【収録曲】
1 シューマン:クライスレリアーナ Op.16
2 ブラームス:3つの間奏曲 Op.117
3 ブラームス:9つの歌曲と歌 Op.32
エレーヌ・グリモー(ピアノ)
コンスタンチン・クリンメル(バリトン)��
2022年6月3,4日� ぃ横娃横廓�3月25日�◆ぃ横娃横嫁�8月28〜30日
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DG 2894864202 セッション
エレーヌ・グリモーが去年の9月にリリースしたアルバムです。「For Clara」というタイトルが示唆するとおり,シューマンとブラームスがクララに寄せる愛情がテーマになっている。とはいえこのCDを聴いて,この主題をさほど意識させる内容とはいえないような気がします。グリモーが選んだ3曲と2人の作曲家のクララに対する愛情にどれくらい深い関係があるのか判然としなかった。それは私の知識が不足しているのが主な要因なのでしょうが。
このアルバムで取り上げるのは,シューマンの「クライスレリアーナ」,ブラームスの「3つの間奏曲Op.117」と「9つの歌曲と歌Op.32」。3曲目の「歌曲と歌」で,天才歌手といわれるバリトンのコンスタンチン・クリンメルが加わる。クララに対する思いが最も込められていると感じたのはこの曲だった。話は横道にそれるが,この作品は原語で「Lieder und Gesange Op.32」と表記されるらしい。LiedとGesangの違いが何なのかしばらく考え込んでしまった。
どちらかと言えば,久しぶりに聴いたグリモーのピアニズムに注目する結果となった。とても柔らかいピアノの響きであるが,背後にしっかりした音楽の枠組みがあり,そのフレームの要所で作曲家や作品の特徴を捉えていることがわかる。
グリモーのピアノは刺激的成分を極力抑えたソフトな響きが特徴といえる。最近,彼女がリリースするCDをフォローすることを忘れていて,しばらくぶりに買ったディスクである。相変わらず彼女が弾くピアノの音は柔らかい。もしかすると,以前より柔らかくなっているかも知れないと思うほどだ。そして,驚くほど雑味がない。なので柔らかだが純粋な響きである。おそらく,この音に魅せられてグリモーの演奏を好む人が多いのではないだろうか。
一方,彼女の演奏にはフレームワークが健在である。もちろん,自己主張が強過ぎないピアノのサウンドと調和した音楽の骨組みといえる。この音楽の枠組みがグリモーの作品の捉え方を表現しているように思う。ある意味,堅牢と言い表しても差し支えないくらいしっかりした枠組みである。とは言え,そのフレームワークには濃淡があり,明瞭に表現されている箇所と曖昧にされている部分とが混在しているようだ。それも含めて彼女の楽曲解釈なのだろう。
こうした解釈を耳にして感じるのは,グリモーは的確に作品の特徴を捉えていることだ。楽曲の要点をつかんでいるとはいっても,その表現には若干ユニークなところもないわけではない。大騒ぎするほど独特なことを行っているわけではないが,彼女のピアノ演奏が全般的におとなしいので,目立ちやすいのだろう。もちろん,その程度の個性はどのピアニストでも発揮するのは普通と言って構わないのだが。
こうしたグリモーの特徴が最も端的に現れるのは,シューマンのクライスレリアーナだと思う。初めてこのCDを聴いたとき,シューマンらしくないと感じた。この作曲家の自己主張をかなり薄めたような演奏にきこえたからだ。語弊を招きかねない言い方になるが,シューマンの奇矯さがほとんど濾過されたようなクライスレリアーナだった。個人的にはそういう側面があまり得意ではないので,腰を据えて付き合えそうな感じがした。だが,シューマンらしからぬ演奏であっても,シューマンの個性が刻印された演奏であることを理解するのにいく度もCDを聴き重ねる必要はなかった。グリモーなりの方法でシューマンを反映させた演奏といえる。もちろん激しく,抵抗感の強いシューマンではないものの,シューマンでなければ書けない音楽がそこには流れている。ただし,シューマン愛好家にとって,薄味過ぎて抵抗を感じる演奏かも知れない。
ブラームスの「3つの間奏曲」も基本的にクライスレリアーナと同じコンセプトの演奏として差し支えないだろう。あえてその違いを強調するなら,ブラームスはもう一段薄味の度合いが強いということになるだろうか。最晩年の作品だからそのような弾き方をしたのかも知れない。第1曲も第2曲もそして第3曲も,立ち込める晩秋の濃霧の彼方から微かに響いてくるようなインテルメッツォだ。3曲のいずれもが,最も有名なフレーズを除いて溶解してしまったかのような弾き方だ。ブラームスの甘い旋律美さえ味わうことはかなり困難だろう。ブラームスの初心者,あるいは「3つの間奏曲」を初めて聴く音楽愛好家にとって,この作品の魅力を感じ取るのに大きな困難を覚えるだろう。その意味では上級者むけの演奏と言えそうだ。
「9つの歌曲と歌」は人間の声が加わるので随分ロマンチックにきこえる。この曲を書いたブラームスがまだ30代だったとこも,ロマンチックにひびく要因なのかも。この作品を聴いていると,多種多様な感情をかかえた生きた人間の存在をリアルに実感する。この歌曲ではブラームスの持ち味といえる美しいメロディーが躍動する。それは異性への思いに突き動かされる若者そのものを象徴しているようだ。ここまで聴き進んでようやく生身の人間を実感する。9曲で構成される歌曲が進むに従って多くの情動を抱え込んだ青年の影が濃くなってゆくようだ。第8曲「私たちはこうしている」,第9曲「ご機嫌いかが,私の王女様」は,ブラームスにあまり馴染みがなくてもこの作曲家の魅力を感じ取ることができる音楽だろう。
最近はシューマンの音楽の良さも少しずつ理解できるようになってきたような気がする。そうだとしても,ブラームスの方がより好みであることに変わりはない。このCDを聴いて,ブラームスのロマンチシズムの核心にはクララへの生涯変わらぬ思いがあることを再認識させられた。「For Clara」の主役はブラームスなのだろう。
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