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2022年05月07日15:44

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ベートーヴェン:「ディアベッリ変奏曲」(内田光子)

【収録曲】

ベートーヴェン
 ディアベッリのワルツの主題による33の変奏曲 ハ長調 Op.120

内田 光子(ピアノ)

録音:2021年10月4日〜8日,スネイプ・モルティングス・コンサートホール,
                              サフォーク,イギリス
Decca 4852731(セッション)


「ディアベリのワルツの主題による33の変奏曲 ハ長調 Op.120」は難曲中の難曲である。ピアニストにとって演奏が難しいのはもちろん,聴く側にとっても難解な曲といえる。その理由は主題のどの箇所をどのように変奏しているのかが分かり難いからだ。ベートーヴェンは,このディアベリ変奏曲で性格変奏という手法を使うようになった。大雑把にいうと,主題を小さく切り分けてそれを変形させる変奏曲の作曲法である。

内田光子の新譜は,この難解なディアベリ変奏曲の解説のような側面が強いという印象を持った。つまり,この第○変奏は主題のどの部分をどういう考え方で変奏させた音楽なのかを親切丁寧に説明しているような演奏といえる。変奏するときのテクニックは大きく分けて三つあり,ハーモニー,メロディーそしてリズムという音楽の三要素に対応している。もちろん,ディアベリ変奏曲ではどの変奏もたった一つの要素だけで変化させられているわけではなく,複数の要素が異なる割合で入り混じっている。

内田の演奏は,主題のどこを切り取ってきて,どの要素をどれくらいのウエイトで組み合わせて変奏させるのかを分析し,そのことを可能な限り明快に説明しようと試みているようにきこえる。音楽として完成した作品をピアノで弾くだけでなく,その音楽が誕生する過程を解明し克明に描くことに重点を置いた演奏であると言えそうだ。そこには内田がピアニストとしてディアベリ変奏曲の楽譜や自筆譜に接して生じた数々の疑問を十分に時間をかけて一つ一つ解いてきた軌跡が詰まっている。そして彼女の謎への挑戦はベートーヴェンという稀に見る天才が音楽を創造する秘密に迫ろうとする試みでもある。いやそれ以上に,ベートーヴェンという作曲家を通してピアニスト内田光子自身と音楽との関係を追求する作業でもある。

このディアベリ変奏曲のCDにおける内田の語り口はソフトである。ソフトであっても語っている内容は明快そのもの。おそらく彼女が長い時間をかけて探し求めてきたものが100%自分のものになっているからだろう。あるいは,自分が解明したことを音楽好きに正確に伝えたいという情熱の成せる技かもしれない。読書百遍意自ずから通ずではないが,このCDを集中して繰り返し聴くと内田が演奏に込めたメッセージが彼女の音楽観も含めて自然に伝わってくるような気がする。

このディスクを利いた最大のメリットは,ベートーヴェンがどのようにして音楽を創造したのかが分かったような気になったこと。
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