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2017年01月21日18:26

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ヴォルフ 「イタリア歌曲集」

【収録曲】
フーゴ・ヴァルフ「ハイゼによるイタリア歌曲集 第1巻・第2巻」

 1 小さなものでもわたしたちをうっとりさせるようなものがるわ
 2 うわさによると,遠いところへ旅立たれるそうですね
 3 あなたはこの世の誰よりも美しい
 4 祝福あれ,この世を創られた方に
 5 目がみえない人たちはいいなあ
 6 だれがあなたを呼んだの,だれがそうしろと言ったの
 7 月は言うに言われぬ苦しみを口に出し
 8 さあ,もう仲直りしようよ,いとしいひと
 9 お前の魅力のすべてがあますところなく描き出され
10 あなたはほそおい一本の糸で私を吊り上げ 
11 どんなに長い間わたしは待ち望んだでしょう
12 いけませんわ,お若い方,そんな風になさったりしては
13 いい気なもんだね,きれいな娘さん
14 おい兄弟よ,ひとつ世を捨てて坊主にでもなるか
15 わたしのいいひとはとても小さくて,腰も屈めずに
16 戦地のおかげで若い兵士さんたち
17 お前の恋人に焦がれ死ぬような思いをさせたいなら
18 さあブロンドのおつむをあげて,眠ってはだめよ
19 わたしたちふたりは長い間むっつり黙り込んでいました
20 わたしたちのいいひとが月あかりのうちの前でうたっている
21 うわさではあなたのお母さんが反対だっていうことね
22 セレナーデを奏でるためにわたしはやってきました
23 どんな歌をおまえはうたってあげたらいいのだろう
24 わたしはもう乾いたパンを食べることはないでしょう
25 わたしの恋人がわたしを食事に招んでくれたの
26 いろんなひとがわたしに話してくれたことによると
27 やっとのことで疲れた体をベッドに横たえたと思ったら
28 わたしが貴族の出でもないくせになんで言うのね
29 やんごとないあなたの御身分のことはよくわかっていますわ
30 あんなもったいぶった女は,好きなようにさせておくさ
31 どうしてわたしが陽気に笑ったりしていられましょう
32 なにをそんなにかっかと起こっているの,いとしいひと
33 ぼくが死んだら,体を花でいっぱいに覆っておくれ
34 あなたが朝早く寝床から起きだすと
35 あなたの亡くなったお母さんに幸あらんことを
36 もしあなたが天国に召されるようなことがあれば,いとしいひと
37 きみを愛するあまり,ずいぶんと時間を無駄にしてしまった
38 きみがぼくをちらりと見て,そしてくすくす笑い
39 すてきだわ緑色って,またその服を着ているひとも!
40 いとしいひと,わたしがあなたの家のまえを通るとき
41 きのうの晩,ぼくが真夜中ごろ目を覚ましたとき
42 もうこれ以上うたいつづけられない,だって風が
43 ちょっと黙ったらどうだ,しつこいおしゃべり屋さん!
44 ああ,おまえは知っているか,ぼくはおまえのために
45 奈落があのひとの住む小屋を吞みこむがいい
46 ペンナにわたしのいいひとがいるの

クリスティアン・ゲルハーヘル(バリトン)
モイツァ・エルトマン(ソプラノ)
ゲロルト・フーバー(ピアノ)

録音:2009年7月30日〜8月,9月25日・26日,音楽演劇学校大ホール,ミュンヘン
RCA 88697727202(セッション)


今日の日記では,レヴューは最小限にとどめ,ヴォルフについて調べてわかったことを中心に書くことにする。その調べてわかったことも,上澄み程度でしかないが。というのも,この作曲家については,ほとんど知らないに等しい。背景的な知識はもちろん,その作品もほとんど聴いたことがない。だから,演奏を評価するといっても,評価のしようがないのである。ただ,ドイツ・リートを聴くならヴォルフを避けて通れないといわれていることは知っている。今年は腰を据えて,歌曲に取り組んでみようと思い,どうせなら最難関にいきなり挑戦するアプローチもありうると考えたわけである。

クラシック音楽作品名辞典によると,フーゴ・ヴォルフは「19世紀ドイツ・リートの頂点をなす作曲家。ワーグナーによって極限に達した機能和声と,デクラメーション様式が統合され,これをピアノ伴奏歌曲の世界で実現した」作曲家である。「デクラメーション」とは「朗読」の意味で,「言葉の意味や韻律を重視して,歌うこと」をいう。テクストをメロディーに合わせるのではなく,テクストの意味や韻律を際立たせる朗読の要素が強い歌い方ということだろう。

日本と西洋とでは,朗読のウエイトがかなり異なるように思う。相当昔の話になるが,八重洲ブックセンターのドイツ語コーナーで,有名な小説の朗読を収めたカセット・テープを見つけて意外に思ったものだ。日本で本は自分で黙読するものだと思っていたが,ドイツでは誰かの朗読を聴くという方法があることをが新鮮な発見だった。最近では,読者の集まりか何かで,ベスト・セラーの作家自身が朗読することも一般的であることをテレビのニュースで知った。ギリシャ神話なども口承で伝えられてきたことを考えると,西欧世界でのデクラメーションの役割がいかに大きなものであったかわかるような気がする。

ヴォルフは2曲の歌劇をはじめ,わずかな数の管弦楽曲,室内楽曲そしてピアノ曲を残しているが,質及び量の点で歌曲の作曲家だった。そして歌曲の中でも,「メーリケ歌曲集」(全53曲),「イタリア歌曲集」(全46曲)そして最晩年の「ミケランジェロ歌曲集」(全3曲)が代表作とされているようだ。ほかに大規模な歌曲集としては,「アイヒェンドルフ歌曲集」(全20曲),「ゲーテ歌曲集」(全51曲),「スペイン歌曲集」(全44曲)がある。

「イタリア歌曲集」のドイツ語名は”Italienisches Liederbuch, nach Paul Heyse”で,ドイツの詩人,パウル・ハイゼがイタリアの民衆歌をドイツ語に翻訳した詩の中から選んだテキストに曲をつけた作品。第1巻(24曲)と第2巻(22曲)に別れているのは,歌劇「お代官様」を作曲するための中断があったからだ。このオペラが完成した後,当時,ウィーン宮廷歌劇場の芸術監督の地位にあり,共に作曲を学んだ同門のマーラーに宮廷歌劇場での上演を依頼に行ったものの,すでに次のシーズンの全演目が決まっていて,上演にこぎつけることは叶わなかったという。第1巻と第2巻の間に4年のブランクがあるため,スタイルの上で違いがあるらしい。

このCDではバリトンとソプラノが歌う曲を分担している。もちろん,それぞれの曲目のキーが違うためだが,この歌曲集のテキストはイタリアの民衆歌のうち若い男女の恋愛を題材にした詩をテキストにしていることが大きな理由だろう。ラーナー・ノートによると青年の歌は恋人に許しを請う,女性の魅力を表現する,自分の心の内を省みる内容が多い。それに対し娘の歌は移り気で,愛を拒絶し,時にはサディステックな喜びを表現するような内容でもある。細かいニュアンスはもちろん,歌詞を理解するのも難しいが,西も東も昔も今も変わらないような気がする。

テキストのニュアンスや意味以上に,ヴォルフがドイツ・リートの頂点をなす作品を書いたという側面はかなりよく理解できる。この作曲家の歌曲がデクラメーションの様式で書かれていることはだれが聴いてもわかる。メロディーの美しさではなく,テキストの意味などを表現することが狙いであることは間違いない。また,和声感を極限まで拡張して,新ウィーン楽派の一歩手前まで行っているようにさえきこえる。収録時間が1時間あまりのCDに46曲が詰め込まれていることからもわかるとおり,1曲の平均演奏時間は2分前後であり,ウェーベルンの作品を想起させる曲集である。簡潔で力強く透明感があるところが似ている。何よりも,たとえ素朴であっても,人間の情念を凝縮したような様式がドイツ・リートの最高峰といわれる所以だろう。それだけに,毎日,繰り返して聴くには相当の忍耐力がいる。病的な沈潜と爆発が交替するような音楽であり,馴染むのが容易でない作品であるが,ヴォルフの世界への入り口ひいてはドイツ・リートへの糸口が見えてきたように思う。

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