mixiユーザー(id:4364989)

2016年06月02日22:38

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老婆と犬

犬を連れた老婆が、道を歩いている。
ゆっくりと、ゆっくりと。

犬は、柴犬っぽい。もしかしたら雑種かもしれない。
首輪はあるが、リードはしていない。

老婆は、杖をついている。
腰は深く曲がっている。
犬のリードを持つのは難しいだろう。

犬は、老婆の前を三歩先行して歩く。
ゆっくりと。

犬は、時折立ち止まり、気遣わしげに老婆を振り返る。
老婆との距離が詰まると、また前を向き歩き出す。導くように。

犬を連れた老婆が、道を歩いている。
いや、犬が老婆を連れて散歩している、というべきだろうか。

そんな印象を抱きながら、私は、その一人と一匹を追い抜いていく。


以来、その道を通ると、よくその一人と一匹に遭遇した。
犬が前を行き、気遣わしげに老婆を振り返る。
老婆は杖をついて、ゆっくりと、ゆっくりと進む。

何度あっても、そのスタイルに変化はなかった。
しかし、いつからだろうか、めっきり老婆と犬を見かけなくなった。

まあ、たまたまだろう。最初はそう思った。
それにその道を通るたび、思い出すわけでもない。
たまに、「あ、そういえば…」と思い至るのである。

「最近見かけないな」と、最初にそう思ってから、おそらく一年以上が経っていると思う。
元気でいればいいが。
しかし、あの高齢である…。

道で見かけるだけの他人ながら、すこし心配していたのだが……。
今日、その老婆を見かけた。あの見事に真っ白な白髪、見間違いではあるまい。
別の婆ちゃんと道端で立ち話をしていた。

奥歯に挟まったモノが消えたような気がした。
犬も元気だといいな。
いや、あの犬のことだ。きっと悠然としているに違いない。


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