これを余裕とみるか否か。

正直、とても危なっかしい。

これもまた、小五郎のブレの一つなのかも知れない。

最終回を迎えたとき。

小五郎の死すらもあり得るような不穏な流れを
感じる。

小五郎の感じる惑いがその死に繋がるような。

ここまでの玉櫛や源太の非情な扱いを見れば、
100%無いと云えるだろうか?

もし、そんな事態を迎えたら。

とてつもない傑作に『必殺仕事人2009』は
なるかも知れない。

なんてな(笑)。

さ、次の回も早く見ないとな。

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