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2018年01月08日11:55

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低価格流通米を作らない農家の成功談

「ブランド米は高くて当然」はハッタリか?
脱サラ農家が頂点に立ったわけ
吉田 忠則
2018年1月5日(金)

 2018年のこの連載は、農産物のブランド化について考えることから始めたい。取り上げるのは、連載の「常連」とも言うべき農業法人、越後ファーム(新潟県阿賀町)を運営する近正宏光氏だ。

 本題に入る前に、越後ファームについて簡単におさらいしておこう。近正氏が稲作に参入するため、同社を立ち上げたのは2006年。当時、34歳だった近正氏は都内の不動産会社に勤めるサラリーマンだった。

 もともと社長の指示で始めた農業だったが、やがて農業こそ自分の本業と思うようになり、越後ファームごと不動産会社から独立した。独立後は資金繰りなどで苦労したが、事業は順調に発展している。

 近正氏が一貫してこだわってきたのは、自社のコメをブランド化することだ。阿賀町という中山間地でしか田んぼを借りることができなかったため、効率的に作って価格で勝負する道は最初からふさがれていた。

 そこで近正氏はコメを丁寧に作るだけでなく、いつ発注が来てもおいしく食べることができるように工夫した。具体的にはコメをモミのまま倉庫に入れた。玄米で保管するのと比べてかさばるが、鮮度を保つことを優先した。保冷には電気ではなく、雪を使い、湿度を高くしてコメの乾燥を防いだ。

プロが認めるおいしさ

 農家の7割がコメを作っている中で、10年余り前に稲作を始めたばかりの近正氏の成果は突出している。連載でくり返し取り上げたエピソードだが、東京都中央区の日本橋三越本店にある唯一のコメ店は近正氏の経営だ。

 日本航空の日本発の国際線のファーストクラスとビジネスクラスも、2016年から越後ファームのコメを使い始めた。もともと「最強のブランド」、南魚沼産のコシヒカリを使っていたが、日航の職員がブラインドで食べ比べた結果、越後ファームに軍配が上がり、切り替わった。

 さらに画期的なのが、東京都港区の高級和食店「くろぎ」が越後ファームのコメを採用したことだ。「日本一予約の取れない店」と呼ばれる同店を運営するカリスマシェフ、黒木純氏は越後ファームのコメにほれ込み、2015年以降は他のルートからコメを仕入れるのをやめた。

 おさらいは、ここまで。ほとんどのコメ農家が「米価は安い」と愚痴り、「もうからない」と嘆く中、驚くべき快進撃と言えるだろう。2018年は次の一手を打つ予定だが、その紹介は別の機会に譲りたい。

 ここで確認したかったのは、越後ファームのコメのおいしさがコメを扱うプロの評価を得ているという点だ。それを踏まえずに今回の取材内容だけ切り出すと、近正氏の言葉は「はったり」と受け止められかねない恐れがある。それを避けるため、越後ファームの実績を駆け足で紹介した。

 今回の取材は、コシヒカリを継ぐブランド米として新潟県が推す新品種「新之助」を、越後ファームが作り始めたことがきっかけだ。

 まずインタビューの前に商品を確認しようと思い、12月初めに日本橋三越本店の越後ファームの売り場を訪ねた。ところが、目指す新之助は見当たらない。正確に言うと、赤い袋が印象的な一般の新之助はあるのだが、越後ファームが栽培した新之助はなかった。店員に聞くと、「もう売り切れました」。2017年産のシャッターチャンスを逃してしまったわけだ。

 越後ファームの売り場での値段は一般の新之助が5キロで3500円。ふつうのコメと比べると十分に高値だが、越後ファームは5000円とさらなる高額だ。事前に近正氏から「うちの新之助のほうが売れてます」とは聞いていたが、10月半ばに売り出して、1カ月半で売り切れるとは思わなかった。その判断ミスが、シャッターチャンスを逃すことにつながった。

 店頭に出した越後ファームの新之助は合計で約1600キロ。5キロと1キロ、2合の3種類のパックで売り出した。その個数の内訳はわからないが、1カ月半で数百人の顧客がこの高値のコメを買った計算になる。

「高くてもいい」

 高い方から先に売り切れる――。ブランド戦略の真骨頂と言うべき結果だろう。その理由を近正氏に聞くと、こう答えた。

 「あの店は新規でふらっと来て買う人はほとんどいません。『おいしければ、高くてもいい』と考える人がリピーターです」

 ふつうの新之助はスーパーでも買うことができる。だが、越後ファームの新之助は、「あの店でしか買うことができない」。安いコメを探すのが目的ではなく、おいしいコメを買うために三越を訪れる人たちを常連客としてつかんだことが、高値の新之助が売れたことの背景にある。

 質の違いはパッケージでも演出した。ふつうの新之助はビニール袋だが、越後ファームの袋は高級な民芸品をイメージさせる特注の紙製。栽培にも気を配り、農薬と化学肥料は地域の平均の半分以下に減らして育てた。

 ここで1つ疑問がわく。いくら越後ファームがまじめにコメを作っているとは言え、新品種の新之助をいきなり作ってうまくいくものなのか。答えは否。2016年にも試験的に作ってみたが、「できは悪かった」。

 「雑味が多く、甘みも少なかった。収量が多すぎたんです」

 一概には言えないが、コメは肥料をやり過ぎて収量が増えると、味が落ちる傾向にある。越後ファームの田んぼは山あいにあり、大規模に効率的に作るのには適さないが、土壌は肥沃だ。その結果、指導通りに作ったら、収量が過剰になった可能性がある。そう考え、2年目の2017年は肥料を入れるのを抑えたところ、期待した通りの食味に仕上がった。

 では、本格的に栽培した2017年も思ったような食味にならなかったら、どうしたのだろう。この問いに、近正氏は「越後ファームの新之助としては店に出しません。うちは一般の新之助も新潟のいろんなところから仕入れて売っているので、それと一緒に出します」と答えた。

 微妙な話だと思った。自分の圃場で作って求める味が実現できなかったら、越後ファームの看板を外し、一般の新之助と一緒にして売るというのは、新之助という品種のブランド価値にとってプラスになるだろうか。この点を重ねて問うと、近正氏は逆の角度からその意味を説明した。

 「収穫後に食べて味を確かめます。それで満足いかないなら、越後ファームのコメとして高い値段をつけるわけにはいかないんです」

ブランドの本質を突く

 この辺りで近正氏の語り口は熱っぽくなっていたが、内容は冷徹だ。この冷ややかさは、コメのブランドというものの本質を突いている。

 コメのブランド競争が盛んになっている。その頂点とされるのが、食味ランキングの「特A」だ。審査の対象になるのは、産地と品種。だが、審査をしている日本穀物検定協会が「流通するすべてのコメを評価しているものではない」と強調しているように、持ち込まれたサンプルで特Aを取った品種が、すべて審査時の品質を保っている保証はない。産地の農家全員が、同じレベルのコメを生産しているとは限らないからだ。

 越後ファームと同様のことは、新規就農でイチゴを栽培している農家からも聞いたことがある。「うまくできたイチゴは自分で直接売ります。そうでなかったものは、農協に出荷します」。工業製品と違い、コメを含め、農産物は出来不出来の差がどうしても避けられない。それをひとくくりでブランド化するのか、選りすぐって高値で売るのかで販売戦略に違いが出る。

 この点は、本来は大きなポテンシャルを持つ農協が乗り越えるべきハードルを示唆しているのだが、今回の本題ではないので、話を先に進めよう。

 越後ファームのコメのボリュームゾーンは、5キロで5000円のコシヒカリという高級米。2017年産でそれに新之助も加わった。だが、もっと破格の高値のコメがある。何と5キロで2万5000円。農薬も肥料も一切投入せず、掛け流しの雪解け水だけで作ったコメだ。

 有機肥料を使う有機農法と区別するため、一般に自然農法と呼ばれている。越後ファームは田植えも稲刈りもすべて手作業。「何も入れない」を徹底するため、収穫時に藁が田んぼに残らないようにしている。機械で脱穀してコメが傷つくのを防ぐため、使うのは昔ながらの千歯扱きだ。

 この超高額米については、これまでも何度か紹介してきたが、今回改めてふつうなら手を出しにくい高値の意味を聞いてみた。ちなみに、このコメは固定客がついていて、事前に予約が入るため、店頭にはまず出ない。

値段はシンボル

 「値段は経営者の思いで決めていいんですよ。商売チックな言い方になりますが、シンボルなんです」

 農業は効率的に食料を供給するため、有機肥料から化学肥料へと資材を発展させてきた。そのどちらも投入せず、水を流すだけで高い収量を上げることは不可能。そもそも生産効率の低い中山間地で、効率を一切省みずに作っているのが2万5000円のコメなのだ。

 どれだけ効率が低いかは、次の言葉でわかる。

 「この地域では、収量を10アール当たり480キロくらいに抑えるとおいしくなると言われてます。僕らの田んぼは420キロくらい。でも、肥料を入れない掛け流しの田んぼは60〜120キロしかありません」

 近正氏はこの言葉に続き、「それが限界なんでしょう」と淡々と話した。「水だけなら、ふつうは育たない。それでもある程度は育つ」。そういうぎりぎりの環境で作っているので、病気が出れば全滅する恐れもある。2017年産はイノシシの被害にも遭った。近正氏は「それでもいい」と話す。

 「本当にてっぺんのコメは、売り上げがゼロ円でもいいんです」

 くり返しになるが、2万5000円のコメは毎年確実に売り切れる。だが、そのコメを大量に売ってもうけようとしているわけではない。それでも、と言うよりそれだからこそ、このコメをシンボルにした。

 「いつも言っているのは、付加価値と差別化。他と同じことをやっていたら、勝てない。後発なので、とんがっていくしかないんです」

 だが、肥料をやらずに作ったコメは本当においしいのか。この問いに、「コメ本来の味。僕はおいしいと思う」と言いながら、こう続けた。

 「そこはもう、味ではないんです。有機農法より自然農法の方がストーリーがあるし、値段が高くても、それだけのことをやっていれば、全員とは言いませんが、納得してくれる人がいるんじゃないでしょうか」

高根の花だからこそ

 冒頭で、コメのプロが越後ファームを評価していることに触れたのは、この言葉にたどり着くためだ。もし、日本一予約の取れない高級和食店や日航の国際線のファーストクラスで採用されていることを知らなければ、近正氏の言葉は品質の裏づけのない刹那的なブランド戦略と響いたかもしれない。以上を踏まえたうえで、近正氏の次の言葉を紹介しよう。

 「安いもの作っても、ブランドにはならないんですよ。グッチもヴィトンもエルメスもたくさんの女性が好きじゃないですか。あれ、安かったら興味を持ちますか。高根の花だからこそ、ブランドになるんです」

 農業の世界には生粋の生産者とでも言うべき人たちがいる。近正氏も自分のことを「生産者」と強調するが、おそらく彼らの中には、あまりにも輪郭のはっきりした近正氏の戦略性に違和感を持つ人もいるだろう。

 もちろん、黙々と自然と向き合い、長い時間をかけて研ぎ澄ました技術は尊い。額のしわが技術の高さを証明しているような農家を、メディアがもてはやすことも少なくない。農業にそういうイメージを抱く人たちにとって、越後ファームの踏むステップの速さは異質のものと映るかも知れない。

 一方で近正氏は「有名なレストランでも、コメを大事にしているところは少ない」と強調する。ここにブランド戦略の核心がある。コメをまじめに作るのは当然。だが、そのコメを最高の状態で顧客に提供する店と組み、大切に炊き上げてくれる消費者をつかまなければ、本当においしいコメを提供したことにはならない。それが、三越であり「くろぎ」なのだ。

 今回はここまで。2013年にこの連載を始めて以降、現代の篤農から大規模経営、若者やシニアの新規就農、有機農業、市民農園、最新の農業テクノロジー、植物工場など農業に関連するテーマは次々に広がっていった。いずれも根底には、超高齢化社会へと突入する日本の変化がある。その大きなうねりにおいて行かれないよう、今年も取材を深めたいと思う。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/252376/010400126/
自然農法で作られた野菜を食べたことありますが、味が濃いです。
野菜の好きな方にはたまらなく美味しく感じるでしょう。
ニンジンなんて昔食べたニンジンの匂いがしますw

でも野菜嫌いの方や香味野菜が苦手な方にはあまりお勧めできません^^;

自然農法米なら甘みが増すみたいなので人気があるのでしょう。
このブランド米食べたい気もしますが、いつも売り切れじゃ仕方ないですねw
一度でも食べたら普通の米が食べられなくなったりして^^;;

TPP11で日本の農作物が海外に輸出もされますが、逆に外国製品が入ってきて競争が厳しくなります。
安さだけを売り物にすると消耗戦なって自滅しそうです。
日本の農家や農協は居心地の良いムラ社会を構造改革する時期に来てます。

日本の製造業や都市銀行が統廃合した時の混乱を第一次産業も体験することになるでしょう^^;;
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