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2022年01月23日16:09

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エベーヌ四重奏団「ベートーヴェン弦楽四重奏曲全集」その6

【収録曲】

Disc6
 1 弦楽四重奏曲 第4番 ハ短調 Op.18-4
 2 弦楽四重奏曲 第5番 イ長調 Op.18-5
 3 弦楽四重奏曲 第12番 変ホ長調 Op.127

エベーヌ四重奏団
 ピエール・コロンべ(Vn)
 ガブリエル・ル・マガデュール(Vn)
 マリー・シレム(Va)
 ラファエル・メルラン(Vc)

録音:2019年12月8日,Alliance francaise de Bairobi,ナイロビ
ERATO 9029533981(ライブ)


エベーヌ四重奏団によるベートーヴェン弦楽四重奏曲全集の6枚目。このディスクでは,作品18から第4番と第5番,後期の作品から第12番がカップリングされています。

このディスクでも,音楽的な充実度に関して前期も後期も一般的に考えられているほど大きな隔たりはないという演奏団体の解釈に沿った演奏です。このCDに収録されている3作品はいずれも4楽章形式の弦楽四重奏曲で,これら3曲が形式面で似通っていることがこうした印象を生じさせている側面もあるようです。具体的には第4番と第5番の演奏スタイルを第12番に適用していることが最大の理由です。つまり2本のヴァイオリン,ヴィオラ,チェロの4つの声部を同じウエイトで扱い,各パートが織りなすテクスチャー全体に焦点を当てることに主眼を置いている。そこにこのカルテットの持ち味である弦楽器の魅力的な音色とカルテットの精緻なアンサンブルが加わり,前期弦楽四重奏曲の演奏スタイルが出来上がっていて,それが後期の作品を演奏するときにも応用されている。

それでは収録順に感想を。第4番の第1楽章はソナタ形式で書かれ,情熱的で親しみやす第1主題ではじまる。エベーヌQは第1ヴァイオリンが主導するテーマの扱いが上手い。第1ヴァイオリンによる主題の歌わせ方が魅力的で,他の声部によるメロディーの支え方も申し分ない。かなりの成熟度を誇る楽曲の出だしだ。第2楽章はスケルツォだがフーガの形式で作曲されている。ラズモフスキー・セットの前触れのような一面も持つ。この楽章の書き方はやや込み入っていて,その分エベーヌQの演奏は若干明快さに欠ける面も。第3楽章はメヌエット。1曲の中にスケルツォとメヌエットが同居するのはユニークだ。ただメヌエットといっても,ドラマチックな表情が濃い。エベーヌQも美しい中にも濃厚な表情を湛えた演奏を行なっている。第4楽章はA-B-A-C-A-コーダのロンド形式で豊かな楽想が特徴。やや統一感が弱いエベーヌQの演奏だ。だが作品18の中では音楽的に最も充実した作品だろう。

第5番はモーツァルト風の弦楽四重奏曲。ソナタ形式の第1楽章は変則的な拍子で書かれ,第1主題はとても躍動的。エベーヌQはこの楽章のモーツァルト的側面を強調する。第2楽章はメヌエットで,第1ヴァオリンではじまったテーマがヴィオラへと順次受け渡される。エベーヌQの演奏はパートから別のパートへの主題の受け渡しが巧みだ。第3楽章は変奏曲。第1変奏はチェロで開始され,第2変奏はヴァイオリンの装飾音型,第3変奏はヴァイオリンの伴奏音型で,第4変奏はコラール,第5変奏は終曲そしてコーダへと続く。演奏は各バリエーションの特徴はつかんでいるものの,第3楽章全体をつらぬく一貫性の表現が弱い。第4楽章はソナタ形式。なめらかでやや甘美な主題が提示され,次々と模倣されてゆく。ベートーヴェンの音楽としては若干安易な面も否定できないが,エベーヌQは美しい旋律を魅力的に演奏する。

第12番はとても充実した音楽的内容を持っている。エベーヌQは初期弦楽四重奏曲を演奏するときのスタイルでこの作品の充実度を抑制気味に表現しているようだ。第1楽章冒頭は,重厚で鮮烈な和声を伴う主題で始まるが,この特徴もエベーヌQは明るく朗らかなメロディーへと還元してしまう。第2楽章は5つの変奏で構成される変奏曲形式。ベートーヴェンの晩年を特徴づける変奏曲であるが,エベーヌQは深入りを控えて表面的な表現に終始する。とはいえ終わりに近い箇所の旋律の表現は絶品。第3楽章はスケルツォ。エベーヌQの演奏は,この楽章でも表現自体は控えめだが,抑制気味の演奏がこの楽章の奥に潜む本来の美しさを引き出している。第4楽章は序奏とコーダを含むソナタ形式。ベートーヴェン特有の音楽的要素をふんだんに含んだフィナーレ。エベーヌQはこの楽章が持つはずのダイナミズムの幅をやや縮小気味に扱う。いや弱奏と強奏のバランスがあまり良くないのかもしれない。このあたりは初期の作品を演奏する流儀で後期の作品を演奏する限界なのだろう。

エベーヌQは初期の弦楽四重奏曲を表現するとき,美しい音色だとか緊密なアンサンブルだとか多くの強みを持っている。おそらくその技法はハイドンやモーツァルトの弦楽四重奏曲でも有効なのだろう。だが,同じドイツ古典派であってもベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲を演奏するときにも通用する流儀であるとは言えそうもない。この作曲家は初期と後期では書法が変わってしまい,それに伴い表現すべき音楽も変貌を遂げているから。弦楽四重奏団にとってベートーヴェン後期の作品の核心に迫りうるアプローチを獲得する必要がある。このことを明瞭に示すCDだといってよさそうだ。
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