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2021年11月28日16:40

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エベーヌ四重奏団「ベートーヴェン弦楽四重奏曲全集」その2

【収録曲】

 Disc2
1 弦楽四重奏曲 第7番 へ長調 Op.59-1「ラズモフスキー第1番」
2 弦楽四重奏曲 第8番 ホ短調 Op.59-2「ラズモフスキー第2番」

エベーヌ弦楽四重奏団
 ピエール・コロンべ(Vn)
 ガブリエル・ル・マガデュール(Vn)
 マリー・シレム(Va)
 ラファエル・メルラン(Vc)

録音:2019年6月11日,モーツァルトザール,ウィーン・コンツェルトハウス
ERATO 9029533981(ライブ)


エベーヌ四重奏団による「ベートーヴェン弦楽四重奏全集」の2枚目のCD。ラズモフスキー弦楽四重奏曲の第1番と第2番を収録。後期の弦楽四重奏曲に匹敵するベートーヴェン中期の傑作です。

傑作の森の真っ只中で書かれたラズモフスキーの3曲の演奏でカギになるのは,作品が持つスケールの大きさや深さ,エネルギーのほとばしる様を表現できるかどうか。ステージだろうがレコーディングだろうが,作品が高いポテンシャルを秘めているからといって,演奏でそれを表現できるか否かは全く別の問題だ。4本の弦楽器で交響曲第5番のような迫力を表現するのは至難の技だ。それは弦楽四重奏団の力量を窺う格好のポイントにもなりうる。

ラズモフスキー弦楽四重奏曲は,ロシア民謡のメロディーをベートーヴェン流に用いた音楽をどう表現するかも,もう一つのポイントだ。ロシアのウィーン大使だったアンドレイ・ラズモフスキー伯爵の依頼を受けて書かれ,どの曲にもロシア民謡の旋律が使われた楽章を含むので。

ラズモフスキーの第1番と第2番を収めたこのCDを聴く限り,エベーヌ四重奏団は超一流のカルテットには少し及ばないところがある。これらベートーヴェン中期の傑作2曲が秘めるスケール感やエネルギー感を十分に演奏で表現しえていない。美しい仕上がりの演奏を身上とするエベーヌが,弓を弦に強く押し当て,あるいはテンポを上げることで作品が秘める規模や力感の表現を試みる。その意図はよく伝わってくる反面,スケールの大きなエネルギーに満ちた音楽にはなっていない。かえって強く速く弾くことに伴う音の汚れが目立つ。

たとえ超一流の弦楽四重奏団であっても,ラズモフスキーの3曲を完璧に表現するには大きな困難を伴うのも事実。録音だろうがライブだろうが,理想的な演奏を聴いた回数は極限られている。パーフェクトなラズモフスキーの演奏は奇跡に近いと言って構わないだろう。とはいえ回数は少ないにしても一度理想に近い演奏に接すると,またそういう演奏を聴きたいという思いに駆られる。たとえそれが例外だと分かっていても。

それでは,それぞれの曲の楽章ごとに詳細をみていくことにする。ラズモフスキー第1番の第1楽章は第2バイオリンとビオラが奏する和音に支えられてチェロが第1主題を提示し,第1バイオリンへと引き継がれるという特徴的な書法で始まる。エベーヌの演奏では,この出だしの抑制が効き過ぎていてやや弱い。第1バイオリンが第2主題を出して,他の楽器が対位法的に絡む箇所もおとなし過ぎる。各パートのメロディーラインを美しく絡ませることに重点をおいた結果なのだろう。この楽章が持つエネルギーを全面に押し出してほしい。第1主題中心の展開部や再現部でもほぼ同じ調子。

第2楽章はチェロによる同じ音の連打で始まる。この楽章もまとまりを優先した表現に終始。ただし連打される音のアクセントは若干コントラストを強めた表現。

第1バイオリンがゆっくりと歌う第1主題を導入する第3楽章は,4本の弦楽器が加わる対位法へと移り,やがて第2主題へと移行する。第1主題の歌は美しいものの,もう少し深みのある歌わせ方をしても良さそうだ。表面をなぞっただけの演奏に聴こえてしまう。

第3楽章から切れ目なく続き,ロシア民謡による第1主題で開始される第4楽章。リズミカルで弾むようなテーマの演奏も振幅を抑え気味にして,先を急ぐような表現。ロシア民謡が内包する深い情緒を抉り出して欲しい。華々しいフィナーレも腰砕けのようだ。

ラズモフスキーの他の2曲に比べ規模が小さい第2番。第1楽章は和音の連打で始まり,ベートーヴェンらしいメロディーが続く。線的ではあるが断片的でもある旋律は,かなりの熱気を帯びた演奏といえる。だが展開部から再現部にかけては一本調子気味の演奏で,表現の振幅に乏しい。

「深い感情をもって」と記された第2楽章は和声が支配的な第1主題と特徴的なリズムが顕著な第2主題からなる。第2主題にはより情感を込める方が,この楽章のポテンシャルをもっと引き出せたはず。

第3楽章はスケルツォ。リズミカルな主部と音が弾むような中間部からなり,ロシア民謡の旋律は中間部で使われる。リズムが中心となるこの楽章の演奏にあまり不満は覚えない。鋭いリズム感を持つアンサンブルの良さが出たようだ。

コンパクトな第4楽章は簡潔で力強い。フィナーレでもエベーヌ四重奏団の優れたテンポ感とリズム感が全面的に開花した納得のゆく演奏に仕上がっている。

どうやら演奏全体を綺麗にまとめようと意識し過ぎて,物足りなさを感じる。とりわけ,ロシア民謡の旋律を用いた楽章の感情表現に不足を感じてしまうようだ。メロディーに込められた感情を若干過剰気味に表現すれば,大きなスケール感などを伴った力強い演奏になるのではないだろうか。現代音楽ではこうしたロマンチックな感情表現を抑制することが多いのだとしたら,そのジャンルのエキスパートという一面を持つエベーヌ四重奏団がロシア民謡の旋律の演奏を苦手とするのも分からないではない。
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