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2020年07月06日15:23

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「泥湯」、別府で地獄に入る体験

旅行三日目(2)

 午前中に別府八湯の中でも、湯が濃いとされる明礬温泉を訪れた。明礬(みょうばん)というだけあってアルミニウムイオンの濃度が高い。ただ、アルミニウムイオンは通常可視光領域の吸収を呈さないので、色には関係ない。錯イオンになっても大体同じ。
 もっとも錯イオンになるとコロイドになる、という知識は高校の化けでも教わる内容。「白池地獄」など乳白色を示すのは、こうしたコロイドの類が関係していると思われる。アルミニウムイオンは21世紀の初め頃までアルツハイマー病の原因物質ではないか、という議論があって、私もそのころアルミの鍋とかやかんとかを捨てた経験がある。その後、その研究がどうなったのかは知らないが、最近はアルミニウム原因説は否定されているらしい。明瞭な疫学調査の結果は一体何だったのかを誰かに説明してもらいたいが、アルミの鍋ややかんと言っても、せいぜい1万円に届かない程度のものなので、損失は軽微である。

 午後は明礬温泉の中でも、「泥湯」が体験できる「別府温泉保養ランド」を訪れることにした。
 「地蔵湯前」から路線バスで別府側に二つ戻った所にこの温泉がある。バス停の名前は「紺屋地獄前」。別府の地獄の一つとして数えられているが、共通入場券は通用しないところ。あの共通入場券がどんな基準で経営しているのか微妙に良く分からないが、経営者の考え方など色々あるのだろう。この保養ランドも別料金で入る。
 バス停から100mほど歩いていくと保養ランドの建物がある。中に入ると受付のおばちゃん以外誰もいないシーンとしたロビー。おばちゃんに

 「ランドとかいてある草履に履き替えて」
 と言われる。

 「ランド」、ええ? 私の会社? こんな施設もあったの? 株主優待とか使えないのかな?
 と、一瞬思った。が 8918ランド とは何の関係もない会社。

 サンフラワーの半券を見せると1100円の入場料が1000円に割引してもらえる。コツコツ割引を重ねるのだけど、沢山観光をするなら結構な金額になるのでバカにはできない。
 ロビーにはコインロッカーがあって、ここにタオル以外の荷物を収めることにした。割引された100円はこれで消える。

 タオルを持っていざ泥湯へ進む。長い渡り廊下を歩いた先に、相当年季の入った温泉施設が現れる。当然だが男湯の方に行く。
 行ってビックリ、湯船の前に格子状の脱衣箱があって、風呂から丸見えの場所で服を脱ぐようになっている。この時は、驚いたのだが、後々別府の公衆温泉浴場を巡ってみて、どこも同じ構造になっていたので納得する。
 湯船の前、といっても他に誰もいないので、大胆に服を脱ぎ棄て、タオルを持ってさっそうと温泉に向かう。この湯船には

 「コロイド湯」

 と書かれている。確かに、ドロッとした感じ。
 コロイドというのは、皆さん良く知っているのは、あんかけの「あん」の部分。片栗粉をお湯で解いたもの。水酸化アルミニウムなどのイオンもコロイドになるので似たような性質のドロッとしたものになる。
 まずはこの「コロイド湯」に入ってみる。温泉が濃いのは分かるが、効能は何とも言えない。じっくり温まってみる。脱衣場には二人分の衣服があったので、他の二人は先にある別の湯船に浸かっているはず。先に進む。
 湯船から上がり、階段を下りる。足は当然裸足だし、その足でむき出しのコンクリートの上を歩いていくのは結構危ない感じはする。足の小指とかぶつけないように慎重に歩く。階下に降りると「泥湯」。「鉱泥浴場」と命名されている。湯船の中は不透明で灰色をしている。中が見えないので慎重に右足を入れる。足先に「ぬるっ」とした感じの感触があって、石の上に着地。次に左足を一歩前に出す。段差があってさらに深くなっている。腰まで水位はあって、足先は泥に埋まる。
 湯船の中は通路状に策で仕切られていて、奥に進むには一度湯船の端まで歩いて、その先ターンをしてまた戻ってくる。歩いて進み湯船の中央付近まで行く。足元はドロドロだが、水は濁っているので中の様子は全く見えない。「鉱泥浴場」に入ってきた通路とは反対側は立ち入り禁止になっている。恐らく熱いお湯が沸いているのだろう。うっかり近づくとやけどをするかもしれない。泥湯の使い方は、底に沈んでいる泥を身体に塗る、という方法を取る。誰もいないので見様見真似すらできないのだが、しゃがみこんでお尻を泥に付け、手で底の泥を救ってお腹とか腕に擦り付けてみる。刷り込むような感じでやれば皮膚の表面はどんどん落ちていくだろうな、とは思うが果たしてそれ以外にどんな効能があるのかこれも微妙に分からない。泥をかき回したので私の周辺はさらに濁って、工場廃液のヘドロの中にでもいるような何とも言えない状況になる。壁の張り紙に書かれていることで覚えているのは、

 「湯船から上がるときにはお尻の泥を洗い流してください」
 「直接地獄に入っていることをお忘れなきよう」

 こんな言葉だろうか。
 ひとしきり泥湯を体験したので、次に露天風呂に向かうことにした。

 なんとなく「露天風呂」とか書いていると、最後にさっぱりして湯から上がるのか、とか想像しそうだが現実は全く違う。岩風呂風に作ってある露天風呂は混浴でかなり広い。女性側とは部分的にちょっとだけ壁があるだけでその先は、手すりで区切ってあるだけ。完全に丸見えである。これでは女性は入れないのでは? 日が落ちて暗くなってからか?
 日中のこんな時間に、ちょっとでも期待するようなことは何も起こるはずもない。露天風呂に足を踏み入れてみると、この風呂にも底には泥が堆積している。そして、湯船の真ん中まで進んでお尻を付けて座ってみると湯船の底が熱いことが分かった。つまり、地熱で露天風呂全体が温められている。立ち入り禁止になっている場所も指定されていて、そこからは恐らく熱湯が湧いているのだろう。言ってみれば昨日見てきた「海地獄」に浸かっている、そんなところだ。なるほど、「地獄に直接入っている」という表現は的を得ている。そして少し怖くもなる。
 さっき泥湯でやったように、湯船の底の泥をすくって身体に塗ってみる。一応、それをやる場所なので、やらないで帰れない。ひとしきり全身に泥を塗ったあと、さらに先にあるもう一つの露天風呂へ進む。一度湯船から上がって何の囲いもない通路を進んだ先に露天風呂がある。女性側も同様で、手すりで仕切られてはいるものの、何も遮るものはない。完全に丸見え。いや、女性は無理だろ。
 行った先には「美人の湯」とか書かれているが、そこまで来れる度胸のある女性は、誰に見られても恥ずかしくないチョー美人か、もうどうにもならない老婆のどっちかではないか?
 只、今日は老婆すらいなかった。混浴露天風呂の現実はこのようなものである。
 
 露天風呂に浸かって泥をすくい上げてみて分かるのは、屋外だと木の葉がどんどん沈んでくる事である。泥に枯れ葉が沢山混じっていて、中には松葉もあるので、屋内の泥湯ほど自由に身体に塗りたくったりはできない。そういう意味で屋内に泥湯が設置されているのは相当意味のある事。露天風呂は直接地獄に入るとどんな感じかを体験できる場所、という所だろうか。

 露天風呂を楽しんだので次に蒸し湯に向かった。
 小部屋にドアがあってその先が蒸し湯になっている。サウナのようなもの、と考えていると大分違う。ドアを開けると、中には暗室のような赤くて暗い照明があるだけで、中の様子はちょっと分からない。小部屋の中に入ってドアを閉める。温泉から噴き出ている蒸気がもうもうと立ち込めている。サウナだったら空気だけなんだよ。ミストサウナのミスとの温度が高いバージョンと考えれば良いのか。室内の温度も高い。温度計がないので何度かは分からないが、火事で逃げ遅れたらこんな感じでは?
 とにかく熱い、そして一体こんな熱い場所で何分耐えられるのか、とにかく座って数を数える。時計もないので、自分の数えている数が時間を感じる頼り。
 その時、頭をよぎったのは、もし入り口のドアが中から開かなくなったらここで死んでしまうよね。ということ。そして、火事で逃げ遅れた図、が頭をよぎる。辛抱して60秒数えたが、逃げるように外に出た。

 「蒸し湯」は危険すぎる。二度と入らない。


 もう一つ、「打たせ湯」がある。打たせ湯は普通の打たせ湯です。
 露天風呂なので、解放感はあって、4mほどの高さから一条のお湯が落ちてきている。最初は肩、次に頭を打たせてみた。かなり気持ちがいい。温泉の温度も良く、季節的に暑くも寒くもないのでこれは快適。
 四つん這いになって腰、そしてふくらはぎを打たせてみる。そのあと、足の裏、この何年間かずっと左足の裏が傷むのだけど、打たせ湯で打つのはとても気持ち良い。これが家で出来たら最高だろうに。


 最後にちょっといい思いもして、もう一度、「鉱泥浴場」そして「コロイド湯」に入ってからあがる。服を着てロビーまでも戻り、バスの時間まで少しあるので、冷たいジュースを買ってのどを潤す。

 「泥湯」は、なかなかの体験でした。別府に行って地獄めぐりをするなら、この「直接地獄へ入れる体験」もセットで考えるのが面白いと思います。お勧めです。
 
 バスへ乗って、別府市の中心部へ移動することにした。

 つづく
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