mixiユーザー(id:7846239)

2024年04月20日17:57

59 view

アンデルシェフスキ『バルトーク,ヤナーチェク&シマノフスキ』

【収録曲】

1 ヤナーチェク:「草陰の小径にて」第2集(1901〜8)JW8/17
2 シマノフスキ:「20のマズルカ集Op.50」(1924〜26)より第3,7,8,10,5,4番
3 バルトーク:「14のバガテルOp.6 」(1908)Sz.38

ピョートル・アンデルシェフスキ(ピアノ)

2016年10月,ワルシャワ放送��
2023年7月30日〜8月2日,テルデック・スタジオ,ベルリン��&��
Warner Classics 5419789127


東ヨーロッパで活躍した作曲家三人の作品集。全てピアノ独奏のために書かれた音楽ばかり。民族音楽の色彩が濃厚だと考えられるが,作曲年を考慮すると現代的な要素も少なからずある。出身地はヤナーチェクがチェコ,シマノフスキがポーランドそしてバルトークはハンガリー。比較的有名なヤナーチェクとバルトークについては省略するとして,シマノフスキの略歴を記す。1905年,ベルリンで「若きポーランド」という作曲家グループを結成。最初,R.シュトラウスの影響を示し,ついでスクリャービンを通じてロシア音楽の影響を受け,さらに印象派にも傾倒する。第一次大戦後は新古典主義へと進む。器楽曲の反ロマン的・理知的な作風が特徴。

これら三人の作曲家の特徴はある程度理解していると思う。バルトークは三人の中で最も多くの作品を聴いている作曲家。ジャンルの偏りもあまりないはず。ヤナーチェクのオペラもほとんど聴いた。だが,歌劇以外はほぼ聴いていないに等しい。シマノフスキの音楽でこれまでに聴いたことがある作品は,歌劇「ロジェ王」と協奏的交響曲の2曲。前者を聴いたのはCDで,後者はコンサートで耳にしたことがある。

一方,アンデルシェフスキの演奏を聴くのはこれが初めて。約20年前に初来日した際,「父はポーランド人,母はハンガリー人で,私はフランスに渡っているから,コスモポリタンだと思う。ルーツなんて何も感じないし,意識もしていない」とインタビューで答えたそうだ。また自分自身に関しては,「パラドックスだらけの存在。ロマンチックだけれど冷酷で,ヒステリックだけれどストイック」と説明する。互いに矛盾する複雑な内面の一端を語った。

インタビューで語った自己像はこのアルバムを理解するのに重要な手がかりになる。彼の透明なピアニズムは現代に生きるコスモポリタンの側面を代表するようだし,彼が選んだ三人の作曲家の作品は複雑で矛盾しがちなピアニストの内面を象徴しているようでもある。とはいえ,彼が表現しようとした音楽がストレートに伝わって来ないもどかしさを強く感じたのも事実。かなり真剣に聴き込んだつもりだが,面白いと感じることはなかった。アンデルシェフスキが弾くピアノは聴く側の内面で反応を起こすことなく,ただ素通りして行くだけだった。

民族音楽的な要素が濃厚な音楽を最先端のピアニズムで表現する過程で,民族音楽の要素を失ってしまった結果,聴く者の内面に突き刺さる成分を喪失してしまったように感じる。20世紀の初頭に書かれた音楽だけあって,いずれも複雑で高度な書法が用いられている。それらを正確に表現するためには難易度の高いテクニックを必要としていることは理解できる。この点に関して,アンデルシェフスキの演奏技術は申し分ないと言って差し支えないだろう。ただ,彼のピアニズムは民族音楽的な彩りを演奏に付け加えることができなかっ。おそらく,あまりにも洗練され過ぎていたために民族音楽の香りが吹き飛んでしまったのではないか。

さらに,その原因は演奏技術だけにとどまらず,アンデルシェフスキの生い立ちとも関係があるかも知れない。彼は初来日の際のインタビューで自身はコスモポリタンだと述べている。もし,この言葉を額面通りに受け取るならば,このピアニストは民族的な伝統に深く根差す文化や音楽に対する感受性を充分備えていないのではなかろうか。だとすると,現代のピアニズムのせいで音楽における民族的な成分が蒸発してしまったのではなく,民族音楽に反応しうる感性を欠いていたと考えざるを得なくなる。そのような感性がゼロだとは思わないが,充分に備わっていない可能性は大きいように思う。反対にその種の感受性が欠如しているという自覚を持っているからこそ,アンデルシェフスキをして東欧の音楽と向き合わせたのかも知れない。彼のピアノ演奏から判断して,感性が大きく花開いたのはフランスへ行ってからのような気がする。透明感のある明晰なピアニズムは東欧のそれというより,フランスの伝統を思い起こさせる。

民族音楽の中でも,ロマン派よりも現代に近い時期や作風の作品を選んだのも,これらの作品の民族色よりいまの時代の感性を表現したいという気持ちが働いたからだろう。バルトークもヤナーチェクも,そしておそらくシマノフスキも20世紀初頭の音楽から影響を受けただけでなく,いわゆる現代音楽に大きな影響を与えた作曲家ともいえる。バルトークはリズムは言うに及ばず和声の拡張でも大きな足跡を残し,ヤナーチェクは独特な和声感でその後の作曲家に影響を与え,シマノフスキの和声や形式感などもインパクトを残しているかも知れない。

民族音楽と現代音楽とを高い次元で統合した演奏を聴くという願いは叶わなかった。これら双方の音楽が互いに反目し合う性質を秘めている点を考慮して両者のバランスを取るべきところ,現代音楽的側面に磨きをかけ過ぎてしまったのが災いしたようだ。バルトーク,ヤナーチェクそしてシマノフスキに注目したのは慧眼だったのだが。
3 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2024年04月>
日 月 火 水 木 金 土
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930