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2019年03月09日16:26

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札幌交響楽団第616回定期演奏会

【プログラム】 

 オール・ラヴェル・プログラム
1 道化師の朝の歌 
2 ピアノ協奏曲ト長調
3 古風なメヌエット
4 左手のためのピアノ協奏曲
5 ラ・ヴァルス 

(アンコール)
ラヴェル:道化師の朝の歌(ピアノ版)

 ピアノ: ジャン=エフラム・バウゼ
 管弦楽: 札幌交響楽団
 指 揮: 広上 淳一

2019年2月15日(土),14:00開演,札幌コンサートホール


願ってもないプログラムのコンサートだ。ラヴェルの作品が好みである上,この作曲家が書いた2曲のピアノ協奏曲を一挙に聴くことができる演奏会は願ったり叶ったり。いずれのピアノ協奏曲もソリストが優れていたが,特に「左手のためのピアノ協奏曲」は,目から鱗が落ちる演奏だった。

ほんのわずか不満が残ったのは,ラヴェルの音楽とは若干異質な訛り。つまりロマン派の音楽を演奏するときのような節回しが気になった。ホセ・カレーラスが「時の流れのように」を歌うときや,美空ひばりが洋楽を歌うときのようなわずかな違和感を覚える。望みが高すぎると言われそうだが,オーケストラも指揮者もこの点を克服できれば,表現の幅が飛躍的に広がる可能性がありそうだ。

「道化師の朝の歌」は,透明感のある演奏に好感を抱く。一方,サウンドの粘り気がやや強い。ラヴェルの音楽なので,もっとサラッとした響きで演奏した方がいい。一方,スペイン風のリズムにのせて,スペイン的な情熱が程よく表現されていた点は感心する。全音階的な旋律やフリギア旋法の表現も巧みで,フランス音楽の枠組みの中でエキゾチシズムがカラフルに表現されていた。

「ピアノ協奏曲ト長調」は最も好きな作品のひとつ。とくに,第2楽章アダージョ・アッサイの静謐な時間の流れにのせて奏でられる美しいメロディーは,この曲を初めて聴いたときから虜に。この日の演奏では,管弦楽の凝集度が不足していて,静謐な時間の流れが水っぽくなってしまった。ピアニストはピアノパートを美しく弾こうとするものの,オーケストラがそれについて行けないもどかしさを感ずる。録音で親しんだ第2楽章の異次元的な美しさを表現するのは並大抵のことではないのであろうが。

「古風なメヌエット」はラベルがパリ音楽院の学生だった時期に書いたいわば習作で,シンプルでありながら作曲家の個性が溢れる作品。簡明な三部形式のこの小品をラヴェルの形式への傾斜とスペインの情熱を調和させて,標準的な演奏へと仕上げる。

「左手のためのピアノ協奏曲ニ長調」では,ジャン=エフラム・バウゼの解釈とテクニックが光る。ある種のおどろおどろしさが支配するような曲調で演奏されることが多いこの曲を,このピアニストは地中海沿岸の陽射しと明晰さで表現する。重い響きは極力避け,乾いた軽快なサウンドで弾くことを心掛けているようにみえなくもない。この協奏曲にジャズの要素を取り入れたラヴェルの華麗なサウンドがより際立つ演奏である。このコンチェルトの演奏では,指揮者以上にピアニストが演奏全体をリードしていたような印象がある。第一次世界大戦で右手を失ったピアニスト,パウル・ヴィトゲンシュタインの依頼により書かれたこの曲を弾くジャン=エフラム・バウゼのテクニックも華麗だ。とても片手だけで弾いているとは思えないほど達者な演奏であり,充実した響きである。さらに,鍵盤上の左手の動きを見ているだけで楽しくなってくる。ショルティが最後に発掘した逸材との呼び声にふさわしいピアニストだ。

「ラ・ヴァルス」と聞くとドイツ表現主義絵画を連想する。この作品でもワルツの華麗さよりおどろおどろしさに強い印象を受けることが多い。しかし,この日の「ラ・ヴァルス」からはワルツのリズムが明瞭に浮かびあがり,ウィーンの舞踏会の華やかささえうかがえるような気さえする。そうしたことを可能にするのはメロディー・ラインをくっきりと表現するアプローチを採用したためだろう。華やかな舞踏会を象徴するようなメロディーに加え,楽しげな集いを表現するかのような弾むリズムも一役買っている。音楽の響きの向こうに見える光景も,ウィーンの路地裏の深い闇というより街頭に照らされたゴージャスな街並みのよう。とはいえ,フランス人のラヴェルには,ウィーンの大広間で開催される舞踏会の彼方にウィーン文化の凋落と退廃が透けて見えていたのではないか。このような感想を抱かせる広上淳一と札響の「ラ・ヴァルス」である。

2月の定期演奏会では,広上淳一のプログラミングの妙が光る。それと同じくらい,広上のソリストを選ぶ眼も確かだ。この2つの要素で,成功の8割近くは説明できるのではなかろうか。札響も健闘していた。それと同時に課題も浮かび上がってきたのでは。

2月15日の夜公演が終わった直後から,2月定期を聴いて感動したというコメントがSNS上で増え,そのせいもあってか翌日の昼公演の入りは決して悪くはなかった。昔からの常連以外の客が多かったような印象である。プログラムのコンセプトを練り上げ,クオリティの高い演奏を続ければ,新しいファンを引き付けることができることを実証したと思う。
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