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2022年01月08日15:43

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エベーヌ四重奏団「ベートーヴェン弦楽四重奏曲全集」その5

【収録曲】

Disc5
 1 弦楽四重奏曲 第2番 ト長調 Op.18-2
 2 弦楽四重奏曲 第11番 ヘ短調 Op.95 「セリオーソ」
 3 弦楽四重奏曲 第10番 変ホ長調 Op.74 「ハープ」

エベーヌ四重奏団
 ピエール・コロンべ(Vn)
 ガブリエル・ル・マガデュール(Vn)
 マリー・シレム(Va)
 ラファエル・メルラン(Vc)

録音:2019年10月30日,メルボルン・リサイタル・センター
ERATO 9029533981(ライブ)


エベーヌ四重奏団が完成させたベートーヴェン弦楽四重奏全集の5枚目。初期の作品18から第2番,中期の作品から第10番「ハープ」と第11番「セリオーソ」の演奏が収録されている。初期と後期の作品がカップリングされることの多いエベーヌQの全集の中ではユニークな組み合わせのディスク。

このCD5はエベーヌQの強みを発揮した録音といえる。つまり,3曲の個性を的確にとらえて,それを明快に表現している。とくに「ハープ」と「セリオーソ」でこのカルテットの長所が際立つ。このディスクを聴いていると,第10番と第11番とがなぜ「ハープ」や「セリオーソ」と呼ばれるのか自然に理解できる。

第2番は最も初期の弦楽四重奏曲らしい作品かもしれない。作品全体の雰囲気が優雅であり,バランスの取れた楽曲にきこえるから。ハイドンやモーツァルトの精神を受け継いで書かれた弦楽四重奏曲であることが一聴瞭然。それでいてベートーヴェンの個性もちらつく。第1楽章はこうした典型だといえそうだ。エベーヌQの演奏はこのような曲の特徴を巧みに引き出している。第2楽章の冒頭は息の長いメロディーが支配的な作品。楽章の途中でアレグロに変わり,違うモチーフが登場する。この変化と統一をうまくまとめきれなかった演奏のような印象も。第3楽章はスケルツォで,ベートーヴェン初期のスケルツォの雰囲気を上手に表現した演奏だ。第4楽章はベートーヴェンらしさが全開の音楽。第1楽章から第3楽章までのエッセンスをすくい取ったような小気味よいモチーフが疾走する。エベーヌQの演奏はまるでラズモフスキー・セットの1曲であるかのよう。

第11番「セリオーソ」の原題は”Quartetto serioso”で,ベートーヴェン自身が与えた名称。第1楽章の冒頭に置かれたユニゾンで奏される荒々しい主題を聴くだけで,この曲がなぜ「セリオーソ」なのか直ちにわかる。エベーヌQは真剣になり過ぎることなくこの主題を表現している。第2楽章は静かに演奏されかなり線の細さを感じさせる楽章。直前の楽章とのコントラストの大きさに戸惑うようなエベーヌQの演奏といえる。第2楽章から休みなく続く第3楽章はベートーヴェン中期の音楽そのもの。ダイナミズムとメロディーを作曲者の流儀で調和させているところをエベーヌQは的確に捉えている。ロンド形式の第4楽章は短い緩やかな序奏で始まる。序奏から取ったような主題がそれに続き,次第に切迫感に満ちた音楽へと発展する。突如アレグロに変わり,唐突に曲を閉じる。エベーヌQはこの第4楽章で何を表現しようとしたのか,必ずしも明らかでないような印象を与える演奏である。

第10番の愛称「ハープ」は第1楽章に現れるピッイカートの動機に由来する。「ハープ」の伸びやかさやロマン的な感情は,ラズモフスキー・セットの口直しなのかも知れない。息の長いメロディーと随所に散りばめられたピッツィカートの主題が,ラズモフスキーのような楽曲に区切りをつけたいというベートーヴェンの意思を物語っているようだ。エベーヌQはロマン派風の情緒をさりげなく表現する。第2楽章は,多くの旋律が織りなすロンド形式。前楽章以上に旋律の美しさを引き立てる静かな演奏である。第3楽章はトリオが2回繰り返されるスケルツォ。第2楽章の静と好対照の動がきわだつ演奏であり,ベートーヴェンの特徴があふれかえるスケルツォ。メロディーに焦点を当てたロマンチックな要素の強い表現。第4楽章は主題と6つの変奏,コーダからなる変奏曲。変奏曲といっても表面的な変奏で,主題の性格を変えてゆくベートーヴェン晩年の変奏ではない。そのような事情もあって,やや拍子抜けする演奏となっている。

エベーヌQは作品の特徴をとらえるのがうまい。そして,曲の特徴を演奏で表現するのは,その数倍も上手だ。これまで,ベートーヴェンの作品18の6曲,そして「ハープ」や「セリオーソ」は苦手としていて,繰り返し聴いても作品の性格をつかめずにいた。しかし,エベーヌQの全集を聴いてみて,これまで不得意としていたこうした点をかなり改めることができたようだ。
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