つい最近、2012年入社の新入社員の現場指導に携わった30代の男性先輩社員から次のような話を聞きしました。
「私のところに配属になった新入社員は、女性で、知的水準は高く理解力はあるんです。しかし女性らしさというか……、気配りのようなものが感じられなくて。いや、男女で区別しているわけではないんですが、ちょっとあまりにも気が付かないというか……。
私たちが新人のころは、新人は皆のお手伝い役は自分からできることを見つけてやっていたと思うんです。例えば、ポットに水がなくなればそれを入れる、というレベルの話です。
いや、席から遠くてそれに気が付かない距離であれば、全く問題ないんですよ。でもその新人さんの側にポットがあって、なくなりそうになっていれば、それをやるのも仕事だと思うんですよね」
また、2年ほど前になりますが、他の人は次のように言っていました。
「先日、展示会を実施したんです。新人は勉強のためにそこに行かせたんですが、まあ、気が利かない。会場で新人同士で固まって、全く動かない。ふつう、配布物の整理をするとか、自分でできることを見つけてやるじゃないですか。でも、固まったまんま動かない。あまりにも何もしないんでびっくりしました」
さらに15年ほどさかのぼると、ある商社で人材育成を担当している人は次のようなことを言っていました。
「新人に封筒とそれに入れる印刷物と切手を渡して、封筒の中に印刷物を入れるように指示したんですよね。それで1時間ぐらいしてから様子を見に行くと、既に完成していました。しかしよく見ると、封筒の中に印刷物を入れただけで切手は貼っていない。これにはさすがにびっくりしました。普通、切手も置いてあるんだから切手も貼りませんか?
さもなければ切手も貼るのか確認にきませんか、時間も余っているんだし。いやいや、びっくりしましたよ」
上記以外では、私も新入社員研修を担当して「気が利かない」と思うことはよくあります。例えば、毎日使う研修会場のホワイトボードに前日の内容が書きっぱなしになっている。また別のケースではホワイトボードのマーカーが書けなくなったものがそのまま放置されている。マーカーを置く場所がカスだらけになっている。こういう時に「気が利かない」と感じます。
紹介した例から言えることは、「今の」新入社員が気が利かないのではなく、新入社員の多くは気が利きません。そのため1つ1つ教えていく必要があります。しかし、育成に携わる人は毎年変わり、何年かぶりに新入社員と接するため「最近の新入社員は……」となるのです。
「何の意味があるんですか?」と聞き返す新入社員
さてそこで、教える側が1つ1つ教えようと思っていざ取り組むと、次のようなケースに遭遇することもあります。
ある中小企業の社長談
新入社員を採用して配属し、指導する人が新入社員にコピーを頼んだら「コピーを取ることにどんな意味があるのでしょうか。私は、コピーを取るために仕事をしているわけではありません」と言ったらしくて、仕事がしづらいらしいんだよ。いや、これには参ったね。
このケースと似たことを、公開セミナー型の新入社員研修で私も経験しました。「あいさつとお辞儀」のトレーニングをしていたら「うちの会社では誰もこんなことをしていない。こんなことをする意味が分からない」と言われたのです。
新入社員のほとんどは、素直で言われたことにしっかり取り組んでくれます。しかし30人ほどが集まる研修では、1人か2人はこのような反応をする人もいます。
それではこのように「やることの意味が分からない」と言う人には、どのような対応が考えられるのでしょうか?
私が「意味が分からない」と言われた時は、次のように対応しました。
まずはやりたくない意思表示をする2人に向き合います。
「会社の人達がやらないのであれば、それはその場の状況判断なので、それでいいと思います。ただ、2人はこれから長いビジネス人生を送って行かなければならない。私たちは長い期間のことを考えて、最も厳しい基準でトレーニングをしています。2人はこれから、できるだ多くの人に認められていい仕事をしたいですよね」
ここで相手の反応を確認。
「それであれば、何年か後に今お伝えしているようなことを大事にする人とお会いして、仕事を進める機会があるかもしれない。その時に、今学んでいることができている人と、こんなのテキトーにやっておけばいいと思って流した人と、どちらがチャンスをもらえると思う? 私は、テキトーにやっている人は、チャンスをもらいにくいと思うし、これからますます厳しいと思う。簡単だと思うようなことでも、しっかりできる方が認められるし、カッコいいよ」と伝えました。
このように伝えたところ、最初は渋々取り組んでいた2人がテキトーにやっているあいさつの写真と、しっかりやっているあいさつの写真を撮り「ねっ、この方がカッコいいでしょ?」と、2人に確認してもらうと「なるほど!」と素直に喜んでいました。
その2人の反応から「皆と同じことをするのは何か照れくさい」「人から押し付けられたくない」ことへの反発だったのかもしれないと捉えました。
ここで私が留意した対応ポイントをまとめると、
1.将来にどのような影響があるかを伝える
2.相手の反応を確認する
3.取り組んでもらう
4.違いを自分で確認してもらう
5.取り組んでくれたことを喜ぶ
です。
この中では「将来への影響を伝える」点と、「違いを自分で確認してもらう」点に特に重きを置きました。伝えるときに2人の表情を見ていましたが、表情が大きく変わったのもこの2点でした。伝えたことへの手応えが感じられると、こちらもほっとします。
余談となりますが、紹介した例の経営者も「頼まれたコピーを取ること」の目的やその人にとっての価値、経営者として何を期待し、どう判断しているかを伝えたそうです。それを伝えて以降は、しっかり取り組むようになったそうです。
「前は、こんなことを言う社員には(辞めてもらって結構)という気持ちでいたが、若い人たちを見ていると、悪気があって言っているわけではないから、今はしっかり伝えるようにしているよ。上司や先輩が伝えられるようになるといいけどね」と言っていました。
こんなことを言っている私も、新入社員時代は気が利かない社員でした。今思えば、上司や先輩は、「えっ、こんなことも知らないの」と言いながら1つ1つ教えてくれていました。今さらながら、感謝です。