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2019年05月19日23:17

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札幌交響楽団 第619回 定期演奏会

【プログラム】

1 ドビュッシー : 小組曲(ビュッセル編)
2 プーランク: 2台のピアノのための協奏曲
3 ベルリオーズ: 幻想交響曲Op.14

(アンコール)
フォーレ:組曲「ドリー」より第1曲”子守歌”(ピアノ・デュオ)

児玉 麻里(ピアノ)
児玉 桃(ピアノ)
札幌交響楽団(管弦楽)
マティアス・バーメルト(指揮)

2019年5月18日(土),14:00開演,札幌コンサートホール


札響の5月定期はベルリオーズ没後150年にちなんだプログラム。「幻想」というテーマを掲げ,ベルリオーズの幻想をメインに据え,演奏会の前半にドビュッシー の「小組曲」とプーランクの「2台のピアノのための協奏曲」を配する。今シーズンのテーマ「ある作曲家が他の作曲家にどのような影響を与えたのか」,バーメルト自身が各定期演奏会を振る指揮者に与えた問いに対する彼自身の答えがこの日のプログラムである。

率直なところ,ドビュッシーの「小組曲」,プーランクのダブル・コンチェルト,ベルリオーズの「幻想」がどのように音楽的に結びついているのか,よく分からない。しかし,ベルリオーズの「幻想」以降,フランス音楽の変遷の要所を抑えた選曲であることは理解できる。ベートーヴェンをはじめとするドイツ古典派が挑むことがなかった課題に取り組んだベルリオーズの「幻想」,ドイツ音楽が正面から向き合うことがなかった「響き」に果敢に挑んだドビュッシーの音楽,ドイツの音楽的伝統とフランスの音楽的伝統を踏まえつつ20世紀の精神で両者の橋渡しを試みたプーランクの作品。バーメルトらしい興味深いチョイスである。

4手のためのピアノ曲が原曲である「小組曲」は,印象主義者ドビュッシーの面目躍如といった作品。ドビュッシーの音楽にしては格段に親しみ易い。そして,透明感のある軽やかな弦楽と味のある木管の旋律美を持ち味とする札響とフランス風の明晰さとバランス感覚を備えたバーメルトの指揮とが相俟って,説得力のある「小組曲」を聴かせてくれた。ドビュッシーの音楽入門なら,小難しい「牧神の午後への前奏曲」などより,このコンビによる「小組曲」が相応しいと暴言を吐きたくもなる。

この日のメインである「幻想」は,ミュンシュ&パリ管のコンビによる豪放磊落な演奏よりもアバド&シカゴ響のスタイリッシュな演奏に近い。とは言っても,オーケストラの機能性を重視するあまり,それ以外の要素を削ぎ落とした結果,重量感や力強さが過度なまでに希薄になる罠にはまってしまい,そこから抜け出せなくなった現状を露呈した演奏は,アバド&シカゴ響とも異なる。オーケストラに厚みが不足していて,サウンドの迫力にも欠けるため,聴いていて興奮を覚えるという演奏とは到底いい難い。バーメルトの精緻な芸風とも相俟って,このような演奏になったことは容易に想像がつく。ミュンシュ&パリ管とまでは行かなくても,バーメルト&札響のコンビでも,「幻想」の色彩感やうねりを表現することは可能だったはずだ。このコンビが起こした好ましからざる化学反応の好例だろう。

プーランクの「2台のピアノのための協奏曲」では,プーランクの優れた音楽的才能とともに,幼少の頃からヨーロッパで暮らし学んだ児玉麻里・桃姉妹の一味違う感性に興味を引かれる。幼いときに渡欧し,ヨーロッパの空気の中で成長し,パリ国立高等音楽院で研鑽を積んだ演奏家の感性はどこか違う。プーランクの音楽を頭で考えて理解したのではなく,その文化的背景をその地の空気とともに吸収し,プーランクの音楽をごく自然に理解し表現できる感性を彼女たちは持っている。特にプーランクの独特な和声感やリズム感の何気ない表現は自然で説得力に富む。ストラヴィンスキーの「兵士の物語」におけるパーカッションを連想させる第1楽章や第3楽章の強烈なリズムは当時の風潮をプーランクなりに咀嚼しピアノ・パートにも反映させたような気がする。第2楽章はモーツァルトそっくりでありながら,そこにはプーランクの刻印が確かにきざみこまれている面白さがある。第3楽章のピアノのリズムとリズムの絡まりから生まれるメロディーもユニーク極まりない。こうした複雑な性格を持つ音楽をわざとらしさ抜きで,印象深く演奏するにはフランスで育ち,そこで音楽を勉強した経験が大きく作用しているはずだ。

ちなみに,姉の麻里の夫はケント・ナガノで,彼女はタチアナ・ニコラエワやアルフレッド・ブレンデルにピアノを学ぶ。妹の桃はメシアンの「幼な子イエスに注ぐ20のまなざし」や「鳥のガタログ」の全曲盤をリリースしており,ECMからはラヴェル・武満・メシアン,ドビュッシー・細川俊夫の作品を収録したCDも出している。2人のピアニストはプーランクの作品を日本の聴衆とは少し違ったフランス人のようなまなざしで見ているに違いない。

ただ,児玉姉妹の調子がいまひとつ万全でなさそうに見受けられたことが心残りだ。アンコールで弾いたフォーレの曲もインパクトが弱かった。もう一度,演奏を聴いてみたいピアニストである。バーメルトと札響の伴奏も悪くはなかった。

4月と5月,2か月続けて必ずしも人気が高く演奏機会が多いとはいえないピアノ協奏曲の立派な演奏に接することができた。ひとえに実力派のピアニストの客演が実現したおかげである。これもプロのオーケストラの定期演奏会冥利に尽きる。
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