【収録曲】
1 ブラームス: チェロ・ソナタ 第1番 ホ短調 Op.38
2 ラフマニノフ: チェロ・ソナタ ト短調 Op.19
3 ブラームス: クラリネット三重奏曲 イ短調 Op.114
ゴーティエ・カプソン(チェロ)
ハロルド・オッテンザマー(クラリネット)
ユジャ・ワン(ピアノ)
録音:2021年7月,コンツェルトハウス,ドルトムント,
DG 4862388(セッション)
芸術の秋だからというわけではないけれど,室内楽のCDを聴いた。どちらかと言うと,想像していた以上に渋いトーンの演奏だった。
演奏するのは,ピアノのユジャ・ワン,チェロのゴーティエ・カプソンそしてクラリネットのアンドレアス・オッテンザマー。ワンとカプソンは経歴を記す必要もないほど著名な演奏家で,ピアノとチェロ演奏の将来を背負って立つ存在。オッテンザマーはベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の主席クラリネット奏者。この三人は長年にわたって室内楽で共演を重ねている。
このアルバムで,彼らは3曲の地味な室内楽の作品を演奏している。ブラームスのチェロ・ソナタ第1番とラフマニノフのチェロ・ソナタ。そしてブラームスのクラリネット三重奏曲で最後を締め括る。演奏も渋いが,選曲も負けず劣らず渋い。いやマニアックですらある。彼らほどのスタープレーヤーが登場しなければ,この演奏会にはごく限られた室内楽オタクしか足を運ばないのではなかろうか。
ブラームスのチェロ・ソナタ第1番を聴けば,このアルバムでどのような性格の演奏が繰り広げられるかわかる。とても滋味豊かな室内楽を楽しむことができる。この曲で演奏の主導権を握っているのはチェロ。たいへん抑制の利いた演奏で,チェロのパートを流麗に歌わせ過ぎることはない。ブラームスの内心のつぶやきを表現しようとしているかのようだ。ピアノは徹頭徹尾チェロの伴奏役にまわる。チェロよりも少ない音量で,和音をアルペジオ風に弾く。躍動感のある第2楽章でさえ,派手さは抑えつつ作曲家の内面を淡々と描いてゆく。それでも,ブラームスの歌心は表現できている。秋の夜長にブラームスの室内楽に浸るにはまさにピッタリの演奏。
ラフマニノフのチェロ・ソナタの演奏もブラームスの延長線上にある。チェロが演奏を主導し,明るさや色彩感を抑え気味にラフマニノフ特有の美しいメロディーを表現を試みる演奏と言えそうだ。ブラームスのソナタと比較すると,チェロもピアノも響きが充実して音楽の表情が一層ふくよかだ。
晩秋の森に立ち込める朝の霧の中からきこえてくるラフマニノフのような風情が感じられる。朝霧は日の光に照らされて明るく輝き始める。ラフマニノフはヴァイオリン・ソナタを書かななかったそうだ。この曲を聴いていると,ラフマニノフがいかにチェロの響きを好んでいたかがわかる。豊かな響きに加え,張りのある音色で主旋律を奏でるチェロに勝る弦楽器はない。チェリストもピアニストもこの特徴を踏まえ演奏している。もちろん,この曲もチェリスト主導で進む。
ブラームスのクラリネット三重奏曲になると,演奏の雰囲気は変わる。新たに加わったオーボエの響きが密度の低い曖昧な響きで,チェロやピアノのサウンドと相性が悪くなる。おそらく,通常はクリアで輪郭のくっきりしているであろうベルリン・フィルのオーボエが,ブラームスの室内楽に適合させようと試みた結果であろう。存在感の薄いオーボエが演奏全体の調和を損なってしまった。狭い意味でのテクニックの面ではほぼ問題のないオーボエだけに残念である。
ただし,ブラームスのクラリネット三重奏曲はこれまであまり聴いたことがないので,ここに書いたことは的外れの可能性も排除できない。この作品はブラームスのクラリネット五重奏曲を念頭に置いて聴いた。もし両者が互いに異なる発想で書かれた作品であるなら,誤った指摘をしたことになる。
室内楽は演奏技術だけでなく,アンサンブルの音色もある程度統一する必要がある。弦楽器に音色の異なる管楽器が加わると,オーケストラの演奏以上に難しさが増すようだ。
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