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2019年03月30日17:11

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ロッシーニ:歌劇『セミラーミデ』(全曲)

ロッシーニ:歌劇「セミラーミデ」(Melodramma Tragico in Due Atti)

セミラーミデ: アルビナ・シャギムラトヴァ
アルサーチェ: ダニエラ・バルッチェローナ
アッスール: ミルコ・パラッツィ
イドレーノ: バリー・バンクス
オローエ: ジャンルカ・ブラット
アゼーマ: スザンナ・ガスパー
ミトラーネ: デヴィット・バット・フィリップ
ニーノの亡霊: ジェームス・プラット
合唱: オペラ・ララ合唱団
管弦楽: エイジ・オブ・エンライトメント管弦楽団
指揮: サー・マーク・エルダー

録音:2016年8月・9月,ヘンリー・ウッド・ホール,ロンドン(セッション)
Opera Rara: 9293800572(4CD)

このディスクは,ロッシーニの没後150年にあたる去年9月にリリースされた,古楽器によるロッシーニの歌劇「セミラーミデ」の全曲盤。これまでの再演の際し,部分的に削除されたり,作曲当時の演奏法が無視された箇所などを復元した「完全版」と称するもの。最近では稀なスタジオでのセッション録音によるアルバムでもある。

イタリアの眩い光に輝くようなロッシーニのオペラをピリオード楽器でどう再現するのか興味があって購入してみた。率直にいって,ロッシーニのオペラはモダン楽器で演奏する方が面白い。ベルカント唱法と古楽奏法との相性がいまひとつしっくりと来ないからである。ただし,何度も聴いているうちに,劇場での演奏であれば,こまかなニュアンスが伝わってきて,CDとは比べものにならないほど楽しめそうな気もしてきた。

「セミラーミデ」はもちろんベルカント・オペラであるが,父親の仇を取るというストーリーの作品で,人間の欲望と愛情が交錯するドラマチックなオペラでもある。古代バビロニアの女王,セミラミーデでは,シリアの王子アッスールに唆されて夫の国王ニーノの殺害に加担する。時を経て,セミラーミデは若い武将アルサーチェと結婚して王位を継がせることにする。しかし,アルサーチェが先王との息子であることが分かり,アッスールはセミラーミデを殺し,アルサーチェはアッスールを殺して,復讐を遂げる。

このCDではオーケストラも歌手たちもこの劇的な展開の悲劇を体当たりの表現で健闘しているものの,やはりドラマチックな表現という点ではモダン楽器のオーケストラによる演奏には及ばない。煌々とした照明にてらし出されたテレビ・スタジオと仄暗い蝋燭の灯にほのかに浮かび上がる演劇の舞台くらいの違いはある。ライブで観るなら後者の方が多様なニュアンスを感じ取ることができてより楽しいのだろうが,情報量が少なくなりがちなCDでは前者に軍配があがる。

ロッシーニの歌劇に対する既成概念が強固な場合はなおさらのこと,モダン楽器のオーケストラによる雄弁な伴奏が有利に働く。演奏史の上では,現在のようなロッシーニの上演形態は,オペラ・ハウスでの上演の演奏効果や聴衆の好みを反映した「虚偽」の演奏なのであろう。だが,「虚偽」に慣れ親しんだ耳には,「正統」がインパクトを欠くように聴こえる。バロック音楽の演奏でも同じことが起こったように。クラウディオ・アバドが振ったロッシーニのオペラ・ブッファに慣れ親しんだ世代が,ピリオード楽器によるロッシーニを一朝一夕に受容することは容易ではない。

しかし,見方を変えるなら,あの煌びやかなロッシーニの音楽を古楽器でよくぞここまで表現したものだと感心する。ガーディナーに鍛え上げられたエイジ・オブ・エンライトメント管弦楽団だからこそ成し遂げられたという面もあるだろう。指揮者の功績が大きい可能性も十分考えられる。イギリスの耳の肥えた聴衆の後押しも貢献しているかもしれない。彼らが古楽器による陰影の濃やかなロッシーニのオペラを求めているからという事情も考えられなくはない。いずれにしても,成熟した音楽文化が背景にあることは間違いなさそうだ。

このCDをスタジオ・セッションで制作したのはOpera Rara。”Recovering, restoring, performing the forgotten operatic heritage of 19th century”を看板に掲げるOpera Raraらしい企画である。そして,”BBC Music Magazine Award 2019にもノミネートされていたはず。Brexitで世界中を騒がせているイギリスだが,この豊かで成熟したオペラ文化は羨ましい。

チャイコフスキーはおろか,ラヴェルやドビュッシー,さらにストラヴィンスキーまでオーセンティックな楽器で再現する時代だ。そのうち,古楽器で演奏するワーグナーが登場する日もそう遠くはないかも知れない。どのような「トリスタン」や「パルシファル」になるのか,「神々の黄昏」をどう表現するのか興味は尽きない。いずれそのような日がやって来るのが楽しみな反面,馴染むのに時間と労力が取られそうで面倒でもある。
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