mixiユーザー(id:7846239)

2017年03月19日17:07

662 view

札幌交響楽団第597回定期演奏会

【プログラム】

1 メンデルスゾーン: 序曲「フィンガルの洞窟」op.26
2 シューベルト: 交響曲 第5番 変ロ短調 D.485

     〜〜〜休 憩〜〜〜

3 ブラームス: 交響曲 第1番 ハ短調 op.66

札幌交響楽団
ラドミル・エリシュカ(指揮)

(ロビーコンサート)
シュポア: 2つのヴァイオリンのための二重奏曲ニ短調op.72より第1楽章・第3楽章
      大平まゆみ,岡部亜希子

2017年3月11日(土)14:00開演,札幌コンサートホール


エリシュカが指揮する札響の定期演奏会を聴いてきた。定期演奏会の昼公演はいつもなら7〜8割程度の入りなのだが,3月定期は9割以上の席が埋まっていた。エリシュカが指揮するとあって,多くの音楽好きが期待したためだろう。この指揮者は札幌だけでなく,国内でも人気があるとのこと。

この日の演奏曲目の中で注目を集めたのは,ブラームスの交響曲第1番。これでエリシュカと札響のコンビは,チャイコフスキーの後期交響曲に次いで,ブラームスの交響曲の全曲演奏を成し遂げることになる。そのせいで,会場は心なしか熱気と興奮が充満しているような気配が。

エリシュカと札響のコンビは,これまで5回くらい聴いている。エリシュカがタクトをとる定期は,他の指揮者が振る定期よりずいぶん面白いと感じていた。これまで,その理由がもう一つはっきりと解らなかったのだが,先日の定期演奏会を聴いて手懸かりがつかめたように思う。

この指揮者が振ると,弦楽セクションの重厚な響きが一段と際立つ。響きの重心が下がるような印象で,弦楽器群の深く厚い響きが充実する。おそらく,フレーズの最後の音までていねいに鳴らし切るからなのではないかと先日気が付いた。泥臭い演奏だという見方もあるだろうが,そう感じさせないテクニックも兼ね備えている。野球に喩えると,ピッチャーの投げた球がホームベースの付近でグーンと伸びて,力強さがいっそう増す,そのような投球を思い起こさせる。だから響きは充実し,力強くエネルギーにあふれたサウンドになる。この点だけに注目すると,エリシュカが指揮台に上がったときの札響はツー・ランク程度上位にあがったようにきこえなくもない。

エリシュカのもう一つの特色は歯切れの良さだ。85歳という年齢にもかかわらず,小気味の良さがこの指揮者の持ち味と言える。それを原動力にオーケストラをドライブさせ,痛快な演奏を披露してくれる。ある意味,外連味たっぷりな演奏とも言えるが,そこはベテランの老練さで嫌味な要素を見事なまでに消し去る術を心得ている。

独特のテンポ感も,上記2点ほど目立たないものの,この指揮者の特色だろう。歯切れの良い演奏ということからも想像できるように,テンポはおしなべて速めである。フレーズのディテールをていねいに造形するとくどく鳴りがちだが,速めのテンポでそれを中和しているのだろう。それを意識してやっているというより,本能的な反応のような気がする。

これらの特徴は,全て旧東欧諸国で戦後も守り続けた伝統の成せる技のような気がする。エリシュカが国内で人気を誇るとするなら,彼が新基軸を打ち出してそれを聴衆が絶賛しているのではなく,ヨーロッパの古き良き伝統に対する郷愁や賛辞なのだろう。オーケストラがグローバル化する過程で見失った何かが評価されているように思う。煌びやかだけれど薄い響き,上手だけれども疎かにされるフレーズの語尾,そういう変化に対する無意識の不満があるのではないだろうか。

ブラームスの交響曲第1番で,こうした点が一番よく表れていたのが第4楽章である。充実した弦楽器の響き,力強い推進力,そしてブラームス特有の高揚感は,これまでに聴いた録音や演奏会の中でも最高の部類に入る。ブラインド・テストをしたなら,これが札響の演奏だと言い当てる人はいないかも知れない。第1楽章から第3楽章までは,弦と管のバランスが微妙に狂っていたり,テンポが若干間延びしていたり,アンサンブルにわずかなズレがあったり,悪い演奏ではなかったものの,理想的とは言い難い小さなキズがあった。

これは第4楽章を含めた課題であるが,管楽セクションのレベルを上げることが今後の飛躍にとって不可欠だと思った。木管や金管のアンサンブルの精度を向上させるために,まずは各楽器の音程をいま以上に安定させることが必要だろう。そして,管楽セクションの音色を弦楽セクションのそれと統一することを明確な目標に掲げることだ。エリシュカは管楽器を抑え気味に扱うとこでこの課題に対処していたが,札響がステップ・アップするためには,より根本的で恒久的な対策が求められる。とはいえ,オーボエとクラリネット・ソロの艶かしいほどの美音にはため息が出るほど。全ての管楽器がこのレベルで揃えば問題の大部分は解消するのだが。

最初に演奏された「フィンガルの洞窟」は,メンデルスゾーンの音楽にしてはやや重過ぎたように感じる。メンデルスゾーンの作品をブラームスの流儀で演奏するのは考えもの。それぞれの作曲家にふさわしいスタイルや音色で演奏するようにしないといけないだろう。第1曲目から,心はブラームスのシンフォニーに行っているようで残念だった。

第2曲目のシューベルトも同じ問題を抱えた演奏といえる。シューベルトにしてはやや演奏が鈍重で,交響曲第5番のチャーミングな喜悦感だ台無しに。メロディー・ラインが北ドイツの靄の中で霞んでいるようにきこえる。この曲を演奏するなら,メロディーをより色彩的に際立たせないといけいない。

いい意味でも,わるい意味でも,ブラームスの交響曲第1番に焦点が当てられた定期演奏会ということができるだろう。メインの曲目に目標が定まると,その流儀で他の曲目を演奏しがちだというのは,このオーケストラの限界を露呈している。プログラムで取り上げる曲目をそれぞれの作品にふさわしいスタイルや音色で演奏するというのは生易しい話でないことは重々承知しているが,現状に甘んじていては後退あるのみになってしまう。

とはいえ,音楽的なエネルギーに富んだ重厚感のある力強い演奏という目標の達成に糸口が見つかったというのは,飛躍の第一歩になるだろう。さいわい聴衆もそれを支持している。ただし,2017-2018年のシーズンでは,エリシュカが指揮する演奏会が例年の2回から1回に減るというのは,指揮者の年齢からしてやむを得ない面があるにせよ,このオーケストラの発展とこの地域の聴衆の成長にとって好ましい事態とはいえない。先日発表になった定期演奏会のスケジュールを見ると,エリシュカに代わってこの面を強化し得る指揮者も見当たらないのはどうしたことだろう。将来の方向性が定まっていないのだろうか。

ところで,3月14日に同じプログラムにより東京芸術劇場で東京公演が行われた。発売された当日券は100枚だったとのこと。地元より入りは良い。エリシュカの指揮が好評を博した昨年の東京公演の成果だろう。

ちなみに,ラドミル・エリシュカはチェコの指揮者で,初来日は2004年。札響との初共演は2006年。それまで国内では無名に等しかったのだろうし,ヨーロッパでの演奏活動もおそらくチェコ国内が中心だったのではないだろうか。
2 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2017年03月>
日 月 火 水 木 金 土
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031