【書き下し文】
子曰わく、人の生くるや直ければなり。
之れ罔(な)くして生くるは、幸にして免(まぬか)るるなり。 (雍也第六)
以下、村岡満義「私と論語(上)」の解説です。
孔子が、「人の世に生きておられるのは直、すなわち素直さがあるからである。素直さがなくて生きていけるのは、偶然にも難を免れているのである」と言われました。
直とは「まっすぐ」、「ありのまま」、「自分の欠点を隠さない」という意味です。近ごろ、よく大きな脱税がばれて刑務所に入っている人たちが新聞を賑わいしておりますが、私は浅はかなことだとなあと思います。
長い間、本人はうまいことをし、得をしたと思っていたことでしょう。しかし、ただ、幸いにして免れていただけで、悪いことをすればいつか必ず現れるという孔子の教えを知らぬ人で、神を信じない人であります。
悪い行いは自分が不幸になるだけでなく、子孫にも親類にも禍を及ぼします。初めから正直、すなわちありのままであれば、こんな不幸には合わなかったはずです。
自分のありのまま以上、すなわち不正をして実力以上の得をしたら、必ず罰せられ、人のため、世のために尽くして犠牲を払った人は、それ以上の幸福を神さまから貰えると教えたのが孔子です。
日本人の中には「水清ければ魚住まず」とか、「正直者がばかを見る」とか、「人と屏風とはまっすぐ立たぬ」とか、「正直では成功できない、うまく正直らしくし、人をかきわけて行かなければ生存競争には勝てない」と思っている人がいます。これはまったく無知な、つまらぬ人の諺で真理に反しています。
「正直の頭に神宿る」とか、「正直は神の真心」とか、「悪銭身につかず」とか、良い諺が昔からあります。これらの諺にある正直な心が人間には大切です。
徳という字は
正直の「直」という字と、「心」と、「行なう」という三字を組み合わせてできた文字だそうで、「直心を行うこと」を意味します。
すなわちありのままで、むしろ自分の欠点を隠さずさらけだすことが徳であり、そんな人は、皆から信頼され、尊敬されます。欠点や、悪い面は隠して、自分の良い点だけを見せたら、自分の得になると考えることの逆であります。「徳は得なり」と言います。正直な心で行っていると、地位、名誉、財産が得られるということです。
毎日欠点をさらけ出し、ありのままに進むよう努めたいものです。
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