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2017年06月07日08:30

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たいら母の一族の話 その1

母方の祖父は東北のとある地方都市の出城の城主の子孫だった。
本家は華族で歴史の教科書に載っているような人だったが、
良い意味で載っているわけではないのであまり自慢にはならない。
院生時代に一度、教授がこの本家がらみの事件に言及しようとして、
「ほらあのろくでもないことした……あいつなんて名前だっけ?」と言われて、
「○○○○です」と答えたら「よく勉強してるな」と褒められたが、
まさかそれが親戚なんですとは言えなくて困ったっけ冷や汗
話を元に戻すと、祖父は分家なので士族。
しかし、明治の御世の地方都市では「若殿様」と言われ、
それなりに裕福だったため学校に"かご"で通っていたという。

曾祖父は山っ気のある人だったらしく、
今ある財産をさらに増やそうと金山に投資した。
投資したのはマルコポーロが「その金は掘れども尽きず」と言った金山ではあったが、
本当に無尽蔵なわけはなく他にも色々と問題があり、
あっという間にほとんどの財産をすってしまい、
その報を聞いてショックで頓死してしまった。
わずかに残った財産は家令が退職金代わりに持って行ってしまったため、
祖父は中学(今で言う高校)卒業と同時に一文無しになった。
余談ではあるが、この家令は台湾に渡り退職金を元手に事業を始め、
後にとある国家的プロジェクトに関与することになる。


祖父は他の姉妹がスペイン風邪で全員亡くなっていたため実質一人っ子状態。
曾祖母は健在であったが華族の本家から嫁いできたため、
外出する時は居室に"かご"を持ち込んで乗り込み、
一生、地面を歩いたことがないという現在の常識ではかなりトンでもな人だった。
一文無しになって家まで取り上げられても、

 「家がなければ、旅館に住めば良いじゃない」

とマリーアントワネットの俗説ばりの発想で、
保養地の温泉旅館の特別室に居続けた剛の者。
最初はよもや宿賃も払えないほどの経済状態だとは思わず、
曾祖母を泊めてしまった旅館側から支払いを迫られた祖父は大学進学を諦め、
陸軍士官学校に入学し職業軍人として生計をたてることになった。


そして、年頃になると周囲の勧めで青森の素封家の一人娘と結婚する。
と言っても、この時に結婚したのはわたしの祖母ではない。
祖父はたおやかで美しい妻を熱愛し長男も生まれた。
しかし、軍務に励み、とんとん拍子に出世して、
妻の実家からの援助もあり以前よりちょっと落ちるくらいまで生活レベルを戻した矢先、
愛する妻は結核に倒れ帰らぬ人となってしまう。
まだ、幼児であった長男は妻の両親に引き取られ、
東京勤務だった祖父がおいそれとは会えない土地に行ってしまった。
なんとかして一緒に暮らしたいと思っても祖父は育児はできないし、
同居していた曾祖母は自分のことすら侍女まかせなので孫の面倒なんてみるはずもない。


となると、再婚して息子に新しい母親をつくってやるしかない。
などと考えていたところに中学時代の友人が尋ねてきた。
なんでも東京の女子大に行っていた妹を地方都市に呼び戻して結婚させたら、
結婚式の翌日に裏口から抜け出して東京に逃げたので捕まえに来たという。
女性というと、おっとりしたお姫様気質の曾祖母と大人しげな妻しか知らなかった祖父は、
意に染まぬ結婚から逃げ出すアクティブな女性に心ひかれ、
友人と一緒に逃げ出した妹と会ってみた。
楚々とした美人だった妻と比べると外見は……だが、
見ようによっては愛嬌のある面立ちだし、なにより健康そう。
そのうえ、初対面の男性にも自身の思ったことを臆せず話す気の強さも気に入った。
と言う訳で、その場で結婚を申し込んだ。その相手こそ、わたしの祖母だった。
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