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2017年02月25日16:11

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マレイ・ペライア:J.S.バッハ「フランス組曲」(全曲)

【収録曲】
 Disc1
1 フランス組曲 第1番 ニ短調 BWV812
2 フランス組曲 第2番 ハ短調 BWV813
3 フランス組曲 第3番 ロ短調 BWV814
 Disc2
4 フランス組曲 第4番 変ホ長調 BWV815
5 フランス組曲 第5番 ト長調 BWV816
6 フランス組曲 第6番 ホ長調 BWV817

マレイ・ペライア(ピアノ)

録音 2013年7月2〜9日,フンクハウス・ナレーパシュトラッセ・ザール1,
   ベルリン
DG 4796565(セッション)

このディスクは,ペライアのドイツ・グラモフォンへの移籍第1弾。たしか,移籍前のレーベルで「イギリス組曲」や「パルティータ」など多くのバッハ作品の録音を残していたはず。ペライアにとっても,バッハは重要なレパートリーなのだろう。

このアルバムを聴いて,ペライアは根っからのロマンチストなのだと思った。ロマン主義風のピアノ演奏のスタイルで,バッハの「フランス組曲」にアプローチして,その核心に肉薄することに成功したのは見事だ。ただし,このアプローチに伴う限界も露呈する結果になったが。

「フランス組曲」の演奏で,ペライアが強調するのは旋律を浮かび上がらせることだ。6曲からなるこの作品でも,旋律,和声,対位法が主要な構成要素である。ペライアが弾く「フランス組曲」では,これらの中でも対位法的な要素が後景へ退いているという印象を持つ。Disc1に収められた短調の3曲で,こうした傾向がより顕著である。とはいえ,メロディー・ラインに「フランス組曲」の全要素を集約し,表現し切ったところが驚異的といえる。なお,Disc2の長調で書かれた3曲では,和声に従属した扱いではあるものの対位法はより鮮明に描かれる。

ペライアが弾く「フランス組曲」のもう一つの特色は独特なリズム感。バロック音楽の躍動するリズムは一顧だにせず,ひたすら一定のテンポで全曲を弾き通す。「フランス組曲」はアルマンド,クーラント,サラバンドにメヌエットやジークなどの舞曲を組み合わせて作られている。ダンス・ミュージックはリズムが命で,バッハもリズムの多様性で変化や表現の幅を生み出そうとしたに違いない。だが,この作品に込められた全ての要素を一本のメロディー・ラインで表現するというペライアの方針の下では,どの舞曲も似たり寄ったりのテンポで,リズムの変化も乏しくなりがち。

当然,アーティキュレーションもレガート一本槍となる。タッチの微妙な変化で細かいニュアンスを出すことも眼中にはないのだろう。まして,スタッカートで弾くなど論外と言わんばかり。鍵盤音楽を演奏する際の古楽奏法も度外視して,ひたすら自己の内面に沈潜するといった風情をこの演奏から感じ取ることができる。良くいえば自分の音楽観に忠実な演奏,別の言い方をすれば前世紀の遺物のようなスタイルである。古楽の分野で,これまでに様々な試みがなされ,大きな成果を収めたというのに,自分の世界をここまで守り通すことができるのは,お見事といえばお見事である。

ペライアの「フランス組曲」を聴いていて,歌舞伎の女形を思い起こした。このピアニストの音色は厚化粧の女形を連想させる。いろんな物を盛りに盛った美しさのようだ。しかし,女性以上に女性らしい演技であることも確かである。男性だからこそ表現できる女性の色気もある。ここの狙いを定め,見事に突破した点は大いに評価すべきであると思う。

歌舞伎の女形が演じる女性も魅力的ではある。だが,やはり素顔の女優が演じる女性の方が,個人的には見ていて面白い。女性の色気の凝縮度が低くても,そこには紛れもなく現実の複雑な人間が存在する。同様に,音楽も無理な圧力をかけて変形させるような演奏は,正直なことろ疲れる。ただし,ペライアの「フランス組曲」を聴いて,この作品の核心を理解できたような気になったのも事実である。

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