『リップヴァンウィンクルの花嫁』を観てきた。
岩井俊二、待望の新作だ。
とてもよかった。岩井監督12年ぶりの日本映画ということで若干不安もあったのだが杞憂だった。全く鈍っていない。純正100%の岩井作品である。
冒頭、黒木華演じる七海がネットで知り合った男と待ち合わせをするシーン。雑踏の人混みの中、男を捜すけど見つからない。スマホで相手に「ポストの前にいます」と目印を伝える。画面の真ん中に立つポストの鮮やかな赤い色に気をとられていると雑踏の中にいつのまにか男が現れている。
このファーストシーンだけで持っていかれる。まさに岩井ワールドの幕開けだ。
このあと彼女に待ち受ける仕打ちというのが結構過酷なものなのだが、へヴィな雰囲気にならないのは、そういうシーンでもどこかユーモラスな演出がされているからだろう。
姑から家を追い出される場面、七海は泣きながら家を出るのだが、なぜかしゃっくりが止まらない。シリアスなシーンにこういう「外し」を入れる演出が好きだ。
今回、黒木華という女優を僕は初めてまともに観たと思う。(くろきはる、と読むことも初めて知った)ぱっと見、ルックスは決して美人ではないと思う。いわゆる昭和顔だ
最初、予告編で彼女を観た時、岩井監督が好きそうなタイプだなあと思った。なんか蒼井優っぽい女優さんかと思ったんだよね。でも違った。蒼井優より全然地味(笑)
だから、この作品の主要人物3人のうち、後のふたり綾野剛とCoccoの中で大丈夫なのかなと心配になった。なにしろ今回のふたりのキャラクターは強烈なものがあったからね。こんなにアクの強い二人に囲まれたら、主役なのに飲み込まれちゃうんじゃないかしら?と思った。
でも、結論をいうとそれは全くなかった。確かにこの黒木華という人は終始おとなしく、声も小さく、芝居でも『受け』のイメージ。だけど、それでもふたりに負けない存在感があったのは、このふたりまでも包み込む包容力みたいなものがあったからではないか。
しかし、綾野剛とCoccoはよかったねぇ。特に綾野剛のナゾめいた男は大変魅力的で、僕はこの男のファンになってしまったくらいだ。綾野剛は今までいろいろな作品を観てきたけど、正直印象に残る役はなかった。だけど今回の「安室」役は本当にいい演技をしたと思う。これが岩井演出による功績なのか彼の実力による賜物なのか。おそらくどちらもなのだろうけど、僕はこの映画のエンドロールが出た時にすごく寂しい気持ちになった。それはこの「安室」という男をもっと観ていたいと思ったからだ。こんな気持ちになる映画はめったにない。岩井作品のエンドロールは結構こういう感じになるけど、今回みたいに脇役の男の行末を気にしてしまうような気持ちになってしまったのは初めてだった。
Coccoもよかった。僕はこの人は歌うたいのイメージで、初期の曲は好きなんだけど、音楽活動停止した後に、いろいろメンタル的にやられたというウワサを聞き、ある雑誌で自傷行為の跡だらけの姿で表紙に登場してきたあたりで聴くのが辛くなってしまっていた。
だが、今回は演技においてそんなイメージをうまく反映させつつ、それでいてそのイメージをくつがえすようなギリギリの表現に成功したのではないか。これも綾野剛と同じで、監督の腕なのか、Coccoの存在感のなせる技なのか。おそらくどちらもなのだろうけど(笑)
そのほか、原日出子や地曵豪、りりィなどは登場時間は短くても非常に印象に残る演技をみせてくれた。
作品自体は、途中から「終わらないでくれ」と思うほど居心地のいい時間が続いた。3時間もある映画なのにね。でもあっという間だったな。まさに岩井マジックにかけられたようだった。彼独特の映像美も健在だったしね。右腕と言われた撮影監督の篠田昇さんが急死してから、ずっと映画を撮らなくなったからやはり彼の存在は大きかったんだろう。
でも、映像もさることながら、編集や音楽などにおいてもこの12年間の間に彼の中で蓄積・昇華されたものを観せてもらったと感じる。12年は無駄じゃなかった!
この作品が岩井俊二の最高傑作だという人も多いかと思う。
僕は、そうだなあ・・・。僕の場合、いちばん好きなのは『Love Letter』で決まってるので、最高ではないのだが、間違いなく【進化】した岩井ワールドを魅せてくれたね。
そういえば、今回はネットやSNSが作品の重要なツールになるのだが、思えば『Love Letter』は手紙が重要ツールだったなあ。こういうところにも【進化】が見えてるのかもね。
ところで、僕が観に行った日は、幸運にも監督が舞台挨拶をする回が取れた。上映後、監督が現われた時には感動したねぇ。僕にとっては初めての生・岩井俊二だったから
MCのいない独り喋りで、ぼそぼそと小さな声で話すので、係の人が気を利かせてマイクの音量を上げたら、監督が「あ、音、大きいです。下げてください」と言ったのは笑った。(この作品のあるシーンに通ずるところがあったので)
いろいろな撮影エピソードや裏話が聞けたのだが、僕が最も印象に残ったのは出身地である仙台を語った話し。
「仙台で育ち、ここでいろいろな感受性を育んだと思います。一番敏感だった11歳から17歳あたりまでの感受性で、もしも映画を作ることができたならばものすごい傑作を作れると思うんだけど・・・(笑)」ということ。
なんか僭越ながらすごくわかる気がした。僕も10代後半というのはいろんなことで悶々としてたけど、いちばん想像力(創造力)があった気がする。でもその年代では表現する方法がわからないんだよね。
あとは、こんなことも言った。
「『花は咲く』(岩井俊二が作詞した震災のチャリティソング)は被災地や亡くなった人のことを考えて書いたが、振り返ると、この詩は自分自身が故郷仙台を望郷の念で見つめて書いた詩でもあったんだなと気づかされたりして、なおさらここ仙台が重要な場所になっている」
ううっ、こんなことを言われたら応援するしかないだろうがっ!
いや、もうずっと前からファンだし応援してるけど・・・
いやあ、幸せな3時間だった。また近いうちに観にいこうと思っている。2回目はまた違った観かたができるんだろう。楽しみだ〜
【おまけ】
今回のキャンペーンの時に、実はうちのカミサンが羨ましくも、監督にインタビューする機会があった。(オレも連れてけ!と頼んだがあえなく却下された

)
んで、カミサンの叔母が昔やっていた駄菓子屋に少年時代の岩井俊二が通っていたというウワサがあり、カミサンはそれが本当かズバリ訊いてみたそうだ。
そしたら、「さこん屋(店の名前)ですよね。毎日通ってました」と即答されたそうだ。
いや〜。マジか

大野田のさこん屋は岩井俊二ファンの聖地決定だなあ(笑)と思ったが、もうお店はないんだよねぇ。残念。
そして、内緒だがカミサンは「うちのダンナが監督の大ファンです」と言ったら、
「ありがとうございます。よろしくお伝えください」と言ってくれたそうな。
ひ〜〜〜〜〜

監督!こちらこそありがとうございます!
限りなく間接的な言葉ですがウレシイです!

(笑)
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