台湾籍のエコノミスト、リチャード・クー氏のコミュです。
現在は、野村総合研究所の主席研究員・チーフエコノミスト。
最新著書: 『世界同時バランスシート不況』徳間書店 (2009年 8月 共著)
経歴:
1954年、神戸生まれ。カリフォルニア大学バークレー校卒。ジョンズ・ホプキンス大学大学院にて経済学博士課程修了。1981年にニューヨーク連邦準備銀行入行。国際調査部、外国局などでエコノミストとして活躍した後、1984年11月に野村総合研究所に入社。現在、同社の主席研究員、チーフエコノミスト。内閣府経済動向分析・検討会議委員、早稲田大学客員教授などを務める。
講演活動は活発で、平成19年6月8日には麻生太郎衆議院議員の政治団体素淮会の支出により講演をしている。
バランスシート不況:
リチャード・クーが提唱する、いわゆる不況(景気後退)期の経済状況を説明する理論モデルの一つ。
通常景気後退局面では、各国の中央銀行が政策金利を引き下げることで、銀行等の金融機関における貸出金利が低下し、比較的事業が堅調で資金需要がある企業が銀行から資金を借りやすくなる。そのため、そのような企業が低金利で資金を調達し、その資金で設備投資等を行って利益を得ることで、再び景気が回復するという効果を狙うのが一般的な金融政策である。
しかし景気後退局面では、多くの場合同時に不動産や株式等の資産価格も下落するため、好況期に取得した資産の価値が下落することで含み損を負ってしまった企業は、企業活動の継続のためにまず貸借対照表(バランスシート)の改善を行う必要があり、従って債務の返済を優先することになる。その後バランスシートがある程度改善した段階でも、企業は過去の経験から新たな資金の調達→資産への投資に慎重になるため、金利を引き下げても新たな資金需要が生まれず不況が長引いてしまう、というのが「バランスシート不況」モデルの基本概念である。
さらに近年では、国際決済銀行(BIS)基準による自己資本比率規制の関係から、景気後退による金利低下局面であるにも関わらず、保有資産の含み損拡大により自己資本比率が低下した金融機関が逆に貸し剥がしに向かう状況も現れており、それによりさらに市中に資金が回らなくなるという悪循環も生まれている。
リチャード・クーは、代表的な「バランスシート不況」として、1929年からの世界恐慌や、バブル景気崩壊後の日本におけるいわゆる「失われた10年」などを挙げており、これらの局面では一般的な金融政策や量的金融緩和政策を実施しても、それにより市中に供給された資金が債務の返済に回ってしまい新たな需要の創出につながらなかったとして、むしろニューディール政策に代表されるような財政政策により、政府が積極的に資金を投入して公共事業を行い需要の創出を図ったことが景気回復につながったと主張している。なおニューディール政策の基礎となったケインズ経済学の理論については、クーは「結論は正しかったが、その理論構築は間違っていた」と評価している。
サブプライムローン問題に端を発する世界金融危機においても、各国の中央銀行が相次いで政策金利を引き下げているが、「バランスシート不況」モデルではこれらの金融政策の効果も限定的であると見られている。
主な受賞歴:
* 日経金融新聞 アナリスト・ランキング エコノミスト部門 第1位 (1995年、1996年、1997年)
* 日経公社債情報 債券アナリスト人気調査 エコノミスト部門 第1位 (1998年、1999年、2000年)
* 米インスティテューショナル・インベスター エコノミスト部門 第1位(1998年)
* 米National Association for Business Economics The Abramson Award 受賞(2001年)
* 米Doctral Fellowship of the Board of Governors of the Federal Reserve(1980年、1981年)
主な著書:
* 『良い円高 悪い円高』東洋経済新報社、1994年 7月
* 『投機の円安 実需の円高』東洋経済新報社、1995年 12月
* 『金融危機からの脱出』PHP研究所、1998年 3月
* 『日本経済 生か死かの選択』徳間書店、2001年 10月
* 『デフレとバランスシート不況の経済学』徳間書店、2003年 10月
* 『「陰」と「陽」の経済学』東洋経済新報社、2006年 12月
* 『日本経済を襲う二つの波』徳間書店、2008年 7月
* 『世界同時バランスシート不況』徳間書店、2009年 8月 共著