【収録曲】
ダリウス・ミヨー
1 屋根の上の牝牛 Op.58
2 世界の創造 Op.81
シャンゼリゼ劇場管弦楽団
ダリウス・ミヨー(指揮)
1956年,シャンゼリゼ劇場,パリ
Charlin SLC17HR(セッション)
これは,フランス6人組の中心人物,ダリウス・ミヨーの自作自演を集めたCDです。彼が選んだ作品は「屋根の上の牡牛」と「世界の創造」。いずれもバレエ音楽に分類されるオーケストラ作品。レコーディングは1956年に行われたものの,2022年にリマスターされているため録音状態はかなり改善されており,生き生きとした演奏から作曲当時の音楽が蘇ってくる。
何よりも作曲者自身が指揮をした演奏であることがこのディスクの最大の強みだろう。これらの作品を書いたときのミヨーの心境がどのようなものだったのかがありありと浮かんでくるような演奏といえる。またこの作曲家が創作活動に励んだ時代的な背景を具体的にうかがわせるディスクでもある。聴いていて楽しくなってくるのがこのCDの強みだろう。収録されている2作品のうち,こうした傾向がより顕著なのが「屋根の上の牡牛」。「世界の創造」から受ける印象はより薄い。
フランス6人組は,アンチ・ワーグナーの音楽家集団と単純化できるだろう。ワーグナー流のロマンチシズムに背を向けることで,いわゆる現代音楽へと至る道を切り拓いた。ミヨーはクラシックの伝統から隔たった音楽に注目し,そこからヒントを得て作品を書いた。「屋根の上の牡牛」の場合は,ブラジルの音楽からの強い影響を受けて書かれ,「世界の創造」はアメリカのジャズから大きな影響の下で書かれた。このCDを聴いていると,ミヨーの音楽が彼自身の持ち味とそのルーツとなったブラジルのサンバやアメリカのジャズから成り立っていることがわかる。
「屋根の上の牡牛」は第一次世界大戦中にブラジルで過ごした2年の体験をもとに作曲された。ブラジルに赴任するポール・クローデルの秘書としてブラジルへ渡った。外交官でもあった詩人のクローデルとは生涯を通じた付き合いがあり,誘われて秘書官になったという。
このバレエ音楽は一連の場面設定がされているものの,物語らしい物語はない。舞台はダフ屋,ボクサー,男装の麗人などさまざまな人物が次々に登場する酒場。「屋根の上の牡牛」という題名はブラジルの古いタンゴに由来し,ブラジルの大衆音楽や舞曲から強い影響を受けていて,作品には30ものブラジルの旋律が引用されている。
このディスクに収められた演奏からは,ミヨーがブラジルで聴いた民衆音楽から鮮烈な印象を受け,その種の音楽を含む日常生活を存分に楽しんだことが想像させられる。強烈なダンスのリズム,ブラスバンドの響き,それに合わせて踊る人々。年に一度のカーニバルを楽しむため一年を過ごすブラジル人の生活そのものが音楽として表現されている。
「世界の創造」を作曲するきっかけとなったのは,1922年のアメリカ訪問中にハーレムの道端で聴いたジャズ。ミヨーが言う「ジャズの文法」は,伝統的なヨーロッパ音楽の要素が思ったより濃厚で,先鋭さに欠ける。管楽器を中心とした編成で,オーケストラというより室内楽の雰囲気が強い。
曲は次の6つの部分から構成されており,それらは連続して1つ楽曲のように演奏される。まず,レガートのサクソフォーン独奏による「序曲」から始まる。真っ暗な混沌を表現する「創造の前の混沌」はトランペット,サクソフォーン,トロンボーンとコントラバスが奏でるジャズ風のフーガ。神が動物や植物を創造する「動植物の創造」は,フルート,チェロやオーボエによるブルースのような音楽。神の呪文によって男女が創造される「男女の誕生」は2つのヴァイオリンとファゴットによるケークウォーク。欲望にかられた男女が熱狂的に踊る「男女の色恋」ではピアノ,弦楽器,打楽器のリズミカルな伴奏に乗ってクラリネットのソロが活躍する。野蛮な踊りのあと恍惚に浸る男女が残される「春または充足感」は技巧的なフルートの演奏ではじまり,穏やかなブルースで曲を閉じる。
発展途上のジャズのイデオムが取り入れられていることは間違いないが,伝統的なヨーロッパの音楽が優った作品というほかない。ミヨーがこの曲を書いた頃は斬新な曲だったのかも知れないが,ジャズの隆盛を経た今日,率直に言ってインパクトはそれほど大きくない。
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