致知出版社の「人間力メルマガ」(2016.2.26)より、『平澤興講話選集「生きる力」』(全5巻)の一部を転載します。
「最善の努力をする」606回失敗する根気とおろかさと愛情
それから能力でありますが、偉大な発見というものは、素晴らしい頭と同時に、素晴らしいおろかさを兼ね備えておらんとできないものであります。
それはこの前、ちょっと申しましたが、サルバルサン606号という化学療法を発見しましたパウル・エールリヒは、606回薬をつくり直すという根気さとおろかさ、しかし、
606種の薬を考え出そうという頭の力がありました。
大事なのは頭の力と根気の強さです。私に頭の力は仮にないにしても、それなら606回やり直すおろかさと根気があるかと申しますと、残念ながらはっきりとあると答えられんのであります。
それほどの経験を持っておりませんから答えられませんが、まあなかなか606回失敗をするごとにむしろ勇気を出して606回新しい薬をつくった。
それもいい加減につくるのではありません。頭の中で考え抜いた結果つくるのであります。
しかもそのひとつの薬にはそのたびごとに容易ならん動物実験がついておるのであります。
ですから606回薬をつくったというだけでなくて、それをさらに実行している人があるのであります。そういう苦労がされておる。
606回も新しい薬を考え出す能力、脳の力。この頭の力、あるいは俗に言うよい頭と、しかもおろかさとを兼ね備えておってこそ初めて606号ができたのであります。
現在の、抗生物質の大半はみなそうであります。5千種、6千種、1万何千種なんていう世界中の土地から土を集めて、それから先は学問的な知恵がいるのであります。
そういうふうな最新の精密な研究の工程の一部分は文字通りめくらめっぽうであります。
世界中のものを集めて、その土をベースにすることによって、その中にペニシリンとか
アウレオマイシンとか、現在使われている抗生物質があるのであります。
現在の抗生物質の研究法を見ますと、そういうふうなおろかさの極地と賢さの極地とが結び合っているのでありますが、同時にそこには学者の最善の努力があるのであります。
頭だけがよくても駄目だし、根気だけがよくても駄目であります。
頭と根気とそれに最善の努力、もうひとつ仕事に対する愛情、あるいは研究に対する愛情が、偉大なる発見につながるということがいえるのではないでしょうか。
とにかくいずれにしてもハチマキ姿の努力は最善の努力とは言いかねるものが多いのであります。
長い視野をもって、環境の条件とか、自分の条件とかを見極めて、しかも目的を明らかにした最善の努力、そしてそれとともに目的に対する愛情があるのだろうと私は思います。
どうかみなさん、抗生物質をよくお飲みになると思いますが、その後ろにはそれだけの学者の努力があるということを忘れないでください。
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