12月29日 (土)、スポット陽気に思い立ち、午後から神戸市立博物館へ駆けつけました。

神戸市立博物館開館30年記念
特別展 マウリッツハイス美術館展 オランダ・フランドル絵画の至宝
http://www.city.kobe.lg.jp/culture/culture/institution/museum/tokuten/2012_03mauritshuis.html
【公式HP】
http://www.asahi.com/mauritshuis2012/intro/works/
【記者会見】
http://youtu.be/ZalFLhX0_o0
1月6日まで開催中のマウリッツハイス美術館展は、来場者30万人を突破する人気ぶり。
そこで、1996年のオルセー美術館展と同様、特別に年末年始も開館しているんです。
オルセーのときは最終日だけで1万人もの来場があったとのこと、
じっくり観るなら年末に限るはず!と、迎春準備を投げ打って(爆)鑑賞を決行。
いや〜、行って良かった・観て良かった!!!です。
博物館には15時半頃に到着。 前売券をもつ人たちはすぐ入館できたものの、
展示室への入場は制限されていた。(作品保護のため厳密な温湿度管理中)
16時前の館内はまだ混雑しており、作品を観るのに少々苦労した。
それでも【風景画】【歴史画】【肖像画・トローニー】【静物画】と順番に進み、
最後のジャンル【風俗画】を鑑賞中にアナウンスが入ったので、地階講堂へ移動。
イヴニング・レクチャー(学芸員による展覧会の見どころ解説)を聴いた。
17時スタート時には定員180人の講堂が大入りになる盛況ぶりだった。
講師は展示企画部長で名物学芸員の岡泰正氏↓ではなかったが、話は面白かった。
http://www.ezoushi.com/orsay/02_01.html
(代表作を紹介した記事
http://nekoarena.blog31.fc2.com/blog-entry-1499.html )
【 17世紀前期のオランダ・フランドルについて 】
ドイツ宗教改革の影響を受けてプロテスタントになったオランダ北部は、
宗主国スペイン(カソリック)から独立していった時期。
同時に、ポルトガル領ブラジルの沿岸部を直接支配するなど海外経営も盛んに。
王族の傍系であるヨハン・マウリッツ氏はブラジル総督として黄金期を築いた。
後に王立美術館となる彼の私邸(マウリッツ氏の家)は、オランダの政治中心である
ハーグに建つ。隣が現・首相官邸という立地は、彼がいかに大物だったかの証明。
この時代・この地では、他にまったく類のない美術文化が非常に発展していた。
多くの作品は、20世紀美術のような精巧さやモダニズムを感じさせる。
例えば、他のヨーロッパにおいて【風景画】というジャンルはまだ存在しなかった。
風景を主題とした作品が発表されるようになるのは19世紀後半、印象派の時代だ。
しかし、17世紀オランダでは、ライスダール他の風景画家が既に活躍していた!
また、スーパーリアリズムを追求した静物画も流行した。
一方、南部のフランドル地方は、依然としてカソリック支配が維持されていたため
宗教画が盛んだった。
「フランダースの犬」で有名な、ベルギー・アントワープ大聖堂の祭壇画を描いた
ルーベンスや、初期のレンブラントなどが宗教をテーマにした名品を残している。
今回来たルーベンスの『聖母被昇天(下絵)』は、本人がすべて描いているので
とても貴重。(大聖堂に描かれた作品は弟子たちと手分けする場合が多い。下絵は
そのための設計図・お手本なので、師匠1人で描き上げる。時には契約条件として
「本人がすべて描くこと」が入る場合も)
《私の感想》
肉眼で見ると、マリアの腰巻のオーガンジーっぽい透けた軽やかさなど、素材感が
非常にリアルに描き分けられている。「素材感の表現」はオランダ絵画の特徴かも。
(関連日記・【日本の美】天女はなぜ舞うか〜上村淳之画伯講演会
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1897227928&owner_id=1833905 )
【 風景画について 】
「漂白場のあるハールレムの風景」 1670−75年頃
風景画の中でも、画面の2/3が夏空で占められているこの構図は、極めて個性的。
画面中央、雲を背景に空高く舞う鳥が小さく描かれた様子は、広重の絵を思わせた。
大地にそびえる教会は、世界一大きいパイプオルガンで有名な町のランドマーク。
当時はチューブ絵の具などなかったため、絵の制作は工房内でのみ行われていた。
外で写生していない。印象の記憶で写真に撮ったごとく描き上げる画力は驚異的。
《私の感想》
パッと見、広重の風景画を連想した。空のど真ん中に小さく飛ぶ鳥がそう思わせた。
空の大きな広がりを感じさせる演出が心憎い。
ハールレムはライスダールの故郷、当時は人口4万人ほどの都市だった。
驚くことに、この町にはプロ画家が800人もいたという。人口に占める割合は2%。
彼らはそれぞれ専門分野で営業していた。例えば「牛を描かせたら誰」のように。
彼らが食っていけたということは、それだけ需要があったということ。凄い文化だ。
【 フェルメールについて 】
足を手入れする女たちの寛ぎを描いた「ディアナとニンフたち」(1653-1654頃) は、
浮世絵の「見立て」や「やつし」に通じるアイデア。
浮世絵の歴史
http://www15.ocn.ne.jp/~noo/japan/ukiyoe.html
http://iroha-japan.net/iroha/C06_art/01_ukiyoe.html
「見立て」「やつし」
http://book.asahi.com/clip/TKY200805210058.html
http://torinakukoesu.cocolog-nifty.com/blog/2008/07/post-29b3.html
「真珠の耳飾りの少女」は、当初非常に汚れた状態でオークションに出されたのを、
オランダ王立美術館の目利き官僚がフェルメールの真筆と睨み、二束三文で入手。
購入後に何度も洗浄・修復したところ、実はトローニーの最高傑作と判明した。
この作品はライティングが非常に難しい。
神戸市立博物館では当初、他の作品と同じように暖色系ライトで照らしていたが、
それだとターバンの青が綺麗に見えない。そこで、会期途中から寒色系ライトに
変更したが、今度は少女の肌色が美しく見えない問題が生じた。試行錯誤の末、
最近になって2種類の光をミックスして照らすようにしたところ、うまくいった。
今のライティングは、本家マウリッツハイスでも見えなかったフェルメールのサインが
肉眼でも確認できる余得まで生じた。今観に来た人達は、非常にラッキー。
画面左肩の黒バックに、サインも黒で描かれているので、よく透かせば見える。
《私の感想》
正直いって、今まで印刷物で見た「真珠の耳飾りの少女」は、どれもあんまり好きに
なれなかった。ヒビ割れ、眉はなく、ギョロ目で、やや気味悪くさえ感じていた。
ところが!!! 現物は衝撃的なほど魅力的だった。まったくの「別物」だった。
2階の特別展示コーナーに足を踏み入れた瞬間、思ったよりも小さな絵に釘付け。
ハッと振り向いた瞬間の無心な表情に魅入られた。とても柔らかい、新鮮な印象だ。
肌の透明感、唇の潤い、そして、瑞々しい眼差し。彼女は「私を見つめていた」。
フェルメールが一生手元に置いた作品との話に納得。珍しい黒バックさえ柔らかだ。
まるで、作品全体がほんのり発光しているような、心和ませる優しさに満ちている。
閉館前は人が減ったお陰で、遠目〜近くとためつすがめつ堪能できた。眼福至福。
【 レンブラントについて 】
今回の目玉作品「真珠の耳飾りの少女」ばかりがクローズアップされているが、
実はレンブラントの作品も充実している。トローニーの名品が4点と、最近になり
実は工房作の模写とされた「首あてをつけたレンブラントの自画像」。
《私の感想》
トローニー展示室は三方の壁に作品がかかっていた。ヴァン・ダイクやハルス他の
作品が二面にわたって展示、レンブラントは一面に納められていた。
「近くで見ると」どの作品も質感が非常にリアルで素晴らしい作品と思えるのだが、
ちょうど展示室の中央、それぞれの壁から4、5m 離れて作品を見渡すと、思わず
あっ!と叫びたくなるほど、レンブラント作品だけが際立って活き活きと見える。
他の作品は「写真館で撮った記念写真」のようで、レンブラントのだけは「映画の
ワンシーンを切り取った」ようだ。人物の佇まいに、深いドラマ性が感じられる。
レンブラントの弟子のホーホストラーテンは『夜警』を評し「展示された他の絵が、
まるでトランプの図柄のように見えてしまう」と、その傑出性に眼を見張ったとか。
私もトローニーの部屋で同じように感じた。
絵にはそれぞれ「見るべき距離」がある。レンブラントのように粗いタッチの作品は
ある程度離れたところから鑑賞することを織り込んで描かれていると思う。余談だが
レンブラント特有の「白衿マジック」は、後ずさりするほど際立ってきて面白い。
同様に、ハルスの『笑う少年』も、3m以上離れて見ないと少年の生き生きとした
愛らしさがピンとこない。図録では、あの作品の魅力は絶対に分からないだろう。
今回の名品はどれも状態が非常に良く、実物を堪能したため、図録は買わなかった。
結局、トローニーの展示室を中心に2回半くらい巡回して19時の閉館まで遊んだ。
【 静物画・風俗画について 】
ブリューゲル 父『万暦染付の花瓶に生けた花』や、ヤン・ステーン『牡蠣を食べる娘』
など、マウリッツハイスの宝が並んでいたが、最も心惹かれた作品はファブリティウス
の小品トロンプルイユ『ごしきひわ』だった。その自然主義と現代に通用するセンスは
1654年の作と言われても信じられないほどだった。5つの赤い実と葉っぱを瑞々しく
描いたアードリアーン・コールテの小品『5つの杏のある静物』も、色のセンスや
構図にハッとさせられる新鮮さがあり、とても印象的だった。
風俗画は、ヤン・ステーンの大作『親に倣って子も歌う』の解説を聞いたが、享楽的
生活の乱れを戒めるというテーマが説教くさい気がした。当時は市民に道徳を教える
大切な役割を果たしていたと思われる。(お寺の絵巻的な役割?)
《 参考記事・フェルメール 鑑賞レビュー 》
http://isabeau.fc2web.com/exhi/wien/frandle.htm
http://isabeau.fc2web.com/art2/verex.htm 「青いターバンの少女」
ログインしてコメントを確認・投稿する