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2021年11月14日15:56

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エベーヌ四重奏団「ベートーヴェン弦楽四重奏曲全集」その1

【収録曲】

1 弦楽四重奏曲 第1番 へ長調 Op.18-1
2 弦楽四重奏曲 第14番 ハ短調 Op.131

エベーヌ弦楽四重奏団
 ピエール・コロンべ(Vn)
 ガブリエル・ル・マガデュール(Vn)
 マリー・シレム(Va)
 ラファエル・メルラン(Vc)

録音:2019年5月6日,キメル・センター,フィラデルフィア
ERATO 9029533981(ライブ)


若干迷った挙句,エベーヌ四重奏団によるベートーヴェンの弦楽四重奏全集を聴いてみることにした。

この弦楽四重奏全集は2020年のベートーヴェン生誕250年を記念して制作された。録音のきっかけとなったのはカーネギー・ホールからのオファー。2014年のこと「2020年にベートーヴェン弦楽四重奏曲の全曲演奏会を開催したい」との提案があった。エベーヌのメンバーは,この時代にベートーヴェンを演奏することの意義や自分達に何ができるなどを考えた。その結果,クラシックが親しまれている地域からそうでもない地域まで世界中を演奏して回り,世代や地域,そして文化を超越したこの作曲家のメッセージや普遍性を人々と共有するというアイディアにたどり着いた。このアルバムに”BEETHOVEN AROUND THE WORLD”というサブタイトルがついている所以である。北アメリカ,南アメリカ,オーストラリア,アフリカ,アジア,ヨーロッパを巡るワールドツアーを実施し,各地の最終公演をライブ収録して完成したのがこのセット。

それぞれの演奏会のプログラムは,おおよそ初期の弦楽四重奏曲(あるいは中期の作品)と後期の作品との組み合わせが多い。作曲年代順でない点がユニークだ。ただ珍しいというだけでなく,この選曲にはエベーヌ・カルテットの意図,つまりベートーヴェンの弦楽四重奏曲に対する彼らのアプローチが反映されているようだ。どうやらエベーヌは,第1番から第16番そして大フーガへと至る発展の過程よりも,弦楽四重奏曲というジャンルそのものをより重視しているらしい。ベートーヴェンの音楽における弦楽四重奏曲の意味を探ることによって,彼が残したメッセージや普遍性などを現代という文脈の中で見極めようとしているのではなかろうか。

ディスクが届いてからすべてのCDを一度は聴いたものの,まだ何かを書けるほど各CDを聴き込んだ訳ではない。CD1から順番に感想を書くことにする。

CD1は弦楽四重奏曲第1番と第14番の組み合わせである。作品18の冒頭を飾る作品と最後から2番目に書かれた弦楽四重奏曲だ。

初期と後期のコントラストが強烈かと思いきや,それほど対比が鮮やかというほどでもない。どちらかというとベートーヴェンの弦楽四重奏曲の共通点が浮き彫りにされているような印象を受ける。第1番も第14番も堅牢な構成の骨太な演奏である。なによりもエベーヌの現代感覚あふれる弦の響きで仕上げられた作品の構造が見通せるような演奏が印象に残る。

第1番の第1楽章は比較的軽やかな開始で,冒頭の和音を強くそして重く響かせることはない。それでいてディヴェルティメントなどから発展してきたジャンルであることに注意を向ける要素は少なく,4つの声部が独立する弦楽四重奏という曲種が既に存在していたことを意識させる。第2楽章はある種のエレジーに聴こえる。4本の弦が対等に奏でるアダージョだ。第3楽章は他のジャンルでも通用しそうなベートーヴェンの個性が刻印された完成度の高いスケルツォ。第4楽章は軽快なフィナーレで,ベートーヴェンの上機嫌な横顔がうかがえる。鳴り響いているのは紛れもなく弦楽四重奏曲第1番でありながら,晩年の作品をも視野に捉えたような第1番にきこえる。

第14番の第1楽章は形式的に自由で幽玄な音楽というより,序奏で第1ヴァイオリンが奏でる旋律が際立つ。透明感あふれる4本の弦の響きが第1楽章の構造を可視化する。この点が初期や中期の弦楽四重奏曲との繋がりを意識させるのだろうか。第2楽章は特徴的な音型の集合体からできたスケルツォで,とても若々しく元気な演奏に聴こえる。第3楽章はポコ・スケルツォーソ。カヴァティーナではあるが,メロディーよりもややおどけた舞曲風の側面(リズム)が強調されているようにきこえる。第4楽章はドイツ風舞曲(レントラー)でやや重くゆっくりと響く低弦とくっきりとした高弦のコントラストが初期や中期の作品を連想させるのかもしれない。最後は第2楽章のような特徴的な音型でできたやや諧謔的な音楽にきこえる。第5楽章は再びカヴァティーナ。くっきりとしたメロディーラインで始まり,その後やや激情的な部分へ移行する。バランスの取れた4本の弦が各声部を浮かび上がらせ,楽章の構造を立体的に描く。第6楽章は「大フーガ」から差し替えられた楽章。重く苦しげな演奏だ。それだけに中間部のメロディーの美しさが際立つ。間違いなく後期の弦楽四重奏曲の特徴を押さえていると同時に,それ以前の作品を連想させる演奏でもある。

CD1を聴いた感想はメロディーラインの表現が抜きん出ていること。そのような奏法が初期と後期の作品の差を埋めているようでもある。そして透明感あふれる4本の弦が曲の構造を浮かび上がらせることにも一役買っているようにきこえる。もちろんメロディーも曲の構造もエベーヌの現代感覚に裏打ちされていることは言うまでもない。
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