昨日の封じ手の時点で羽生棋聖の優勢、というのは見ているとそんな感じに見えたが、そうであるならやはり3七角と角を渡辺竜王に打たせた手が絶妙に良く、そして今日の5九飛車打も結果的だが重荷になった。
大ゴマを自陣に打たせてそれを相手の重荷にさせる、と言う戦術が本当に成立しているのなら羽生棋聖の指し回しは素晴らしいと思うし、これはソフトと人間の違いをよく理解しているのではないかとさえ思う。
持ち駒に大ゴマがあれば、相手陣に打ち込んで駒を取りながら馬または竜を作っていく手は魅力的だし、少なくともアマチュアレベルでは「良い手」とされている。特に十字飛車なんかは指している方は勝った気分になる手、だと思う。
5九飛車の打ち込みで渡辺竜王が勝った気分にはならなかっただろう。あの時点では既に羽生棋聖の攻撃に迫力があったし、金を取った後の攻めがそう簡単ではなかったが、4八銀と事実上金と交換した銀をすぐに矢倉の補強に使われてみると、簡単に竜が働らかない。この竜を追いかけるのに二枚の角が持ち駒にあった時点で羽生棋聖の構想は勝っていた、と感じる。
やはり、角を打たせて馬を作らせ、これを飛車で消してしまう、という手順辺りから終盤まで読み筋にあったと思う。銀と桂の連携した攻撃に、後々角を加えることで渡辺竜王の1筋の端を確実に突破できる、という作戦だったのだろうが、仮にそうであったとしてもそれが「勝てる」というわけでもない。当然だが反撃はあろう。ただ、渡辺竜王の反撃も手が遅かった、と感じる。
一部には、三浦九段のソフト使用疑惑から、忖度してわざと負けている、見たいなうわさもあるが、そうではないだろうと思う。どっちかと言うと羽生棋聖がここ一番に良く集中して勝ちに行く将棋を研究してきた結果だと感ずる。
特に今日の第五局は角換わりになったので、最新の研究結果が表れた結果ではないだろうか。中盤で銀をぶつけに行くところなど、何も研究ナシから指しているのではないだろう。恐らくは手に持っている角の使い道をさんざん模索してきた結果の指し手だと思う。ただ、今日の将棋の再現はなかなか起こらないはず。渡辺竜王は9筋の端歩を保留して駒組を行ったので、同一局面はなかなか現れまい。9筋の歩を突き返さなかったのは終盤で出てきた9四桂打ちの反撃を見ていたからだろうし、角換わりでは先手の右桂はほぼ確実に手に入るので、8筋の突き捨てから桂打ちの反撃は、研究の範囲内だったのだと思う。
けれど、羽生棋聖の攻めがやはり早かった。
もう一つ感じるのは、そもそもソフトウエアの評価値は角が低いという点がある。角を切って金を取る手など、点数が上がったりしやすいので、角より金の方が価値がある、と考えるのはソフトウエアを使って考えていれば自然に思い込みやすい。
どう考えても、「取った駒をどう使うか?」 の方が問題であって、手駒に金があれば寄せやすいのは確かだが、攻撃力と言う点で大駒を上手く使いたいのは必然である。角の評価値が低ければ、角よりも飛車を有効活用してみたいし、角は二枚替えで、できれば金を手にする、という方針を立てて考えるのは分かり易かろうと思う。
それが「人間の心理」というものだし、人間対人間の将棋は決してソフトウエアと対戦しているのではない。難解な変化は読み切れないなら指したくはないし、スマートに考えて有利になる手を選ぶ、という人間本来の考え方は当然対局に現れるだろう。
悪い手ではない、と思わせる手を相手に指させておいて、そこから徐々に追い詰めるような研究手順を追っているなら、羽生棋聖の戦略的勝利だと思う。対局後の棋譜をソフトで調べてみても悪い手だと考えられないようなものが、実は実際の対局では悪手だった可能性もある。それはどっちかと言えば、角を打ったあとの手順に悪い手がある。飛車を打った後もそうなのだろう。
今日の解説を聞いている限りで、どの手が悪かった、というコメントはなかったが、最後の8四香打ちの詰めろには驚いた。あんな手が「詰めろ」になる。と言うことそのものがちょっと簡単には気が付かない。少なくともアマチュアならもっと安全に勝ちに行く手順を考えるだろう。
やはりさすがは永世7冠を名乗る資格を得るだけの棋士なのだ、と感心するしかない。長手数の詰将棋も正確に読み切っていて、その中から、最善手を探し出していける力があるのがプロ棋士だと思う。渡辺竜王が決してその力で劣っている訳ではあるまい。むしろほぼ互角の、アマチュアでは想像もつかないような読みの深さを二人とも持っているはずだ。
そのことと、日常的な研究スタイルはちょっと違った話だと思う。全部の手筋を読んでしまえば、その局面での優劣ははっきりする。実際には詰むシチュエーション以外で全部の手を読むのは普通出来ないが(棋神同士で戦わせると入玉で引き分けになったりする)、そうした中で、「人間だったらこの手を選択する」という判断は研究の問題だろう。当然だが人間が読む可能性のある範囲を広く深く調べておく方が、研究を実戦で使えるようになるはず。
人間の脳の働きの謎は、依然としてあるわけだが、単純な論理回路だけで作られたコンピューターがその計算力の速さを武器にして人間の思考能力を超えようか、という時代になった。そのテクノロジーそのものはすごいし、現代の私たちが日常的に使えるパソコン上で快適に動作するソフトウエアを開発した人々にも敬意を表したい。
しかし、人間同士の対局では、限られた時間の中でお互いの思考をぶつけ合うことになる。この点が計算機を相手にするのとはだいぶん違う。実際にソフトウエアの評価値は終盤までそれほど羽生棋聖側に傾いているわけでもなかった。ただ、観戦している人間には既に昨日の封じ手の時点で、これは羽生棋聖の勝ちでは、と思わせるものがあった。この違いは何なのか、という問いかけはやはり必要だろうし、その部分が人間の心だとも言える。
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羽生棋聖 初の「永世7冠」達成
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=2&from=diary&id=4890176
鹿児島県指宿市で4日から行われた将棋の第30期竜王戦七番勝負(読売新聞社主催)の第5局は5日午後4時23分、挑戦者の羽生善治棋聖(47)が渡辺明竜王(33)に87手で勝ち、対戦成績を4勝1敗として15期ぶり通算7期目の竜王となり、永世竜王の資格を得た。棋士生活32年で永世称号の制度がある7タイトル戦のすべてで、永世資格を持つ史上初の「永世7冠」を達成した。
羽生新竜王は、名人9期、王将12期などタイトル獲得通算99期となり、大台まであと1期と迫った。現在の保有タイトルは竜王と棋聖の2冠となった。
永世資格は棋戦ごとに条件が異なるが、羽生新竜王は既に名人、王将、王位、王座、棋王、棋聖を保有しており、通算7期か連続5期が条件の永世竜王を残すのみとなっていた。資格を得るのは極めて難度が高く、羽生新竜王のほかに複数の永世資格を持つのは、故大山康晴十五世名人と中原誠十六世名人の各五つ、渡辺棋王の二つのみ。
羽生新竜王は、竜王戦では6期獲得後の2003年に失冠。08年には渡辺に挑戦し、3連勝した後に4連敗を喫した。さらに、10年にも渡辺に挑戦して敗れていた。
永世7冠を決めた今回の第5局は中盤の仕掛けでペースをつかみ、そのまま優位を拡大して押し切り、羽生の完勝譜になった。
渡辺は竜王3連覇を逃し、棋王のみの1冠となった。【山村英樹】
せっかくの機会、積極的に
羽生新竜王の話 対局が終わってほっとしましたが、まだ永世7冠の実感が湧いてきません。(今期七番勝負は)せっかくの機会なので、積極的にいくつもりでした。(通算タイトル数100まであと1期で)自分なりにいい状態で次のシリーズを迎えたい。
【略歴】羽生善治新竜王 1970年、埼玉県所沢市出身、東京都八王子市育ち。小学生名人を経て、1982年に二上達也九段門下で奨励会6級。85年、史上3人目の中学生棋士としてデビュー。89年、初のタイトルとなる竜王を獲得。名人戦では94年に初めて獲得、2008年に通算5期で十九世名人の資格を得る。以来通算9期。96年に王将を獲得し、史上初の7冠全冠制覇を達成。96年内閣総理大臣顕彰。通算タイトル獲得数は最多の99期。通算成績は1391勝562敗、勝率7割1分2厘。
【ことば】永世称号
タイトルを一定回数獲得すると、原則として引退後に名乗る資格が与えられる称号。将棋の八つのタイトルのうち、今年度誕生したばかりの「叡王」を除く七つ(名人、王将、竜王、王位、王座、棋王、棋聖)にある。永世名人は通算5期、永世王将は通算10期、永世竜王は連続5期または通算7期などとそれぞれ獲得条件がある。羽生永世7冠のほかに永世称号を複数獲得しているのは、故大山康晴十五世名人と中原誠十六世名人の永世5冠、渡辺明棋王の永世2冠だけ。
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