【収録曲】
モーツァルト
ヴァイオリン協奏曲 第3番 ト長調 K.216
ヴァイオリン協奏曲 第4番 ニ長調 K.218
ヴァイオリン協奏曲 第5番 イ長調 K.219
ゴットフリート・フォン・デア・ゴルツ(ヴァイオリン)
フライブルク・バロック・オーケストラ(管弦楽)
クリスティアン・ベザイデンホウト(指揮&フォルテピアノ)
2021年8月20〜24日,フライブルク・アンサンブルハウス
Aparte AP299
ピリオード楽器によるモーツァルトのヴァイオリン協奏曲集。ヴァイオリン独奏はゴットフリート・フォン・デア・ゴルツ。モーツァルト,バッハやヴィヴァルディなどの演奏に力を入れている。彼はフライブルク・バロック・オーケストラの音楽監督兼コンサートマスターも務める。ベザイデンホウトはフォルテピアノ奏者。これまでモーツァルト,ベートーヴェンやシューベルトなど古典派やロマン派の作品で独奏者としてレコーディングに参加することが多かったが,このアルバムでは古楽オーケストラの指揮に挑戦する。オーケストラはフライブルクに本拠を置く古楽オーケストラ。交響曲からオペラまで幅広いジャンルで演奏活動を繰り広げる。
本格的な古楽演奏でモーツァルトのヴァイオリン協奏曲に取り組んだアルバム。モーツァルトと聞いて多くの人がイメージする音楽とは異なる演奏といえる。暗く,重たく,燻んだトーンのデモーニッシュなヴァイオリン協奏曲だ。あたかもモーツァルトの音楽について再考を促しているかのような演奏である。
この演奏では,フレーズの冒頭に強いアクセントを置き,次第に響きを減衰させる奏法を採用している。古楽器による演奏が一般化し始めた当時の典型的な奏法のひとつである。さらに古楽奏法にしては力のこもった演奏でもある。高音から低音まで弦の響きが持つエネルギーがずいぶんと大きい。3曲のヴァイオリン協奏曲の第1楽章から最終楽章まである種のデモーニッシュなトーンで染め上げられる。まるでモーツァルトの内面は,どす黒い情念が渦巻いていたとでもいわんばかり。
問題はこの奏法を採用することで,モーツァルトの音楽の核心に迫ることができるのかということになる。確かに従来の演奏とは異なるモーツァルトを提示していることは間違いないが,かといってこの作曲家の別の魅力に光を当てたとも考えられない。もちろんソリストや指揮者がスコアから読み取った音楽を表現した演奏なのだろうけれども,この作曲家の何を新しい魅力として提案したいのか伝わってこない。
より魅力の乏しいモーツァルトを提示する意図はなさそうだが,当時の楽器や奏法で作品を再現するとこのCDのような演奏になることは理解できる。軽快で優雅で楽しいモーツァルトという見方に修正を迫るのは良いとして,そのマイナス面に匹敵する,あるいはそれを上回るプラス面が欠けていることに戸惑う。でも,それがこのCDの画期的な側面なのかもしれない。従来では考えられなかったよううな地味な演奏でも,モーツァルトの音楽はこんなにも美しく楽しいと言いたいのかも。
そんな印象を与える最大の要因は古楽器独特の燻んだ音色だ。明るく乾いた音が伸び伸びホールに広がってゆくイメージとは随分異なる。その意味でこのアルバムのモーツァルト像を実質的に決めたのはヴァイオリン独奏のゴットフリート・フォン・デア・フォルツだろう。指揮者を務めるクリスチアン・ベザイデンホウトはヴァイオリン独奏のモーツァルト観に全面的に賛同したのでは。
このディスクでは古楽器を使って地味だけれども美しいモーツァルトのヴァイオリン協奏曲を演奏している。ホールでこの演奏を聴いたなら違う印象を持ったかも知れない。
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