【プログラム】
1 ウェーバー: 歌劇「オベロン」序曲
2 ブルッフ: スコットランド幻想曲 Op.46
3 ベートーヴェン: 交響曲 第6番 ヘ長調 Op.68「田園」
(アンコール)
この道(ヴァイオリン独奏)
青木 尚佳(ヴァイオリン)
札幌交響楽団(管弦楽)
山下 一史(指揮)
2020年10月24日(土),2:00 pm開演,札幌コンサートホール
10月の定期演奏会も新型コロナウイルス感染症の影響で紆余曲折があった。当初,ドミートリー・シトコヴェツキーを指揮とヴァイオリン独奏に迎え,彼が編曲した作品を演奏する予定だった。コロナ禍のためシトコヴェツキーの来日が叶わず,飯守泰次郎をピンチヒッターに据え,ベートーヴェン生誕250年を記念するプログラムで開催するよう変更した。しかし,演奏会の直前に飯守が急性胆のう炎のため急遽入院を余儀なくされる。ピンチヒッターのピンチヒッターとして招聘されたのは山下一史。プログラムは飯守のときと同じで,ヴァイオリン独奏も青木尚佳で変更はない。
この日の主役は,ヴァイオリン独奏の青木尚佳だったと断言していいだろう。彼女のヴァイオリンのテクニックはもとよりその音色に魅了された聴衆は多かったはず。
2014年ロン=ティボークレスパン国際コンクールで第2位を獲得。併せて,協奏曲の最良の解釈に贈られるモナコ大公アルベール2世賞も受賞する。2009年日本音楽コンクール第1位,桐朋学園大学音楽部ソリスト・ディプロマコースを経て,英国王立音楽大学,英国王立音楽院に留学。今年,ミュンヘン ・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターの試験に合格したことが報じられる。
さて,ブルッフのスコットランド幻想曲は,ヴァイオリン独奏とオーケストラのための協奏的な作品。序奏と4つの楽章からなる夢幻的な作品で,ハープも用いられる。ブルッフのスコットランドへのオマージュなのだろう。
序奏部は寂しげな低音の幻想的な響きと共に,独奏ヴァイオリンが甘美でもの悲しいテーマを奏でる。青木はこの出だしから聴衆の注意を引きつける。とても静かで穏やかな演奏だが,ブルッフが序章に込めたメッセージ,甘美さや悲しさを自分の音楽として伝える。
第1楽章は,オーケストラの前奏に続いてヴァイオリンが民謡風の主題を歌う。この楽章は抒情的に美しく展開される。ソリストは持ち前の美音を駆使して主題を美しく奏でる。そして,彼女は美しいヴァイオリンの響きやテクニックを誇示することはなく,あくまでも抒情性を重視した演奏に終始する。
スケルツォ風の第2楽章は,生き生きしたリズムが特徴で,多彩な技巧を駆使した変奏。ヴァイオリン・ソロにリズム感が足りないだとか,技巧が不足していたなどというつもりは毛頭ない。青木はリズムだとかテクニックだとかを意識させないほど,こうした要素を巧みに織り交ぜた演奏を繰り広げる。
民謡風の主題を扱う第3楽章では,独奏はスコットランド民謡風のテーマを優しくしんみりと歌う。
フィナーレもやや古風に響く民謡風の主題。ソリストは,テーマを華やかに展開しつつ曲の最後を盛り上げてゆく。
スコットランド幻想曲は,どちらかというと苦手な作品だ。どう考えても断片を寄せ集めた中途半端な音楽というような印象が強い。各楽章が民謡風のテーマを持っていて,曲全体として一貫したテーマに欠けるからだろうか。さらに,作品全体が抒情性で覆われてしまうのも不満の原因なのだろう。しかし,青木尚佳のスコットランド幻想曲は,これまで聴いたこの曲の演奏の中で最高である。誇示は控えつつも,彼女の静かな抒情性と表に出ない技巧性が訴えかけてくる。
山下一史が振る札幌交響楽団は,コロナ禍で活動を休止する前の状態にかなり戻ったように思う。とはいえ,山下が札響の持ち味を十分に引き出していたかといえば,全面的にそうだとは言えない。
まず,ウェーバーの「オベロン」序曲は,ドイツの深い森を彷彿とさせるところがあるなど,納得できる演奏だった。だが,曲全体のまとまりが弱い印象は拭えない。それなりの出来の部分の寄せ集めといった演奏だった。
ベートーヴェンの「田園」では,「オベロン」とは異なる趣向のアプローチを見せるのかと思いきや,より空中分解の要素が強くなった。この日「田園」を演奏して,聴きに来た人たちに何を伝えようとしたのか皆目見当がつかない。
冒頭に書いたとおり,演奏のコンセプトを十分に練り,オーケストラと指揮者がリハーサルなどでそれを共有する時間が足りなかったことを物語るのだろうか。国外のアーティストの入国を一律に禁ずる措置がもたらした災いという側面もあるのではなかろうか。
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