【プログラム】
1 J.S.バッハ/コダーイ編曲: 前奏曲とフーガ ニ短調 BWV538
ペレーニ(Vc),ラントシュ(Pf)
2 シューベルト: 即興曲変ホ長調op.90-2,即興曲変ロ長調op.142-3
ファルヴァイ(Pf)
3 ワルター・キューネ: チャイコフスキーの歌劇「エフゲニー・オネーギン」の
主題による幻想曲
ヴィーグ(Hrp)
4 コダーイ: ハンガリーのロンド
ペレーニ(Vc),ラントシュ(Pf)
〜〜〜〜〜 休 憩 〜〜〜〜〜
5 ドビュッシー: 前奏曲集第2集より「枯葉」,「ヴィーノの門」,「ヒースの
草むら」,「月の光がそそぐテラス」,「ラヴィーヌ将軍,風変わりな」
ラントシュ(Pf)
6 ブルッフ: コル・ニドライ op.47
ペレーニ(Vc),ヴィーグ(Hrp)
7 パガニーニ: ロッシーニの歌劇「エジプトのモーゼ」の主題による変奏曲
ペレーニ(Vc),ヴィーグ(Hrp)
8 ドビュッシー: 小組曲
ファルヴァイ(Pf),ラントシュ(Pf)
(アンコール)
リスト: エレジー
ファルヴァイ(Pf),ラントシュ(Org),ペレーニ(Vc),ヴィーグ(Hrp)
シャーンドル・フェルヴァイ(Pf)
イシュトヴァーン・ラントシュ(Pf)
ミクロシュ・ペレーニ(Vc)
アンドレア・ヴィーグ(Hrp)
2017年2月15日(水),19:00開演,札幌コンサートホールKitara小ホール
札幌コンサートホールを会場に開催されている第20回リスト音楽院セミナーを記念する演奏会へ行ってきた。
出演者はいずれもリスト音楽院(正式名称はリスト・フェレンツ音楽大学)で教鞭を執る演奏家。シャーンドル・フェルヴァイは,1997年から2004年までリスト音楽院の学長を務めたピアニスト。イシュトヴァーン・ラントシュもピアニストで,1994年から1997年まで学長の職にあった。ミクロシュ・ペレーニは1980年以降教授を務めるチェリスト。ハーピストのアンドレア・ヴィーグは2013年に音楽院の学長に就任している。演奏家として最も名前が知られているのはペレーニだろうか。
この日は,セミナーで受講生を指導する演奏家のガラコンサート。なのでプログラムには小品が並び,演奏者の組み合わせは多種多様。音楽と真剣に向き合うというより,華やかな雰囲気が漂う祝祭的な催しといえる。
こうしたコンサートの性格が多分に影響しているのだろうか,音楽を演奏することの意味は聴衆の心を豊かにすることだ,というメッセージがどの出演者の演奏からも伝わってきた。だが,演奏会の趣旨以上に,リスト音楽院のポリシーが聴く者の心を幸せにすることに重きを置いているのだろうし,ひいては東欧社会での音楽の位置付けを反映していると受け止めた。ある意味,新鮮で目から鱗が落ちたコンサートだった。
「前奏曲とフーガニ短調BWV538」は,チェロの名手でもあったコダーイがバッハのオルガン曲をチェロとピアノのために編曲した作品だ。バッハの音楽というと,崇高で峻厳な響きを思い浮かべるが,ペレーニとラントシュの演奏は人間的な温かみあふれる演奏である。ペレーニの美しい透明なチェロの音色と丸みを帯びたラントシュの温もりのある透きとおったピアノが,聴く者の気持ちをほぐし幸せな気分にしてくれる。
ファルヴァイが弾くシューベルトの「即興曲作品90−2」と「即興曲作品142−3」は,やや造形が甘くアーティキュレーションもぞんざいなところがある。だが,このピアニストのシューベルトには,聴いていて辛くなるような過度に研ぎ澄まされた要素がほとんど感じられない。シューベルトの音楽の素朴な美しさが前面に出ていて,夕食の後に自宅の居間で喜びに満たされつつ即興曲を奏でているといった風情が感じられる。
ワルター=キューネの「チャイコフスキーの歌劇『エフゲニー・オネーギン』の主題による幻想曲」は,このオペラの名旋律によるパッチ・ワーク。それと同時に,ハープの美しさや華やかさを引き出す作品でもある。ヴィーグの演奏は,どちらかというと華やかなパーティーの余興にふさわしい煌びやかなハープ。ロシア貴族の宴の一場面を彷彿とさせるところは,この作品のツボを押さえた演奏といえる。
コダーイの「ハンガリーのロンド」は管弦楽のための作品。その原曲をペレーニがチェロとピアノのために編曲した。この作品はハンガリー風のメロディーが続く地方色豊かな側面とリズミックな躍動感など普遍的な側面とを併せ持つ。ペレーニとラントシュのコンビは,マジャールの民族色や現代的なリズムをことさら強調することなく,素朴といっていいほど音楽を演奏する楽しさに集中していた。
ドビュッシーの「前奏曲集第2集」からの5曲でも,ラントシュはこの作曲家の革新的な手法や象徴主義などには構わず,ただひたすらドビュッシーの柔らかく漂うような響きを愛でるような弾き方をしていた。テクニックの点では完璧とまではいえないにしても,ふんわりとしたまろやかな音色にはこのピアニストの愛着が注ぎ込まれていて,それが会場で演奏に聴き入る音楽好きを幸福で包み込んでいた。
ブルッフの「コル・ニドライ」とパガニーニの「ロッシーニの歌劇『エジプトのモーゼ』の主題による変奏曲」は,いずれもチェロとハープのデュオで演奏された。「コル・ニドライ」はチェロが旋律を朗々と歌う豊かな情緒の作品で,ペレーニの清澄なチェロによる控えめな演奏に好感を持つ。「エジプトのモーゼの主題による変奏曲」も超絶技巧で会場を興奮の坩堝と化すような意図はなく,ただただこの主題と変奏を難所を乗り越えながら心ゆくまで楽しみつつ弾くような演奏。
ドビュッシーの「小組曲」は4手のための作品だが,この日は2台のピアノで弾かれた。「小舟にて」,「行列」,「メヌエット」,「バレエ」の全4曲で構成されるこの作品は,20代半ばのドビュッシーが書いた。この作品では独特の響きよりも,若きドビュッシーの才気煥発で輝かしい側面がうかがわれる。ファルヴァイとラントシュの二人は,あふれんばかりの才能に光をあてるような演奏を繰り広げる。
音楽は理屈抜きで楽しいもので,人を幸せにする芸術だということを思い起こさせてくれる演奏会だった。それが全てだとは思わないが,とても大事な要素であることには同意する。そして,東ヨーロッパ社会にこのような考え方が根強く残っているのだとすると,羨ましくもある。
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