鎌田実先生の講話集からです。鎌田先生は長野県諏訪の病院で地域医療に取り組み、病と生活をまるごと診る「温かい医療」を実現された方です。
僕がまだ青年医師だった頃、末期がんの四十代の女性が入院してきました。診察を終え、僕はいつものように「がんばりましょう」と声をかけて病室を出ようとしました。
でも、何かがおかしいのです。振り返ると、患者さんが涙をポトッポトッと落としていました。どうしたんだろう、何か傷つけるようなことを言ったんだろうか。
まったく分からないまま僕は、ベッドの横に、黙ってたたずんでいました。患者さんは、こう言いました。
「先生、私は今日まで、がんばって生きてきました。もうこれ以上がんばることはできません」。
僕は、ハッとしました。がんばれという言葉が人を傷つけることもあるんだ、それから僕は、やみくもにがんばれと言うのを躊躇するようになりました。必死に病気と闘ってきた人に「がんばれ」と言うのは、
「あなたのがんばりが足りないから、病気が悪くなるんだ」と、二重に苦しめるようなものです。
それから十数年経って、あのときに僕が言うべきだった言葉に気がつきました。
「がんばってるよね」と、病気との闘いや人生を肯定的に受け止めてあげる。
たとえば、学校に行けない子に、親は「がんばれ」と言います。でも、そう言われると子供はよけいつらくなる。
「よくがんばってるな」と言ってあげたほうが、ホッとするんじゃないだろうか。努力していることを誰かが見ていてくれるのは、嬉しいものです。
人生はがんばったり、がんばらなかったり、がんばるだけの一辺倒でなくて、いいように思います。
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