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2019年08月10日15:47

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PMFオーケストラ演奏会 プログラムA

【プログラム】
 1 ドビュッシー: 牧神の午後への前奏曲
 2 イベール: フルート協奏曲
 3 ショスタコーヴィチ: 交響曲 第4番 ハ短調 Op.43

(アンコール)
 バッハ:”無伴奏フルート・ソナタ イ短調 BWV.1013”より「サラバンド」

 マトヴェイ・デョーミン(フルート)
 PMFオーケストラ,PMFアメリカ(管弦楽)
 ワレリー・ゲルギエフ(指揮)

 2019年7月31日(水),19:00,札幌コンサートホール


この日は,今年のPMFの北海道での最後の演奏会。2015年からPMFの芸術監督を務めるゲルギエフの指揮で,若い音楽家たちがPMFに参加した成果をコンサートで披露する。このあと東京と川崎で同じ内容の公演が続く。

ゲルギエフは,今年ただの人寄せパンダ以上の仕事をした。7月25日と28日,バイロイト音楽祭へのデビューとなる「タンホイザー」を振ったあと,駆け付けたのだろう。なので,PMFオーケストラを指導する十分な時間を確保することはできなかったはず。しかし,指揮者としての仕事には及第点を与えるに値する結果だった。若い演奏家たちの自発性を上手に引き出し,アンサンブルを巧みに整える。昨年とは違って,ゲルギエフのカリスマ的な音楽性と受講生の自発性に富んだ資質が縦横に発揮されたコンサートだった。

まず,ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」で,ゲルギエフはフルートをはじめとする木管楽器群から自発性に富んだ柔らかい響きを引き出す。オーケストラのアンサンブルは,水も漏らさぬ緊密なアンサンブルというより,オーケストラのメンバーの自発性をベースにした絶妙なアンサンブルであり,硬苦しさなど微塵も感じられないごく自然なアンサンブル。ドビュッシーのアンニュイな雰囲気よりも,フランス音楽の明晰さが優位を占める室内楽的な演奏だった。ゲルギエフがお膳立てした土台の上で,メンバーたちが自由に伸び伸びと振舞って,透明感あふれるドビュッシーを奏でる。

イベールのフルート協奏曲は,現代フルート奏法を確立したマルセル・モイーズに献げられた20世紀のフルート協奏曲の代表的傑作。現代的な作曲技法を駆使しながらも,明晰極まりない音楽はイベールの面目が躍如する。この曲でフルート独奏を吹くマトヴェイ・デョーミンは,第16回チャイコフスキー国際コンクールで初めて創設された木管部門で優勝したフルーティスト。マーラー・ユーゲント管などを経て,現在,チューリッヒ・トーンハレ管の副首席。彼のフルートの音色はイベールの作品の曲想に程よくマッチする。輪郭の明瞭な響きでありながら,フランス音楽の雰囲気も余さずに表現する。オーケストラは,ソリストを全面的にサポートする役割に徹し,緻密でありながらも力強さをも併せ持つイベールの音楽を過不足なく描く。最終楽章の躍動的なロンド風の主題を演奏するときなどは,音楽を演奏する楽しさが自然に溢れてくるところが面白い。そういった自発的な面を抑圧しないゲルギエフの指揮にも好感を持つ。

最後に,ショスタコーヴィチの交響曲第4番はゲルギエフの独擅場。PMF後半の講師陣も兼任するアメリカのメジャー・オーケストラの首席たちが加わった4管編成の巨大なオーケストラをゲルギエフは自由自在に操り,ソヴィエト時代のロシアのいかつい行進曲風の響きやロシア音楽の伝統の一部ともいえる叙情的なサウンドを次々に繰り出す。ドビュッシーやイベールの作品ほどの精妙さはないものの,ショスタコーヴィチでも自発性を基礎としたアンサンブルは健在で,ゲルギエフがタクトを執ったときの専制的な息苦しさが希薄なのがいい。メカニカルな精緻さがやや後退した分,自由の空気が流れ込み「政府の関係者が,懺悔して罪を償うよう,執拗に迫ったが,私は拒絶した。当時は若く,体力もあったので,打ち勝てたのだ。懺悔の代わりに,これを書いたんだ」と29歳の作曲家が述懐したこの作品にふさわしい演奏である。2つのオペラ(「鼻」と「ムツェンスク郡のマクベス夫人」のことか)が「反共産主義的」だとして上演禁止の憂き目に遭いつつも,若さゆえの意気軒昂さがこの日の演奏から感じられた。PMFの受講生たちの自発性や自由奔放さとゲルギエフの剛直さとが,いい塩梅の化学反応を引き起こした結果である。もちろん,PMFアメリカの面々がゲルギエフの意図を素早く捉え,それを各セクションのメンバーに的確に伝えていたことを見逃してはいけないだろう。剛腕指揮者とメジャー・オーケストラの首席たちそして若い演奏家たちのコラボレーションが見事な花を咲かせた。そうでなければ,マーラーなど多くの作曲家の作品からの引用が随所に散りばめられた複雑な作品をここまで明快に再現することは叶わなかったに違いない。

バイロイトで「タンホイザー」を演奏して,すぐに来日して指揮をするゲルギエフのスタミナにも驚嘆するが,練習に充てる時間が乏しいにもかかわらず,瞬時に自分の意図を浸透させるゲルギエフのカリスマ性にも驚く。PMFアメリカの貢献が決して少なくなかったことは理解できる。それにも増して,今年のPMFの受講生のレベルが高かったのが幸いしたのではなかろうか。音楽を演奏することの原点ともいうべき,楽しみながら楽器を弾くという点で,今年の受講生たちは抜きん出ていた。
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