「なぜ人のものを盗るのか」
その夜、中江は又左右衛門や加兵衛らに対して「親孝行」の話から始めた。
わたしたちは、親によってこの世に生まれました。その恩は計り知れません。
ですからまず、自分を生んでくれた父母を敬い愛することは大切です。
しかし考えてみれば、その父母も祖父母から生まれました。
そうなると祖父母に対しても愛敬の念を失ってはなりません。
その考えを推し進めていくと、わたしたちはご先祖様に対しても、孝を尽くす義務があります。
中江は皆の理解を確かめるように見渡したが、なかでも漁師の加兵衛は食い入るように中江の話に聞き入っていた。
が、それだけではありません。
わたしたちは一人で生きているわけではありません。
かならず、他人との関わりが あります。
世の中との関わりがあります。
恵みや慈しみを くださる方々に対しても、われわれは愛敬の念を持たなけ ればなりません。
つまり、他人や世の中に対しても孝を尽くさなければならないのです。
他人や世の中に対して愛敬の念を持てば、他人のものを盗んだり、みだりに自分の欲望を満たそうなどという考え は消えるはずです。
そういうことをする人は、他人から受けた恩を全く知らない人です。
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