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2021年07月11日15:43

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ラモー,クープランほか:『ヴェルサイユ』(タロー)

【収録曲】

1 ラモー:「プレリュード」クラヴサン曲集 第1巻
2 ラモー:「鳥のさえずり」クラヴサン曲集 組曲ホ短調
3 ド・ヴィゼ:「サラバンド」ギターのための組曲 第9番 ニ短調
4 ラモー:「タンブーラン」クラヴサン曲集 組曲ホ短調
5 ロワイエ:「愛らしい」クラヴサン曲集 第1巻
6 ラモー:「ガヴォットとドゥーブル」新しいクラヴサン曲集
7 ダングルベール:サラバンド「神の世界」リュリの”ヴィーナスの誕生”による
8 ロワイエ:「スキタイ人の行進」クラヴサン曲集 第1巻
9 ラモー:アリア「来て結婚の神よ」”優雅なインドの国々”による
10 ロワイエ:「タンブーラン�機��供廛�ラヴサン曲集 第1巻
11 クープラン:「さまよう亡霊たち」クラヴサン曲集第4巻 第25組曲
12 デュフリ:「ラ・ポトゥアン」クラヴサン曲集
13 ラモー:「未開人」新しいクラヴサン曲集(レオン・ロクエスによる4手版)
14 ダングルベール:「シャコンヌハ長調」クラヴサン小品集
15 ダングルベール:「序曲」リュリの”カドミュスとエルミオーヌ”
16 クープラン:「パッサカリア」クラヴサン曲集第2巻 第8組曲
17 ダングルベール:「オルガンのためのフーガ・グラーヴェ」クラヴサン小品集
18 デュフリ:「ラ・ド・ブロンブル」クラヴサン曲集第3巻
19 リュリ:「トルコ人の儀式のための行進曲」町人貴族(アレクサンドル・タロー編)
20 バルバトル:「スザンヌ」クラヴサン曲集第1巻
21 ダングルベール:「スペインのフォリアによる変奏曲」クラヴサン小品集

アレクサンドル・タロー(ピアノ)
サビーヌ・ディヴィエル(ソプラノ,9)
ジュスタン・テイラー(ピアノ,13)

録音:2019年1月19-22日,2月19-21日,3月16日,
   サル・コロンヌ,パリ,ジーメンスヴィッラ,ベルリン
WARNER ERATO 9029538642(セッション)


「ベルサイユ」というタイトルのこのCDは,フランスのピアノスト,アレクサンドル・タローの最新アルバム。アルバムのタイトルからも分かるとおり,フランス・バロック音楽の鍵盤楽器用の作品を収めている。しかも,ベルサイユ宮殿に象徴されるフランス・バロック音楽の全貌を示すために,ラモーやクープランの作品のみならず,あまり名前が知られていないデュフレ,ダングルベール,ロワイエなどの音楽も取り上げている。

では,なぜタローはバロック期の音楽に白羽の矢を立てたのか。フランス音楽の基礎を築いたのは,他ならぬバロック期の作曲家だからとタローはライナーノートで明言している。クープランやラモーを抜きにして,サン=サーンス,ドビュシー,ラヴェルの音楽を解釈することは不可能だとさえ言い切る。彼は19世紀末から20世紀初頭への関係に光を当てようとしたのだ。

フランスのバロック音楽,とりわけハープシコードのための作品というと華麗な響きに彩られた優雅な音楽で,ともすると,どこかつかみどころないようなイメージを思い浮かべがちだ。ひょっとするとタローはこのようなイメージを覆したいという気持ちでこのディスクを作ったのかも知れない。彼はフランスのバロック音楽を構造化して捉える。つまり,ピアノをハープシコード風に響かせるのではなく,ハープシコードのための作品をモダン・ピアノの論理性に適合した音楽として捉え直した上で演奏しているのである。

フランス・バロック作品はそれ以降の音楽と隔絶した存在ではなく,ドイツや他の地域の音楽も含めその後の音楽とは地続きであることを証明しようとしているかのようだ。まるでJ.S.バッハが音楽の基礎を築いた音楽の父と考えられているように,フランスのバロック音楽は少なくともフランス近代の音楽の礎となっていると理解すべきだと主張するため,このCDを制作したのだろう。

アレクサンドル・タローがこうした主張を行うために最も頼りにしたのは,芯のあるピアノ・タッチである。フランス・バロックの雰囲気を醸し出すために曖昧模糊としたピアノのサウンドに寄りかかるのではなく,一音一音が明晰な響きを持つタッチでこの時代のフランス音楽にアプローチしている。ある意味,モーツァルトの音楽を表現するピアノの響きに似ていなくもない。

ピアニストが採用したもう一つのアプローチは知性的な解釈である。フランス・バロックの作品をドイツ音楽のような堅牢な構造性を有する音楽として捉え,表現する際もその論理性を明示する方法を採っている。こうした傾向は,タローが持つ幅広いレパートリーと大いに関係しているだろう。彼が弾くバロック期の音楽を聴いていると,なぜか近代や現代の音楽を思い起こしてしまう。フランスのバロック音楽を演奏するときも,ドイツ音楽や現代音楽などを解釈し表現するアプローチを無意識に適用するからなのだろう。むかし,どこかでフランス語で書かれた文章は論理的で明快だという話を読んだことがある。音楽でも同じことが言えるのか。彼の知的な接近法は単純に好みの問題かも知れないけれど。

こうした特色を鮮明に意識させるのは,ラモーの「鳥のさえずり」と「タンブーラン」そして「未開人」,ダングルベールの「スペインのフォリアによる変奏曲」。ダングルベールの変奏曲はディスクの最後に収められていることもあり,文句なしの圧巻。

タローのアルバムを聴いていると,フランス・バロック期の鍵盤楽器のための作品が孤立しているどころか,ドイツのバロック音楽,ウィーン古典派の作品,ロマン派音楽そして近現代の音楽作品へと繋がることを実感する。たしかに,こういうフランス・バロックの演奏を聴いてみたいと心の底で願っていたことを思い出す。そして,グリゴリー・ソコロフのアルバムに入っていたラモーの小品がこの希望に火をつけたのは間違いない。
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