福沢諭吉は若い頃、大阪の適塾というところでオランダ語を習っていました。とても活気のある塾で、みんなが猛烈に勉強していました。あるとき、少し寝ようと思った諭吉は、枕を探しますが見つかりません。
そこで諭吉は気づくのです。
「そういえば、布団を敷いて枕で寝たことなんかなかったな」。
夜は寝ずに勉強をして、誰かが朝ご飯を作りはじめた頃に「ちょっと寝るか」と横になって、朝ご飯ができた頃にはまた起きて勉強するという毎日だったのです。
私は音読マラソンというのを聞いたことがあります。小学校3年生から6年生まで200人ぐらいの子どもを集めて、夏目漱石の『坊っちゃん』を声に出して読んで、一日で読みきってしまおうという試みです。
私が最初に「親譲りの無鉄砲で」と『坊っちゃん』の一節を読み、そのあと子どもたちが「親譲りの無鉄砲で」と繰り返していくのです。
最後まで音読するのに6時間もかかりました。最初は1時間音読したら、「先生、疲れた」という子が出てきました。
「疲れた人は立ってみよう。立つと元気になるよ」と私が言うと、立つのは嫌なので、それからは「疲れた人いる?」と聞いても、みんな「疲れてないー!」というようになりました。
全員で6時間かけて読み切ったときは、ものすごい歓声が上がりました。
「『坊っちゃん』最高!」と、みんなで喜びました。
最初のうちは「疲れた」といっていたのに、6時間後には「みんな元気?」と聞くと「むちゃくちゃ元気!」といって大騒ぎをしているのです。
人間というのは、大きな力を秘めています。でも、ほとんどの力を使っていないのです。ですから、ときどき自分の力の限界を確かめるために、特訓や修行をしてみるといいのです。
野球の素振りでも、百回や二百回振ったくらいでは変らないと思いますが、1日千回ずつ10日で1万回振れば、変化が実感できるはずです。
そういう特訓をするには覚悟が大切です。
「負けないぞ」
「やりとげるぞ」
と覚悟をしてはじめるのです。
福沢諭吉に負けず、頑張ってください。
以上、斉藤孝「子どもと声に出して読みたい《実語教》」(致知出版)より。
ログインしてコメントを確認・投稿する