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2018年01月20日22:56

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ダントーネ他:J.S.バッハ「フーガの技法」

【収録曲】
J.S.バッハ:フーガの技法 BWV 1080
 コントラプンクトゥス 1-13
 2台のチェンバロのためのフーガ
 反行系の拡大によるカノン
 8度のカノン
 3度の転回対位法による10度のカノン
 5度の転回対位法による12度のカノン
 3つの主題によるフーガ

アカデミア・ビザンティーナ
 アレッサンドロ・タンピエリ(Vn)
 アナ・リズ・オジェダ(Vn)
 ディエゴ・メッカ(Vl)
 マウロ・メッカ(Vc)
 ステファノ・デミケリ(Org)
オッターヴィオ・ダントーネ(Cmb&指揮)

2017年2月6ー10日,ゴルドニー劇場,バニャカヴァッロ(ラヴェンナ県)
DECCA 4832329(セッション)


昨年11月7日に「フーガの技法」の新録音が発売された。演奏はダントーネとアカデミア・ビザンティーナのピックアップ・メンバー。古楽の演奏家たちによる,室内楽編成の「フーガの技法」である。そして,録音場所として選ばれたのは教会などではなく,娯楽施設の劇場であるというのも意味深長だ。

このディスクの発売を知ったとき,なぜかこれは買わなくてはいけないと直感した。それは正しかった。細く長く付き合っていけそうなCDだからだ。夜中にバッハの音楽を聴きながら,本を読むときには最適な1枚ではないだろうか。リラックスして何かに集中するには絶好の演奏といえる。

まず,古楽器の音色に何ともいえない温かみがある。焼べた薪が爆ける暖炉の傍らにいるような落ち着いた気分にしてくれる一枚だ。電気や石油の暖房とも,また石炭ストーブとも違い,この暖炉の独特の暖かさが心地よく,外界から遮断された居心地のいい片隅で何事かに集中できる時間と空間を提供してくれる。それは瞑想的であるとともに頭の冴えわたる片隅でもある。ラヴェンナのゴルドニー劇場がどのような場所なのかは承知していないが,イタリアの地方都市にある小さな古い劇場だとすると,長い年月をかけて培った雰囲気をもCDに収めたようなところもある。

また,このレコーディングでは,聴く側を飽きさせない工夫が凝らされているのもありがたい。曲ごとに楽器編成を変えて,響きの変化で聴く者を楽しませる。「フーガの技法」全体を14曲のコントラプンクトゥス,4曲のカノン,2曲のフーガ曲という風に全体を20の曲に分割して,それぞれの曲ごとに演奏する楽器の組み合わせを変化させている。弦楽四重奏,オルガン,チェンバロが参加していて,弦楽四重奏,オルガン,チェンバロがそれぞれ単独で演奏する場合もあれば,弦楽四重奏とオルガンあるいはチェンバロのと組み合わせもあれば,三者全てが演奏に加わる場合もある。多彩な音色を楽しめるような配慮がなされていて,その響きの多様性が同じ楽器で演奏するときの単調さから救っているのである。

もう一つ,この「フーガの技法」を根底で支える現代的な感性が,このCDを受け入れやすく魅力的な表現にしている。この演奏は古楽器を使い,イタリアの古い劇場で演奏し,それをオフマイク気味のセッティングで録音しているにもかかわらず,一点の曇りもない明晰な演奏である。また,フーガという高尚な音楽形式を奉る類の演奏でもなければ,神に捧げる神聖な音楽という解釈とも一線を画している。あくまでも,21世紀に生きる人間がくつろいで楽しむ演奏である。

使用楽器も録音場所も,楽器構成を曲ごとに変えることも,演奏する際の様式感もすベてダントーネのアイディアとみて間違いないだろう。気心の通じたアカデミア・ビザンチーナのメンバーを共演者に選んだのも,ダントーネの構想を実現するための手段と考えていいはず。おそらく,ダントーネ自身,この結果に満足しているのでは。

音楽の神ミューズに奉るでもなく,キリスト教の神に捧げるでもない,ありふれた人間が自然に耳を傾けたくなるような「フーガの技法」と断定していいだろう。人間のための「フーガの技法」であるからという理由で,このディスクをこの作品の決定盤にしないという判断も理解できる。だが,こういう「フーガの技法」も,優れた演奏として許容されるのでは。
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