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2022年09月11日14:33

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シマノフスキ:『ヴァイオリン協奏曲第1番』(バティアシヴィリ)

【収録曲】

 1 フランク: ヴァイオリン・ソナタ ト長調
 2 シマノフスキ: ヴァイオリン協奏曲 第1番 Op.35
 3 ショーソン: 詩曲 Op.25
 4 ドビュッシー: 美しき夕暮れ(ハイフェッツ編)

リサ・バティアシヴィリ(ヴァイオリン)
ゲオルギ・ギガシヴィリ(ピアノ,1)
フィラデルフィア管弦楽団(2-3)
ヤニック・ネゼ=セガン(指揮,2-3,ピアノ,4)

録音:2022年4月,ベルリン(1),2022年1月,フィラデルフィア(2-4)
DG 4860462(セッション)

ヴァイオリニスト,リサ・バティアシヴィリの新譜を聴いた。このアルバムのオリジナル・タイトルは”SECRET LOVE LETTERS”。このディスクに収録した作品には「言葉ではなく,音楽で表現された隠れたメッセージがたくさん込められている。このアルバムに収録された作品どうしは秘められたメッセージで結び付けられている」と,バティアシヴィリは記す。

シマノフスキのヴァイオリン協奏曲第1番は,男性への禁じられた愛の苦痛で染め上げられている。ショーソンの情熱的だが繊細な「詩曲」は,それとは異なるタイプの愛の表明である。オーケストラはヤニック・ネゼ=セガンが指揮するフィラデルフィア管弦楽団。これらヴァイオリンとオーケストラで演奏される2曲は,ヴァイオリンとピアノの二重奏によるフランクのヴァイオリン・ソナタとドビュッシーの「美しき夕暮れ」で縁取られる。フランクのソナタは,ジョージア在住の若手ピアニスト,ゲオルギ・ギガシヴィリが共演する。彼はバティアシヴィリが設立した若いアーティストを支援するNPOから奨学金を受給しているとのこと。ドビュッシーの歌曲をハイフェッツが編曲した作品は指揮者,ヤニック・ネゼ=セガンが伴奏をつとめる。

このアルバムに収められている4曲は,いずれも気品の高い演奏が特徴である。これほど気高い演奏を聴くのは久しぶり。背筋が自然に伸びる。しかし,フランクのソナタを除いて,彫琢がやや不足しているため,それぞれの作品の個性を十分に描き切れていない嫌いがある。とりわけショーソンとドビュッシーは,繰り返し聴けば聴くほど作品の個性がわからなくなる。

フランクのヴァイオリン・ソナタも抑制の利いた演奏である。しかし,このソナタの美しいメロディーを中和させ,そこに音楽的な気品を付加すると,とても新鮮な音楽へと一変する。たしかに,このソナタの持ち味である旋律美を削いでいるのだが,そのことがこのソナタの別の側面,つまり堅牢な構成などに光を当てることで,いつもとは異なるバランスを実現し意外な魅力を引き出している。

シマノフスキのヴァイオリン協奏曲第1番は,この作曲家の特徴を巧く捉えた演奏である。このポーランド生まれの作曲家は,はじめR.シュトラウスの影響下で音楽を書き始め,次に同時代のロシア音楽やフランス印象派に傾倒し,さらに第一次大戦後は新古典主義へと進んだ。後期ロマン派の色彩が勝るヴァイオリン協奏曲第1番は,R.シュトラウスと新古典主義の様式を折衷したような作品である。この演奏では,器楽曲における特徴といえる反ロマン主義の理知的な傾向が上手に掬い上げられている。R.シュトラウス風の官能的な音楽を背景に新古典主義のサウンドを持つ旋律が頻繁に顔を覗かせる。この作品は象徴詩人,タドイ・ミチンスキーの詩「五月の夜」に霊感をえて書かれた。このコンチェルトは1924年にフィラデルフィア管弦楽団と共にアメリカでの初演が行われた。

ショーソンの幻想的な「詩曲」はツルゲーネフの小説「愛の勝利の歌」による交響詩として着想された。言うまでもなく,高い人気を誇る作品ではあるが,個人的には苦手な音楽である。バティアシヴィリの演奏で聴いて個人の弱点を少しは克服できるかと期待した。彼女の明晰で理知的な演奏で理解は深まったようだが,一般的な人気の水準にはとても追いつけない。もう少し彫琢を施してくれたなら印象も変わったのかもしれないが,残念ながらありきたりな音楽にしかきこえない。

「美しき夕暮れ」は,ポール・ブルジェの詩に若い頃のドビュッシーが作曲した初期の歌曲で,ハイフェッツがヴァイオリンのために編曲したヴァージョンを用いている。ドビュッシーの瑞々しい音楽を聴くことができるものの,もう少しこの作品の個性を際立たせてくれたならと思わずにはいられない。始まったと思ったら,もう終わってしまう演奏時間の短さもマイナスに作用している。

このディスクを聴いてバティアシヴィリがすこぶる上品な演奏をするヴァイオリニストであることが強く印象に残った。それと同時に品の良い演奏が作品の個性をあぶり出すことの限界になっていることも理解できた。彼女のテクニックを持ってすれば,その壁を突破するのは可能なようにも思えるのだが。
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