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2009年04月13日18:23

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必殺仕事人2009 第十一話『仕事人、死す!!』鑑賞

源太退場。

思う所は色々ある。
まず第一に、これが過去作を見渡しても相当な異例だと
いう事。
仕置を行う仕事師で途中退場の前例は、
新必殺からくり人 東海道五十三次の塩八(古今亭志ん朝)のみ。
情報屋などでも無印仕事人の半吉(山田隆夫)と助け人の為吉(住吉正博)
が挙げられる程度だ。

ちなみに前述の塩八が殺しを披露するのは第一話と退場回の六話のみ。
殺しがメインというよりはサポートにその腕を見せるタイプであった。

そして、からくりの源太である。
プレシリーズである必殺仕事人2007より出演し、これまでは
全作出演。台詞の無い回などあったものの、ここまでの
レギュラーを退場させる、という事は明確な覚悟が
スタッフにあっての事であろう、と思い、性根を据えて鑑賞する。

前回ラストの大河内伝七に殺しの場面を見咎められた上、
目撃された事を小五郎に知られた源太の絶体絶命の窮地からの
スタート、だったが。

これが割合あっさりと窮地を脱出。

フォローの為に小五郎以外の仲間、主水と涼次が
動き、伝七を追い払う事に成功する。

ちょっと(大分)無理矢理という感もあるが、伝七は再三無能である
という描写(いい人なんだけどね)がされているので、
まぁギリギリOK、か。

それよりも興味深いのは、絶妙な主水と涼次のフォロー。

あまりにも都合が良すぎる、というか。

これは類推するに、源太が仕置をする現場には
付かず離れずで実はこの二人(乃至はどちらか)が
常に見守っていたのではないだろうか。

本職のからくりを巧みに操り、仕置を綺麗に決める
源太だが、何分まだ殺しは半人前。

そこをフォローするべく年長者二名が見守っていたのだとしたら。

なんとも微笑ましい事だ。

殺し屋の物語であるのに。

そして、源太が半人前であるが故に、今回の事件は起きる。

源太の母親を名乗る女・お富(浅野ゆう子)の登場だ。
とりあえず、露骨に怪しい。
それでも源太は信じようとする。
彼の養子(というのか?)作太郎すらが
怪しむにも関わらず、だ。

そんな中、お富は源太が実は油問屋大津屋の
子種であり、跡取りのいない大津屋に行って
店を継げ、という。

どうにも杜撰だ。

当初この話をお富が源太に持ち掛けた時は、
全て嘘であり、どこで源太を使い捨てようとするかが
悪事の肝だと考えていたが、実際にのこのこ
大津屋へ行った源太により、お富が大津屋の
女房だった事は真実だと判明する。

だとしたらとても奇妙だ。

大津屋での乱脈により、追い出されてしまった
女房であるお富。
その息子だと行って何の証明もない源太が
大店の主として迎えられる事がある、などと
考えられるだろうか?
大津屋に現在跡取りがいない状態だとしても、
どこのウマの骨とも知れない、ましてや
店を傾けた前科まである母親がでしゃばって来る
かも知れないような男は厄介者でしかないだろう。

「あの女の息子に譲るくらいなら、私一代でこの店は潰す」
という大津屋の発言は至極もっとも。
潰さなくても、番頭に譲るか、それこそ養子を
迎えればいい話でしかない。

そもそもの出だしが杜撰なのだ。

そのくらいの事が分らなくて『近江の女狐』などという
二つ名はちゃんちゃら可笑しい、と云わざるを得ない。

そんなコストパフォーマンスの悪い事を
する為にわざわざそこらのからくり職人を
引っ掛ける意味が不明なのだ。

結局敢え無く源太は跡取りとなる事を断られ(当然だ!)、
お富と末吉(岡本光太郎)、以蔵(菅田俊)は大津屋に
押し込み、皆殺しにして火を放つ。

・・・なんじゃそりゃ。

結局そんな暴力での凶行に出るなら最初からやれ。
知能犯ぶりたかったか?
それがあっけなく潰えたから押し込みか?

どうも、今作はここまでは『悪役の論理』が弱い。

そして、お富を信じたい源太を守る為。
貯めた金を全て吐き出して、作太郎は仕事人に
依頼する。

この逆転は面白い。
保護者である源太よりもその子作太郎の方が
余程世間知があるのだ。

流石は一人で(みたいなもんだろう)飲食店を
切り盛りするだけの事はある。

そして、遂に仕事人達の出陣となる訳だが。

主水と小五郎が同タイミングで仕置する
シーンは非常にスリリング。

小五郎が多数を相手に一気に切り込み、
騒ぎに気付いた以蔵を主水が一撃で
仕留めるなど、連携の妙と云える。

ま、出来たら小五郎の仕置は第五話の
時のようなワンショットで華麗に決めて
欲しかったかな。ちょっとテンポの悪さは
気になった。

涼次の末吉殺しは可も無く不可もなく。
フォーマットは纏まった観があるが、どうもそれが
スリルを失わせている気もする。

・・・また、武器変えるか(笑)?

そして。

再び行脚に出て次の獲物を探そうか、という
お富の前に現れたのは源太。

「本当の事を話してくれ」とお富に頼むのだが、
これも甘い、としか云い様はない。

仕事人たちが依頼を受け、他の仕置は遂行されているのだ。
最早、『咎あり』なのだ。

しかし、源太はそれにも関わらず、言質を
欲しがった。回心の期待・・・に基づいた
物であるとしたら、それは遅すぎるだろう。

だが、お富の空涙と「奉行所へ出頭する」という
言葉にあっさり騙される源太は間違いなく仕事人ではない。

例えば。

勇次であれば、その言葉を聞いた時点でお富の首に
三の糸を掛けるだろう。

鉄であれば、有無も言わさず骨を外すはずだ。

小五郎であっても然り。声も掛けずに斬るだろう。

あっさりと騙され、背中まで貸した上で
その腹を短刀で抉られる源太の有様は、
自業自得、としか云い様がない。

その後のお富の勝ち誇ったような、

「外道を甘く見るんじゃないよ!!」

という台詞が寧ろ痛快に響く程だ。

裏稼業の心意気、とすら云えてしまうかも知れない。

倒れ伏す源太へ止めを差すべく挑みかかる
お富の手から短刀を奪い、それを彼女に向けてすら、
源太はお富を殺せない。

「殺せ!」と叫ぶお富に
「厭だ、もう誰も殺したくねぇ」と泣く源太は仕事人である事を
全く放棄している。

このあたりの源太の台詞、展開は『必殺』というよりは
寧ろ『太陽にほえろ!』だ。
マカロニやジーパンの死と重なるような台詞が聞かれた。

この源太の有様は、正直、非常に腹立たしいというのが
私の初見時の感想だ。

裏稼業の人間が、その覚悟を忘れた時。ふとした油断を
した時。人の縁や繋がりに囚われてしまった時。

どのように死んできたかを、今までのシリーズのファンは
見てきた。

それでも、この源太ほどみっともない様を晒す事はなかった。

惨めな、単なる裏切られた若者の死。

それだけである筈だった。

だがしかし。

そう、だがしかし、だ。

お富が源太へ告げた「これからも人を騙し、踏みつけて生きていく。
それが私の生き方だ」という台詞を聞いた時。

源太は最後の力を振り絞り、からくりの蛇を打ち、お富への
仕置を成し遂げた。

第一作必殺仕掛人の前口上に曰く。

「晴らせぬ恨みを晴らし、
許せぬ人でなしを、消す」

とある。

つまり、最初期の仕掛人の『理念』においては
「恨みを晴らす」事とい同じウエイトで、「これからも
世に害悪を流しそうな人でなしを消す」という
再犯防止の意もあった。

時が下って仕事人たちの理は『恨みを晴らす』事に
しか無くなってしまったが、当時はそうだったのだ。

この時、お富の首に仕置の蛇を絡みつけ、桜の樹へと
吊るした時、源太は何を思ったろうか。

お富が生きている限り、増えていくであろう無辜なる犠牲者。

それを生み出さない為に、私情からではなく、お富を
殺したのだとしたら。

源太は、歴とした仕事人だ。

必殺仕事人2007で惚れた女の死の恨みを晴らすべく仕事人となった青年が、
それを徹底出来ず、遂にその死を迎えた時。

遂に彼は仕事人としての死を死んだ。

喜ぶべき事であろうか?

源太の仕置が完遂され、全てが終わった時に
現れたのはやはり渡辺小五郎だった。

興味深いのは、自身の仕事を終え、帰路に
着く涼次がその途上に何かを察知し、戻ろうとするが
思いとどまり、やがて闇に姿を消す。

涼次は源太が仕事人として成長する事を
信じたのだろう。

そして、小五郎は、おそらく。

疑った。

その結果が、このシーンに表れている。

お富を仕留めたままの姿勢で息絶える源太を、
見据え、そのからくりの蛇を小五郎は
一刀の下に断ち切る。

偽りのみで支えられたその関係が繋ぐ糸をを遂に、
完全に断ち切るかのように。

それは、ある種小五郎の源太への手向けで
あったのかもしれない。
小五郎は初めて、源太に対して感情を
露にした(それでも、ほとんどそれを表に
出さない小五郎にしては、だが)表情が
それを物語っている。

そして、「鏡花水月」が流れ。

源太を火葬に付す仕事人たち。
それぞれの思いをそれぞれが
噛み締める中、包まれた炎の中で。

源太は一瞬カッと目を見開き。

焼け崩れる中へと消えた。

それは。

「地獄への道に後戻りは出来ない」と云った
小五郎の台詞を受けるかのような。

仕事人として、鬼として死んだ源太の
永劫に続く苦しみの始まりを、示唆しているように
私には思えた。

それは、死後も安楽はない、
仕事人という鬼の末路、なのかも知れない。

鑑賞中、途中まではサブタイトルは不適格だ、
と思い続けながら見ていたが、この無常の
ラストにより。

このサブタイトルにこの物語が相応しい、という
事が知れた。

この後に続く渡辺家の描写も完璧であり、
それが何とも嬉しい。

正直、話は不出来であったが、この後半20分の
素晴らしさは、流石という出来であった。

今後も、期待しよう。

とまれ。

合掌。
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