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2019年10月14日20:47

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B→C(ビー・トゥー・シー|バッハからコンテンポラリーへ)成田達輝 ヴァイオリン

【プログラム】

1 J.S.バッハ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ短調 BWV1003
2 ファニーホウ:見えない色彩(1997〜98)
3 マロンドラ:「24のモジュラー・セル」〜2台のヴァイオリンのための
4 パガニーニ :「24のカプリース」Op.1から第24番イ短調
5 エルンスト:「ヴァイオリンのための多声的練習曲」から
                       「夏の名残のバラにもとづく変奏曲」
6 フーバー: インタルシーミレ(2010)
7 ヴィヴァルディ: トリオ・ソナタ ヘ長調 RV70
8 ボールドウィン: ウト,レ,ミ,ファに基づいて

(アンコール)
ブレクト: ヴァイオリン・ソロ(1962)
ブレクト: 2つのエクササイズ
パガニーニ : 「24のカプリース」Op.1から第1番

成田 達輝(ヴァイオリン)
百留 敬雄(ヴァイオリン)[マロンドラ,ヴィヴァルディ,ボールドウィン]

2019年10月5日(土),14:00開演,札幌コンサートホール

B→C(ビー・トゥー・シー|バッハからコンテンポラリーへ)は,若手の実力派演奏家が「B」=バッハ作品と「C」=現代作品を軸に,独自のプログラムを組む東京オペラシティのリサイタル・シリーズ。1998年のスタートからすでに200回を超え,多くの音楽好きの注目を集めてきた企画。若きアーティストの才気と音楽性が溢れ出る本シリーズは,これまでも東京以外で開催されており,今回は成田達輝の出身地という縁で北海道初のB→Cとなった。

成田達輝は3歳からヴァイオリンを始め,ロン=ティボー国際コンクール(2010),エリザベート王妃国際コンクール(2012),仙台国際音楽コンクール(2013)で第2位を受賞。酒井健治や一柳彗など現代作曲家とのコラボレーションも積極的に取り組む。このリサイタルの共演者の百留敬雄とはHBC(北海道放送)ジュニアオーケストラ時代に知り合った。

百留敬雄も札幌生まれのヴァイオリニストで,2003年よりオランダのマーストリヒト音楽院,ベルギーのアントワープ王立音楽院でヴァイオリンと作曲を学ぶ。ヴァイオリンの特殊奏法に通暁し,複雑な譜面も正確に弾きこなす技術や独自の音楽性が評価され,多くの作曲家から厚い信頼を寄せられ,これまでに初演した作品は100を超えるという。

成田が挑むB→Cは,ヴァイオリン・ソロとヴァイオリン・デュオによる斬新な世界。「共演者の百留さんは現代音楽に精通するヴァイオリニストで,僕は普段いわゆるクラシックを弾いています。では,それぞれに共通するものは?通底するものは何か?ということを聴きとって欲しい。そして時代を超えても音楽に共通するメッセージをも感じ取って頂けたら…」と彼は語る。

ヴァイオリン・ソロの演奏曲目には,バッハと2組の作曲家の作品が並ぶ。それら2組とは,パガニーニとエルンストそしてフーバーとファニーホウである。2つの組み合わせは,異なる時代に属するものの,どれも美しく成田にとって挑戦的な楽曲だという。フーバーとファニーホウは師弟関係にある作曲家で,パガニーニとエルンストはライバル関係にある演奏家同士だった。演奏から2組の作品の同時代性を感じ取って欲しいと成田は書いている。

まず,バッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番」でリサイタルの幕が開き,アメリカを拠点に活動するイギリスの作曲家ファニーホウの「見えない色彩」へと続く。「見えない色彩」は,バッハのシャコンヌとの関連が窺われる「シャコンヌ風間奏曲」とともにアルディッティ弦楽四重奏団のヴァイオリン奏者アーヴィン・アルディッティに捧げられた。「シャコンヌ風間奏曲」がファニーホウの複雑性が頂点に達した時期に書かれたのに対し,「見えない色彩」はモノフォニックな筆致で書かれ,旋律がより明快な作品。

パガニーニの「24のカプリース」第24番に続いて演奏されるのは,エルンストの「夏の名残のバラに基づく変奏曲」。エルンストはモラヴィア出身の作曲家であり名ヴァイオリン奏者でもある。「夏の名残のバラ」は,19世紀ロマン派の詩人トーマス・ムーアによる同名の詩に旋律が付けられた伝統的なケルト民謡。曲は序奏と主題,4つの変奏を経てフィナーレへと至る。単純な音楽のようでありながら,かなりの技巧を要する楽曲でもある。

「インタルシーミレ」を書いたクラウス・フーバーは20世紀後半のスイスを代表する現代作曲家。この曲は,成田が第2位を獲得したパリのロン・ティボー国際コンクールの課題曲として作曲された。だが,フーバー唯一のピアノ協奏曲がこの曲の原曲。モーツァルトのピアノ協奏曲第27番の第1楽章の断片がいくつか引用されている。曲全体は静謐な響のなかで,音同士のぶつかり合いや音程の飛躍がある。成田は「間の取り方,語彙の豊さ,詩情あふれるロマンチックな歌が内包されている」と述べている。

ヴァイオリン・デュオの作品には,百留氏の信頼するマロンドラへの委嘱作品「24のモデュラー・セル」,ヴィヴァルディの「トリオ・ソナタ ヘ長調 RV70」,ボールドウィンの「ウト,レ,ミ,ファに基づいて」の3曲が選ばれた。

「24のモデュラー・セル」は単一楽章の楽曲だが,24の短いセクションで構成される。音の素材は主に4つの要素に分割され,そこから6つの異なるタイプに細分化される。各セクションは,ヴァイオリンの多様な技術的側面とデュオによる相互作用が対照的に展開される。パガニーニの「24のカプリース」が「モデュラー・セル」の音楽的要素と技術面の展開に影響を与えているとマロンドラは解説する。

現代曲に続いて,2声部で書かれたとはとても信じがたいようなヴィヴァルディの「トリオ・ソナタ」が演奏される。その次に登場するボールドウィンはルネサンス後期に活躍したイギリスの歌手・作曲家。「ウト,レ,ミ,ファに基づいて」はヴァイオリンで演奏される2声部の音楽。主にバス声部が旋律を奏で,テノール声部は「ウト,レ,ミ,ファ」の音を繰り返して旋律を支える構造になっている。中世オルガヌムのカントゥス(定旋律)の役割をテノールが果たす作品を取り上げることで,西洋の多声音楽の原点に遡るという趣向でリサイタルを閉じる。

アンコールで取り上げられたブレクトの「2つのエクササイズ」は,ジョン・ケージの「4分33秒」をさらに一歩前進させたような作品。成田がこの日の演奏曲目を次々に挙げて,一番良かったと思う曲目のところで聴衆の起立を促すアンケートのような趣向。嫌いな曲目についても尋ねる。一通り済んだところで,これがアンケートと思いきや「2つのエクササイズ」であることが明かされる。

バロックから現代曲まで,時代を超えて音楽が発するメッセージは同じであるという,成田達輝が聴衆に訴えたかった内容が十分に伝わったリサイタルだった。それと同時に,首都圏と地方との音楽的なギャップを感じさせる演奏会でもあった。客の入りは小ホールの約半分くらい。それも平均年齢はかなり高い。若い聴衆にこそ現代作品にもっと親しんでもらいたい。どうやら,音楽面でも若い世代に守旧派的な傾向が強まっているようだ。
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