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2018年08月11日18:05

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PMF GALAコンサート(第2部)

【プログラム】
ヴェルディ: 歌劇「シチリア島の夕べの祈り」序曲
バーンスタイン:「ハリル」
   *****休 憩*****
マーラー: 交響曲第7番ホ短調op.70

デニス・ブリアコフ(フルート)
PMFオーケストラ&PMFアメリカ(管弦楽)
ワレリー・ゲルギエフ(指揮)

2018年7月29日(日),16:30開演,札幌コンサートホール


PMF GALAのプログラムで最も楽しみにしていたのは,マーラーの交響曲第7番。だが,実際にいちばん面白かったのは,バーンスタインの「ハリル」だった。マーラーでは,PMFの講師陣がオーケストラに加わったため,受講生たちの自由奔放さが若干削がれた面がある。一方,バーンスタインの「ハリル」では若い演奏家たちの自由闊達さがあふれる演奏だった。オーケストラの演奏としてはマーラーに軍配があがるんだろうが…。

バーンスタインの作品の題名,「ハリル」はヘブライ語で「フルート」を意味する。独奏フルートが主役のこの作品は,第四次中東戦争(1973年)で犠牲となった,当時19歳で将来を嘱望されていたフルーティストの魂に捧げられた。バーンスタインはこの曲を協奏曲ではなくノクターンと命名し,静謐な音楽による追悼作品としている。「ハリル」は12音技法による不気味な音楽で始まり,次第にフルート・ソロが奏でるモチーフが曲の全体を支配する構成になっている。

この曲を聴いて,バーンスタインの新しい一面を発見する。ミュージカル,映画音楽やジャズなどアメリカの大衆音楽でもなく,ユダヤの伝統に根ざした音楽とも違う,新ウィーン楽派を受け継ぐ作曲家としての側面を垣間見せる作品である。より具体的にいうなら,これら3つの要素が幸福な結合を遂げた音楽ということができる。セリーの技法が持つ芸術性を中心に据えつつも,ユダヤの深い祈りが持つ宗教性とアメリカ音楽の大衆性とが融合し,ずしりとした手応えのある美しい音楽になっている。生誕100年を機に聴いた何曲かのバーンスタインの作品のうちで最も印象深い作品である。

「ハリル」の演奏では,ロサンゼルス・フィルハーモニックのデニス・ブリアコフによるフルート独奏が出色の出来で,この曲の演奏の方向をほぼ決定づけた感がある。西海岸のオーケストラに所属するフルーティストらしく明るく輝かしい音色である。だが,その音色が明るければ明るいほど,また,輝かしければ輝かしいほど,その背景に夜の闇が広がる。これはフルート奏者の技量もさることながら,新ウィーン楽派の遺産を生かした楽曲の成せる技でもあるが。もちろん,テクニックの面でも不足はない。

PMFオーケストラの面々は,ブリアコフが敷いたレールの上で自由に伸び伸びと羽をのばすような演奏を繰り広げる。時折,羽目を外し気味になることはあっても,大きく逸脱することはなく,踏みとどまるべき一線は心得ている。オーケストラの中でも管楽器は,フルート独奏との相性がすこぶる良好だ。弦楽器群がやや渋めな音色であるのに対して,管楽器セクションは明るく輝かしい音色で,かつ響きは軽い。有望なフルーティストが戦争の犠牲になったことを悼む作品の演奏に,こうした特色は必ずしも有利に働くとは限らないものの,若さで一気に聴かせてしまうところがPMFオーケストラの持ち味だ。逆にその持ち味が小気味良いくらい。

ゲルギエフは,どちらかというとソリストとオーケストラの自由に委ねますというスタンス。この作品の演奏では,オーケストラ・コンサートでの指揮者の基本的な役割はおさえつつも,自らの解釈や表現を力づくで押し付けるような様子は全くうかがえない。

マーラーの交響曲第7番の演奏では,この作品の破天荒な側面が影を潜めてしまったのが惜しい。この曲では,オーケストラがどれだけ弾けられるかが,勝負どころなのに。なので,自由闊達な若さあふれるPMFオーケストラの奔放さに期待を寄せていたのだが,残念な結果に終わった。その理由はおそらくPMFアメリカのメンバーがオーケストラの首席奏者として加わり,演奏の要となるポジションを押さえたからだろう。PMFアメリカというのは,国際教育音楽祭であるPMFの講師としてアメリカ各地のオケ招かれた首席クラスの演奏家で構成されている。長年オーケストラのメンバーとして演奏に携わった彼らは,各パートが曲の演奏で果たすべき役割を強調する可能性があり,オーケストラのバランスを整えることを重視すべきと教えることも考えられる。その結果,元気の良い若者たちのエネルギーが抑えられることも十分ありうるだろう。

この曲の演奏でも,ゲルギエフは深く関わることを避けていたような印象である。そのことがPMFアメリカ主導という印象を強めたと考えられる。そして,演奏の要がオーケストラの内部で分散してしまったがために,演奏自体も凡庸なものになってしまった可能性は強い。とはいえ,ゲルギエフの人気は絶大で,札幌コンサートホールでのPMFオーケストラ演奏会の中で早々にチケットが売り切れになった。ゲルギエフがステージに登場すると,客席の期待が一挙に高まるのも肌で感じられる。

PMFの演奏会は,国際教育音楽祭の受講生であるオーケストラのメンバー,講師であり演奏会の後半で首席としてオケに加わるPMFヨーロッパ(期間の前半)やアメリカ(同後半),そしてPMFの芸術監督であるゲルギエフの三者から成り立つ。札幌滞在がわずか3日程度の芸術監督は名ばかりの存在にならざるをえない。講師陣がオケに加わると,彼らが実質的に演奏を主導し,そうでない場合は受講生の自発性が存分に発揮されることになるのだろう。思い切って単純化すると,いい意味でもそうでない意味でも,ゲルギエフは人寄せパンダになりがちである。

最後に,GALAコンサートのコンセプトについて。プログラム全体を貫くキーワードは「夜」。「シチリア島の夕べの祈り」は夜になる直前の時間帯であり,「ハリル」は夜想曲(ノクターン)というコンセプトで書かれた。そして,マーラーの交響曲第7番は別名「夜の歌」で知られ,第2楽章と第4楽章は”Nachtmusik”というタイトルを持つ。地方都市で,ここまで凝ったコンセプトのコンサートを聴くことができるのは,PMFならではである。
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