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2016年08月12日00:40

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おれおれ詐欺 Reverse

電話が鳴った。
出ると、かなり高齢と思われるお婆ちゃんの声がした。
「あ、もしもし、あたしだけど。あのね、必要なものがあってね、電話したの」

声に聞き覚えはない。
話す内容にも心当たりはない。
これは間違い電話だと判断するが、そう考えている間にもお婆ちゃんは話し続けている。

えーっと、お間違えではないですか? どちらへおかけですか?
その旨を、やんわりと問いかけるが……
「あのね、ノートがなくなっちゃってね」

これは困った。会話が噛み合ってないぞ。
だがしかし、この間違い電話を無碍に切れない理由があった。
文字では伝わらないが、それはお婆ちゃんの声から感じる「表情」

ほぼ確定的に、おれを家族と勘違いしている。おそらくは息子だろう。
その息子と電話で話せる嬉しさがにじみ出ている。
さらに重要なのは、嬉しさに混じって、遠慮や申し訳なさが混じっていたことだ。

お婆ちゃんの話す内容は要領を得なかったが、声から伝わってくる表情は明瞭だった。

推察するに、お婆ちゃんは家族と別居している。たぶん一人暮らし。
この会話の噛み合わなさ……、少しボケが入っている…、施設にいるのかも知れない。
そこで必要なものを、こうして家族に頼んでいるのだろう。

息子に電話するのは嬉しいことだが、同時に、負い目のようなものも感じているに違いない。
何か説明があったわけではないが、ほとんど確信があった。
だが、どうすればいい…? やはり間違い電話であることを解ってもらうしか…

あ、あの…、どちらへおかけですか?
もう一度そう問いかけると、お婆ちゃんの声に揺らぎが顕れた。
「あ…、電話しないほうがよかったかね……」

ぐはっ(吐血) すんごくしょんほりしてる。
電話なのに見えるっ、私にも見えるっ! しょんほりした高齢のお婆ちゃんの姿が!!
ああ、いや、そうではなくてですね。慌ててよくわからないフォローをするおれ。

どうする、どうする、どうする!

間違い電話であることを伝えたのだから、世間の常識的に考えれば電話を切る場面だ。
が、そんなことをしたら、どれほどお婆ちゃんがしょんほりするか目に浮かんでしまう。
「息子に電話を切られた」 「息子に間違い電話扱いされた……」 

うわぁぁぁ、ダメだ。そのルートはない。おれにそんな選択肢は選べない。
しかし、表面だけ話を合わせても、後日、齟齬が大きくなってしまう。
「約束したのに息子が来ない」 「それどころか、息子はそんな約束知らないという……」

あうあああ。進退窮まってるぅぅぅ
どうすりゃいいんだぁぁぁぁぁ。
なんてことを考えているうちにも、お婆ちゃんは話し続け、おれはなんとなく返事をしていた。

もうこうなったら、多少の齟齬はやむを得まい。おれは意を決し、息子になりすますことにした。
しばらく会話したところで、こう切り出した。
あのね、ごめんなー、今日ちょっと都合悪くてなー。明日、明日もう一度電話してくれるかー明日。

明日を何度も強調する。
明日、また電話ちょうだいな。ごめんなー、待ってるからなー明日。
そんでな、いまの話もう一回してなー。おれ忘れちゃってるといけないからな。明日もう一回なー。

そうして、(やや強引だが)なんとか事態を収めて電話を切ることが出来た。

次こそ、正しい電話番号へかけてくれることを、切実に祈った。
同時に、お婆ちゃんの家族が実在することも……。
ホントは身寄りのないお婆ちゃんで、しかし痴呆からその認識がなく、こうして「間違い電話」をしてしまう……、なんて可能性も思い浮かんだからだ。そして考えたら泣けてきた。

どうか、どうか、婆ちゃんが息子と話せますように。
息子が婆ちゃんを邪険にしませんように。
どうか、笑顔がありますように。

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