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2015年05月10日16:18

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『フランス革命時代のフルート協奏曲』/パユ,アントニーニ&バーゼル室内管

【収録曲】
1 ドヴィエンヌ(1759−1803)
 フルート協奏曲 第7番 ホ短調(1787)
2 ジアネッラ(1778−1817)
 フルート協奏曲 第1番 ニ短調(1800頃)
3 グルック(1714−1787)
 フルート協奏曲 ト長調 Op.4(1770頃)
4 プレイエル(1757−1831)
 フルート協奏曲 ハ長調 B.106(1797)

エマニュエル・パユ(Fl)
バーゼル室内管弦楽団
ジョヴァンニ・アントニーニ(指揮)

録音 2014年7月17−19日,ランドガスト・ホーフ,スイス(セッション)
Warner 2564627678


エマニュエル・パユの新譜。このディスクには,1789年に起きた「バスティーユ監獄の襲撃」の前後30年ほどの間に作曲され,フランスで初演されたフルート協奏曲が4曲おさめられている。いずれの楽曲も3楽章形式の構成で,演奏時間も15分少々と,作曲様式も含め共通点は多い。

この選曲をみると,あまり注目されることのないフランス革命期のフルート協奏曲に対して,パユは並々ならぬこだわりを持っていることがうかがわれる。こだわりの域を超えて,アイデンティティーの一部とパユがみなしているようでもある。憶測にすぎないが,そのあたりの事情を推測してみる。

紆余曲折はあったにせよ,絶対王政を倒して共和政を確立したフランス革命の底流には,貴族社会から市民社会への移行という大きな変革のうねりがある。それに伴って,音楽の世界でも,王侯貴族の宮廷でのオペラやバレエの上演から市民一般に開かれた演奏会へと舵を切る。さらに,バロック・オペラの声楽中心主義から公開演奏会の器楽中心主義へという変化も重なる。このCDの原題”REVOLUTION”は,このような点を踏まえたもの。

こうしたオーケストラの公開演奏会の眼目のひとつが協奏曲であり,フルートは独奏楽器として脚光を浴びることとなる。とくに,フランスではフルートの人気が高かったのではないだろうか。ニコレ,ランパルをはじめフルートの名手を輩出していることを考えると,フランス人にとってフルートは特別の意味を持つ楽器のように思う。フルートが独奏楽器としての地位を確立したフランス革命の時期に書かれた音楽に特別の愛着を覚えるのは,パユにとって自然の成り行きともいえる。


さて,このアルバムの最初の作品を書いたフランソワ・ドヴィエンヌは,パリ・オペラ座やコンセール・スピリチュエルなどでフルートやファゴットの奏者として活躍した。この時期に設立されたパリのコンセルヴァトワールでもフルートを教えていた。また,作曲家でもあったドヴィエンヌは,木管楽器による室内楽,フルート協奏曲や協奏交響曲を残す。バロック音楽から古典派の音楽への移行期の特徴である華麗で流麗な音楽が特徴。

第7番はドヴィエンヌの数多いフルート協奏曲の中で最もよく知られた作品。ドラマチックな激情と優雅なメロディーを巧妙に調和させた第1楽章と第3楽章。技巧的なエピソードと抒情的なパッセージとがコントラストをなすとともに,違和感なく共存させているところに才能の豊かさを感じる。緩徐楽章では,抒情味豊かなフルートが流麗に響く。

パユのフルートは洗練された響きで,激情を交えつつ美しく描いてゆく。劇的な表現と抒情的な表情が目まぐるしく交錯するのがこの作品の特徴だが,不自然さをまったく感じさせない彼の演奏は,卓越した音楽性の証だろう。技巧性をさほど意識させないのも,パユならではの超絶技巧なのだろう。


このCDの2曲目を作曲したルイジ・ジアネッラはイタリア人。ミラノ・スカラ座でフルート奏者をつとめた後,パリに出てコミック・オペラで首席フルート奏者のポストを得る。パリでは,超絶技巧で勇名を馳せ,聴衆の心を鷲掴みにした。ジアネッラもまたソナタや二重奏,三重奏,四重奏などフルートのための室内楽作品のほか4曲のフルート協奏曲を作曲する。

ジアネッラのフルート協奏曲第1番は,1800年前後にパリのプレイエル社から出版された。この作品はドヴィエンヌの後期フルート協奏曲と同時期に書かれたのだが,激情と抒情の対比がより強烈で,劇的な表情が支配的である。ベル・カント・オペラから大きな影響を受けており,ヴィルトゥオージティよりも美しいメロディー・ラインが際立つ作品である。

この作品では,最初から最後まで続くかのようなフルート・ソロのメロディー・ラインを表情豊かに表現することに的を絞ったフルート独奏である。とくに,低音域でのフルートの柔らかくふくよかな響きで変化をつける工夫をしているようだ。演奏技巧がパユの行き届いた心配りを支えているようで,このようなところにも演奏家の人柄がにじみ出ているのは興味深い。


3曲目の作曲家,クリストフ・ヴィリバルト・グルックは,歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」で有名なドイツの作曲家。アクロバティックな超絶技巧が売り物だったスター歌手中心のオペラから,歌劇作品を構成する様々な要素のバランスを,重視した近代的なオペラへと変えた功労者として音楽史に名をとどめる。「オルフェオとエウリディーチェ」では,フルートが活躍する間奏曲「精霊たちの踊り」で飛び抜けて有名。

グルックのフルート協奏曲は,ドヴィエンヌやジアネッラのギャラントなスタイルとは一線を画す,端正で明快な古典派の気品がただよう作品。フルート・ソロの超絶技巧も控え目で,装飾的な音型の使用もほのめかす程度にとどめられている。ハイドンを思わせる喜びに満ちた優しいメロディーが魅力のフルート協奏曲。

パユの古典派風の演奏スタイルが秀逸だ。ここまで鮮やかに演奏様式を切り替えられるとは,なんと懐の深い包容力のある演奏家なのだろう。この作品のテキストとの調和をものの見事に図りつつ,必要にして十分なプレゼンスを演じ切るさまには,ただため息が出るばかり。


最後を飾るフルート協奏曲の作者,イグナーツ・プレイエルは,オーストリア出身の作曲家。コンセルヴァトワールが設立された年に,パリに移り住む。プレイエルは企業家でもあり,ハイドン,ベートーヴェンなどのミニチュア・スコアを出版する事業を手がけ,さらにはピアノを製作するプレイエル商会も設立した。

プレイエルのフルート協奏曲は,最初オーボエ協奏曲として作曲され,2年後にフルート版とチェロ版が作られた。「シュトゥルム・ウント・ドラング」(疾風怒濤)を思い起こさせるフルート協奏曲。音楽の表情は濃厚で陰影は深い。それでいて,フランス風の典雅さも併せ持つ。最初から最後まで超絶技巧ずくめで,他の3作品とは異なる風合いの音楽である。

この曲では,ドイツ流のフルート演奏のような濃厚な味付けである。明るく透明で軽やかなフルートの音色が,ズシリとした手応えのやや暗い深みのあるウィーン風の響きにパユのフルートは変わる。これ見よがしに技巧をひけらかすことは避けつつ,あちこちに散らばる難所を軽々と乗り越えてゆく。聴けば聴くほどフルートの巧さに惚れ惚れとさせられる。


4曲ともアントニーニとバーゼル室内管弦楽団の伴奏は非凡。とりわけ,パユの意図を察し,全面的にフルート・ソロを支える姿勢とその技量の確かさに好感をおぼえる。パユの解釈と歩調を合わせて,作品ごとに異なる様式感をふまえ,それぞれの個性を描き分ける手腕は惚れ惚れとする。


とはいえ,このCDを全体としてみたときの印象はやや異なる。率直に言うと,どの楽曲も異曲同音にきこえがちだ。受け身の姿勢で聞いている限り,どの作品もギャラント様式で書かれたモーツァルトの佳作のようにきこえる。モーツァルトのフルート協奏曲集ですと言われてきくと,それは違うと指摘できる自信はない。それくらい,漫然ときいただけでは,区別をつけるのが難しい。

それほど似かよった作品の特徴を的確にとらえ,それぞれのスタイルと個性を際立たせようとするパユの熱意が直に伝わってくる演奏であることは間違いない。パユの並外れたテクニックや音楽性,さらにはフランスのフルート作品に対するパユの愛情があふれるディスクといえる。


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