1 R.シュトラウス:子守歌(5つの歌Op.41第1曲)
2 フンパーディンク:夜になって私が眠りにつくと(歌劇「ヘンゼルとグレーテル」より)
3 ファリャ:アストゥリアス地方の歌(7つのスペイン民謡より第3曲)
4 モンサルバーチェ:黒人の子供のための子守歌
5 ベリオ:私はさまよいながら驚く(フォーク・ソングスより第2曲)
6 ベリオ:日が昇った(フォーク・ソングスより第3曲)
7 トスティ:夢
8 ガジャルド・デル・レイ:Mersedesa
9 ガジャルド・デル・レイ:Cancion de cuna
10 ライモンズ・パウルス:Mersedesa
11 ブラームス:子守歌(5つの歌曲Op.49より第4曲)
12 Alfreds Kalnins:Sub Ruh
13 ヤーニス・ザーリーツ:Kindchens Schlaflied
14 Alfreds Kalnis:子守歌
15 シューベルト:夜と夢D.827
16 ライモンズ・パウルス:16)Vientulais Namins(「Mazs, laimigs zens」より)
17 ライモンズ・パウルス:Aicinajums
18 伝承曲:Aiji zuzu laca bemi
エリーナ・ガランチャ(メゾ・ソプラノ)
ホセ・マリア・ガジャルド・デル・レイ(ギター,04,08〜10)
ラファエリ・フイヤートル(ギター,07)
ライモンズ・パウルス(ピアノ,10,16,17)
マルコム・マルティノー(ピアノ,11〜15)
アルブレヒト・マイヤー(オーボエ,11)
ベルリン・ミュージック・アンサンブル
グラン・カナリア・フィルハーモニー管弦楽団&カレル・マーク・チチョン指揮(01〜03)
2023年1月31日,ラス・パルマス・デ・グラン・カナリア,スペイン(01〜03)
2022年10月20〜22日,リガ,ラトヴィア(04,08〜10,16〜18)
2023年2月13〜17日,ベルリン(05〜07,11〜15)
DG 4864809(セッション)
「When Night Falls」は夜の帳が下りて間もない時間帯をテーマにした歌曲集。比較的早い夜の時間帯といっても,それはプライヴェートなひとときに限定されている。大勢の家族や友人たちと食事をしたり飲酒をしたりといった過ごし方ではなく,ふと過去や現在の自分自身を振り返る静かなひとときがこのアルバムのテーマである。
しかし,このディスクではそのような主題以上にエリーナ・ガランチャの持ち味を存分に引き出すことに焦点を絞っているようだ。彼女のソフトでなめらかな声と抜きん出た歌唱技術を堪能させようとするのがこのCDの狙いでなのではなかろうか。
ガランチャが魅力的な声の持ち主であることに異議を唱える人はほとんどいないだろう。ありきたりな表現しかできないけれど,ベルベットのように滑らかで柔らかい歌声は,いつ耳にしても魅了される。歌曲でもオペラでもガランチャの魅惑的なメゾをこのまま聴き続けたいと,ほとんど全ての人は願うはず。ある意味,音楽で出来たパラダイスへと誘う声とでも形容できそうだ。周囲を圧倒するようなソプラノの強靭な響きでもなく,人間技とかけ離れた難易度の高い超絶技巧を駆使するコロラトゥーラ絶唱でもない,歌手の人柄を偲ばせる人間そのものといった温かい声だ。メゾの中のメゾ,最高のメゾ・ソプラノだ。
このディスクを聴いて痛感したことがもう一つある。ガランチャが魅力的な声を持って生まれて来たのは間違いないが,この上ないクォリティーの声は彼女の比類ないテクニックに支えられていることにも気がついた。もし,彼女が正確無比な歌唱技術を持っていなかったとすれば,彼女の声の魅力は半減,いやその半分ほどしかなかったかもしれない。以前からガランチャは上手な歌手だと思っていたし,魅力あふれる声の持ち主だと感じていた。だが,声の魅力が正確に歌う技術に裏打ちされている点はほとんど気付いていなかった。発声法も含めて基礎的なテクニックが彼女の声の魅力の源泉だったとは意外だった。歌うときの安定感も優れた技術の賜物だろうし,それが彼女の声の魅力を倍化させている。
このCDでは,第1曲目のR.シュトラウス「子守歌」とその次のフンパーディンク「夜になって私が眠りにつくと」でアルバムのトーンが設定される。比較的早い時間帯の夜がテーマであり,プライベートなひとときに焦点を絞ることが確定する。
ガランチャの声の魅力がピークに達するのが,ブラームスの「子守歌」。おそらくブラームスの歌曲とメゾ・ソプラノの声域の相性が抜群なのだろう。落ち着いたトーンの声が幼児の眠りを柔らかく包み込む。
この曲では,アルブレヒト・マイヤーのオーボエとマルコム・マルティノーのピアノがメゾのソロを支える。ガランチャの歌はマイヤーのオーボエやマルティノーのピアノに一歩も引けを取らないほど技術的な完成度は高い。オーボエ,ピアノによるパーフェクト二重奏がガランチャの甘く柔らかな声を引き立てる。
もう一つ特記すべきは,ライモンズ・パウルスという作曲家。ガランチャと同じラトビア生まれ。同郷人ということもあり,その作品はガランチャの歌に打ってつけの歌曲。
このアルバムはエリーナ・ガランチャというメゾ・ソプラノの魅力を紹介するだけでなく,歌曲というジャンルの入門としても最高の内容を備えている。歌曲はどちらかというと個人的には苦手とするものの,それを聴く原点の一つを再確認できたディスク。他の歌曲CDを楽しむ突破口になればと思う。
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