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2009年04月03日14:36

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バーント・ウィーニィ・サンドウイッチ

ナオミが街道をとてとてと歩いていると、
暖かい春の風が吹きました。

ナオミはお母さんに頼まれて、アップルベリータルトと
バナナのキッシュを買いにお遣いに出ています。

夕食と朝食でそれぞれ食べられるのですが、
どちらもナオミは大好きなので、
足取りも軽くなります。

唯一気がかりなのは、どちらを先に食べられるのか、
でやきもきしてしまうのですが、どちらも
比べられないくらいの好物なので、
どちらでも嬉しいのだ、という事に気付きました。

春の陽は暖かく、思わず歌なんかも飛び出しそうです。

すると。

街道の南を目指して歩くナオミに向けて、
全速力で走ってくる男の人がいます。

ぶつかってしまっては大変だわ、という事で
どうやって避けようか、とナオミが考えている間に
男の人は急ブレーキを掛けるようにナオミの前で
止まりました。

「おや!これは助かった。ナオミさんですね?」
男の人は汗だくの額を取り出したハンカチで拭きながら
にこやかに声を掛けてきます。
「あら。どうして私の名前をご存知なの?」
「そうですそうです!王様がナオミさんにお会いしたいという
お願いをされましたので、呼びに行く所だったのですよ」
「まぁ、王様が?・・・でも、私は王様とお会いした事も、
お話しした事もございませんが・・・」
ナオミは心持ちもじもじとしながら男の人に云いました。
正直な所、ナオミは王様のお顔もよく知らないのでした。
まだ小さいナオミの関心は、近所のお友達との遊びや、
そろそろ汚れが目立ってきたいつも一緒に寝るぬいぐるみの
ヨーシャでいっぱいです。
「いいんですいいんです。王様もまだナオミさんと
お会いした事はありません。とてもナオミさんがいい子だという
噂を聞いて、是非会ってみたいと言い出したんです」
「まぁ!とても嬉しいですけれど・・・まだお遣いの途中なの」
「おお!やはり噂に違わぬよい子だ!いいですいいです。
ご心配なさらず。私がおうちまで行って、ナオミさんが王様に
お会いになられる事をご説明してあげます。買い物も
私が替わってやりましょう」
そうまで云われると断る理由もありません。
買い物の品目を男の人に告げて、お願いする事にしました。
「あの・・・お城に行くのはとても楽しみなんですけれど、
夜ご飯に間に合うようには帰りたいんですけれど」
ナオミが食いしん坊だと思われないようにもじもじと
切り出すと、男の人は
「おお!おお!大丈夫です大丈夫!楽しいですよ、お城は!」
と云いました。
そして、ナオミはアップルベリータルトとバナナのキッシュを
食べられるかどうかに少し頭を悩ませながら、お城へ行く事となりました。

初めて訪れたお城はとてもきれいで、広々としていました。
迎えの兵隊はきらきらとしたモールで胸元を飾り、とても
誇らしそうにナオミを迎えました。
ちょっとお姫様になったような気分を味わえて、ナオミは
楽しい気持ちになりました。
街の大通を端から端へ歩き、大きな門をくぐりました。
そこからさらに大きな橋を渡り、とてもとても大きな扉が
開いて、ナオミは中へ入ります。

そこには王様がいました。

とても豪華なマントをはおり、とてもとても大きく重そうな
冠を被っています。どれもこれもナオミが
見たこともないような物ばかりでナオミは目を丸くしました。

しかし、何より驚いたのは。

王様はナオミの想像していたよりもずぅーっと若かったからです。
ナオミのお兄さんとあまり変わらないかもしれません。

「ようこそようこそ!僕が王様です。来てくれてありがとう!」
王様は満面の笑みでナオミを歓迎してくれました。
「王様?どうして私などをお城にお招き下さったんです?」
「おお、おお!その丁寧な言葉遣いも素晴らしい!ナオミさんに
是非お城の暮らしを見て頂きたいと思ったので、お呼びさせて
もらったのですよ!」
王様はおおきな身振りでナオミに説明をしました。
「どうして私にお城の暮らしを?とても嬉しいですけれど・・・」
「ああ、ああ!せっかく来て頂いたんだ!どうぞこちらへ。
奥の間をご案内しましょう!」
ナオミの疑問には王様は答えてくれず、ナオミは更に中へ
通される事となりました。

「さぁ、こちらの扉からどうぞ!僕はこちらを通らねばならないので!」
ナオミは王様に指差された扉を開きました。
これはナオミの家にあるのと大きさは変わらないので、
ナオミは少しほっとしました。無論無数に表面を飾る装飾は
素晴らしい物で、この扉一枚でもとてもナオミの想像も付かない
程の価値のある物であろう事は伺えました。
王様はその隣にある更に大きな扉をひーふー云いながら開き、
さらにその先のとても高い階段を上がり、ぐるりと巡らせたとても
長い廊下を歩き、ようやくナオミがいる隣の部屋へとやってきました。
その姿はとてもよく見渡せました。
「やぁやぁ、お待たせ致しました!」
王様は軽く汗をかきながらナオミの所へやってきます。
「王様、どうしてそんなに遠回りするんです?私が
通った扉を通ったらすぐだったわ」
「ああ、ナオミさん。王様というのは、常に皆に元気な姿を
見せていないといけないのです。だから、隣の部屋へ移るだけでも
ぐるりと高い所を歩いて、皆に今日も僕が元気だという事を
報せているのです」
「いつもいつもそんなに遠回りをしなければならないのですか?
大変!」
「いやいや、毎日の事ですから。そうだ、ナオミさん。
ごはんを食べませんか?お腹が空いているのではありませんか?」
ナオミはお城まで長い事歩いたので、とてもお腹が空いていました。
「でも、おうちでアップルベリータルトを食べたいので・・・」
「何、アップルベリータルト!僕も大好物なので、毎食用意して
貰っています!とても美味しいんですよ、王宮の料理人が
作ってくれるのは!是非どうぞ!」
ナオミはそうと聞くと虫の音を鳴らしそうなお腹に我慢が
出来なくなってしまいました。
「では、こちらに食卓があります!そこの扉からどうぞ!
中に美味しいごはんが用意してあります。僕はこちらから
行きますので、少し待っていていただけますか?」
王様は、また別の扉を指差しました。
また、ぐるりとお城の高い所を巡らなければならない
王様は大変なお仕事ね、とナオミは思いました。

おおきなおおきな食堂にしつらえられた食卓は
これまたとても大きな物でした。
そこにはナオミが今まで見た事もないような食べ物が端から端へとずらりと並んでいます。
「どうです。遠慮なくどうぞ!」
やがて再びふうふう云いながらやってきた王様が、
ナオミに云いました。
「とっても素敵です!でも、こんなに食べきれないわ」
「食べられるだけでいいのですよ、ナオミさんはまだ!
とても美味しいですから、沢山食べられるとは思いますが」
「王様も残されるの?」
「僕ですか?僕は全部食べなければいけません!
せっかく国民のお金で、有能な料理人が作ってくれた
物なのですから!」
「これを全部ですか!?大変。少し少なく作っていただけないの?」
「王様は健康でなければならないので、これくらい
食べてみせないといけないのです。国民が心配してしまうので」
やはり、王様というお仕事は大変だわ、とナオミは思いました。

お料理の数々は、見た目も素晴らしいですが、味は
それ以上に素晴らしいものでした。
ナオミはこんなに美味しい物を食べた事ありません!と
食べ物を口に入れる度に歓声を挙げなければなりませんでした。
方や王様は脂汗を流しながらそれでもにこやかな表情を崩さずに
ナオミとお話しをしながら料理を口に運んでいます。
とても美味しそうには見えません。
ナオミはそんな王様を心配に思いながら、それでも楽しく
ごはんを食べていました。

すると。

「大変です、王様!!」
突然、息せき切った兵隊が食堂に駆け込んできました。
とても慌てています。
「どうしました?」
王様が問うと、
「大変です大変です!隣の国の王様が攻めてきました!」
王様は、やっと来たか、というように
「分りました、すぐに行きます」
と兵隊に言いました。

ナオミは心配でなりません。
「王様、隣の国と戦いになるのですか?」
「う〜ん、攻めてきたという事はそういう事ですね」
「大変!ウチのお父さんも軍隊に入らなければならないのですか?」
ナオミのお父さんやお兄さんが戦争に行ってしまうのは、
とてもナオミには悲しい事です。
「ああ、大丈夫ですよ。まずは戦うのは僕ですから」
「え?」
「僕が行くんです」
「王様が?指揮なさるんですか?」
「いえいえ。僕と隣の国の王様の二人だけで戦うのですよ」
「そんな!まるで国同士の戦いではないではないですか?」
「こういう時に、一番に戦わなければならないのは、その国の
一番偉い人なのですよ。この国では僕です。僕から
行かなくてはならないのですよ。後は順番です。
僕たちが死んで決着が付かない時は大臣たちが。
それでも駄目なら将軍達が行きます」
まぁ、いつもそれくらいで決着が付くらしいですけれど、と
王様は笑いました。
「王様というのは、とてもよい暮らしをさせてもらいます。
・・・いい暮らしだと皆が思うような。正直、やってみると
全然いい暮らしなんかでは無いんですけれど、それでも
皆に支えられて生きているんです。だから、こういう
事が起こってしまったら、当然そういう暮らしをさせて貰って
いる人間が戦いに行かなくてはならないのですよ」
「そんな!ならどうして戦いなんて起きるんです?偉い人同士が
戦わなければならないなら、誰もやりたがらないでしょう?」
「僕にも分りません。誰かが決めているんですね。誰かと言うのは
多分、『皆』なんだと思います。王様や大臣は、一回なったら
変わりません。それこそ死なない限り。で、『皆』がそろそろ
王様や大臣が変わった方がいい、と思った時」
王様は、初めて苦い顔をしました。
「戦争が起こるんです」
「・・・王様」
ナオミは悲しくなります。王様とお話しをして、とても
彼が好きになっていたからです。
「せっかくお友達になれたのに・・・」
ナオミが溢れそうになる涙を押さえながら、云いました。
すると、王様は
「お友達?それは違います」
と云いました。
「ナオミさん。貴方はとてもよい子です。
なので、次の王様になってもらおうと思っているのですよ」
「私が!?次の王様!?どうしてなのですか?」
「・・・隣の国の次の王様は女の人らしいのです。
あまりハンデがあってはいけないので、性別はそろえるのが
ルールなのですよ。次に戦争が起きたら、ナオミさんに戦ってもらわなければ
ならないので」
王様は、少し可哀相な物を見る目で、ナオミを見つめながら
云いました。
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