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2022年02月19日16:08

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ガランチャ:「ヴェーゼンドンク歌曲集」&「リュケルト歌曲集」

【収録曲】

ヴェーゼンドンク歌曲集(ワーグナー)
 1 天使(F.Motti)
 2 とまれ(F.Motti)
 3 温室にて(F.Motti)
 4 悩み(F.Motti)
 5 夢(R.Wagner)

リュケルトの詩による5つの歌曲(マーラー)
 6 私はほのかな香りを吸い込んだ(G.Mahler)
 7 美しさゆえに愛するのなら(M.Puttmann)
 8 真夜中に(G.Mahler)
 9 私の歌を覗き見しないで(G.Mahler)
 10 私はこの世に捨てられ(G.Mahler)

 ※(  )内は管弦楽版の作曲者

エリーナ・ガランチャ(Ms)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
クリスティアン・ティーレマン(指揮)

録音:2020年8月19-22日(ワーグナー),2021年7月31日ー8月3日(マーラー)
   祝祭大劇場,ザルツブルク
DG4861929(ライブ)


エリーナ・ガランチャの新譜を聴いた。結論を先に書くと,水分過剰のスープみたいな演奏だった。低い声域のメゾソプラノの歌を大きなホールでライブ録音する難しさを実感させられる。

CDに収められた公演は2020年と2021年に行われた夏のザルツブルク音楽祭のコンサート。プログラムは,一昨年がワーグナーのヴェーゼンドンク歌曲集,昨年がマーラーのリュケルト歌曲集。伴奏はいずれもティーレマンが指揮するウィーン・フィル。どこをどう切っても,ザルツブルク音楽祭らしい豪華絢爛きわまりない演奏会である。

取り上げられた作品も負けず劣らず煌びやか。爛熟した後期ロマン派のワーグナーとマーラーが書いたオーケストラ伴奏付き歌曲。だが,2つの歌曲集はいずれも室内楽的な性格の強い声楽曲だ。オペラとも声楽付きの管弦楽曲とも異なり,ピアノ伴奏による繊細なニュアンスを重視した声楽曲です。事実,二つの声楽曲は当初ピアノ伴奏版が作曲され,のちに管弦楽伴奏版が作られたようだ。

このCDを聴いていても,歌の微細なニュアンスを活かそうとしているのがよくわかる。事実,ティーレマンもオーケストラの大音量がメゾソプラノの声を圧倒することのないよう細心の注意を払いつつ指揮している。またオーケストラ・パートの細かいニュアンスを表現することに心を砕いている様子も聴き取ることができる。

しかし,率直に言って,このCDに対する印象は水分過多のスープといったところか。味が濃くなりすぎるのを防ぐため薄味にしたのは許せるとしても,水の増量とともにスープのコクも一緒に失われてしまったようだ。その原因はおそらく三つあって,声の質,ホールの響きとライブ録音が原因になって,演奏をつまらなくしているようだ。

まず,ガランチャのメゾの声が聴き取りにくい。かなりボリュームを上げないと彼女の声は聴き取りにくい。音量を上げても,祝祭大劇場の空間に溶け込んだ声がくっきりと分離する訳ではない。これは周囲の音響空間から分離し難いメゾソプラノの声質が裏目に出た結果だろう。あるいはマイクの配置など録音技術が万全でなかったとも言えそうだ。

次に,コクの乏しいスープになってしまったもう一つの要因は録音をおこなった空間にもありそうだ。祝祭大劇場があまりにも巨大すぎて,ガランチャの声が拡散してしまい,捉えどころがなくなったことも響いているようだ。

最後にライブ・レコーディングに伴う制約が大きくて,歌手の声を正確に捉えることができなかったようにもきこえる。ザルツブルク音楽祭の本番で,ステージ立つ歌手の周りにマイクを林立させるような,録音を最優先させることも難しいのだろう。

他方で,ガランチャの調子があまりよくなかったことがこういう結果をもたらした可能性も排除できないかも知れない。これまでの録音と比べても,物足りなさを感じてしまう。パンデミックで歌う機会が減っていたことが影響しているかも知れない。

もちろん,ヴェーゼンドンク歌曲集やリュケルト歌曲集に多くを期待しすぎていたとも考えられる。ヴェーゼンドンク歌曲集はやがて「トリスタンとイゾルデ」という音楽史を画するオペラとして結実する。だが,ワーグナー楽劇の大傑作と比べると,この歌曲集はまだ萌芽の段階にあると言わざるを得ない。第3曲「温室にて」から第5曲「夢」では,ワーグナーらしさを散見できるけれど。それに引き替え,リュケルト歌曲集の歌唱はかなりマーラーの味が濃い。でも,他の歌曲集や交響曲などと比べれば,マーラー的な性格が比較的少ない演奏という印象を受ける。

これまでガランチャのどのCDを聴いても満足度は高かった。しかし,このCDではそのジンクスが成り立たない。想像を逞しくしても,その決定的な要因が何なのか不明だ。
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