熊野古道が世界遺産に登録されて、もう久しいが、私が行ったのはそれより前だ。まだ「世界遺産」の「せ」の字もなかった頃、古道を歩いた。
田辺に一泊し、中辺路を歩いた。観光写真などでは石畳の古式ゆかしい道が紹介されるが、ほとんどは普通の山道である。ほとんど人の往来もなかった。少し怖かった。心臓麻痺とか脳溢血で倒れたとき、だれも助けてくれないような場所なのだ。尾根の上を延々と歩く。ところどころに「王子」と呼ばれる拝所がある。それをお参りしながら熊野本宮大社を目指す。息が切れて苦しくてたまらない。こんなすごいところを「軟弱」なはずの平安貴族が行き来したというのが、なんとも信じられなかった。
途中、「近露」という集落で一泊した。今調べたら出てこないが公共の宿みたいな宿泊施設に泊まった。宿にアクエリアスの自動販売機があった。貪るように飲んだ。体が必要としていたのだろう。500ミリリットルのボトルを4本ぐらい買って飲んだ。あんなにうまい飲み物は生まれてこのかた飲んだことがない。最近は売っていないが「アクエリアス・イオシス」という銘柄だ。夕食に「怪しげ」な肉が出た。クマかイノシシか何かだろう。もう訊く気力は残っていなかった。部屋に戻り、爆睡した。
翌日はバテてしまい古道歩きは諦め、バスに乗って一路熊野本宮を目指した。
「可愛い子には旅をさせよ」という、ことわざがあるが、昔の旅の一端を知った。
ログインしてコメントを確認・投稿する