犬を連れた老婆が、道を歩いている。
ゆっくりと、ゆっくりと。
犬は、柴犬っぽい。もしかしたら雑種かもしれない。
首輪はあるが、リードはしていない。
老婆は、杖をついている。
腰は深く曲がっている。
犬のリードを持つのは難しいだろう。
犬は、老婆の前を三歩先行して歩く。
ゆっくりと。
犬は、時折立ち止まり、気遣わしげに老婆を振り返る。
老婆との距離が詰まると、また前を向き歩き出す。導くように。
犬を連れた老婆が、道を歩いている。
いや、犬が老婆を連れて散歩している、というべきだろうか。
そんな印象を抱きながら、私は、その一人と一匹を追い抜いていく。
以来、その道を通ると、よくその一人と一匹に遭遇した。
犬が前を行き、気遣わしげに老婆を振り返る。
老婆は杖をついて、ゆっくりと、ゆっくりと進む。
何度あっても、そのスタイルに変化はなかった。
しかし、いつからだろうか、めっきり老婆と犬を見かけなくなった。
まあ、たまたまだろう。最初はそう思った。
それにその道を通るたび、思い出すわけでもない。
たまに、「あ、そういえば…」と思い至るのである。
「最近見かけないな」と、最初にそう思ってから、おそらく一年以上が経っていると思う。
元気でいればいいが。
しかし、あの高齢である…。
道で見かけるだけの他人ながら、すこし心配していたのだが……。
今日、その老婆を見かけた。あの見事に真っ白な白髪、見間違いではあるまい。
別の婆ちゃんと道端で立ち話をしていた。
奥歯に挟まったモノが消えたような気がした。
犬も元気だといいな。
いや、あの犬のことだ。きっと悠然としているに違いない。
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