アメリカの戦略思想家サミュエル・P・ハンチントンは,1993年に発表し,話題を呼んだ論文「文明の衝突」の中で,西欧文明(ハンチントンの論文では,米国を含む意味で用いられています)の現在について,以下のとおり述べています。
「他の文明と比較しても,現在,西欧文明は圧倒的な全盛期を迎えているといえよう。(ソビエトという)一方の超大国は姿を消した。西欧諸国間での軍事紛争はもはや考えられないし,西欧の軍事力は比類なきまでの強さを具えている。日本を例外とすれば,西欧諸国に経済面で挑戦できる国家は存在しない。」
「西欧諸国は国際的な政治・安全保障機構を支配し,経済機構に関しても日本とともにこれを支配的な影響下においている。世界的な政治・安全保障問題は,米国,英国,フランスによる理事会によって,さらに世界経済の問題は,米国,ドイツ,日本による理事会で効果的な対応がなされている。」
「注目すべきは,これらの諸国のすべてが,非西欧的な要素を排除するという点で,きわめて緊密な関係を維持していることである。国連の安保理,あるいはIMFの決定は,実際には西欧の利益を反映しているのだが,世界に対しては,世界コミュニティの要望を反映するものとして提示される。『世界コミュニティ』というフレーズ自体,婉曲的には(自由世界を意味する)集合名詞として扱われ,それによって米国やその他の西欧諸国の利益を反映する行動への正統性が与えられているといえる。」
「西欧諸国はIMFやその他の国際経済機構を通じて,自らの経済利益を促進し,自らが妥当と考える経済政策を他の諸国に強要している。非西欧世界においても,各国の蔵相レベルではIMF(の決定)は支持されているが,一般大衆のほとんどは,IMFをむしろ敵視している。例えば,ゲオルギー・アルバトフは,IMFの役人は『他の人々のお金を取り上げ,非民主的でなじみのない経済ルールや政治行動を強要し,経済的自由を取り上げるのを喜びとするネオ・ボルシェビキ』であると酷評しているが,非西欧世界の多くの人々は,彼と同様の見解を抱いている。」
「西欧諸国は国連安保理を実質的に支配しており,ときに中国の棄権によって牽制されることがあるとはいえ,安全保障上の決定をほぼ思うがままにしている」
「西欧諸国は,アラブでは最大規模の軍隊(であるイラク軍)を撃破した後,積極的にアラブ世界に関与しはじめた。」
「西欧諸国は国際機構,軍事力,そして経済資源を駆使して,実質的な支配権を確保し,その利益を守り,西欧の政治・経済的価値を促進するような世界体制を維持しようとしている。」
(以上、鴨武彦他編「国際政治経済システム」第1巻より)
以上のまことにあけすけなハンチントンの言及は,欧米による世界制覇の現状を,限りなく率直に伝えるものといえます。
私たちが欧米文明に対するとき,欧米文明は自らを普遍的なるもの,人類全体に妥当するものとして,立ち現れてきます。
私たちが高等教育を受け,あるいは,社会で様々な仕事に従事するときも,そこで教わる知識は,欧米出自の普遍的知識として提示されます。
こうして,知らず知らずのうちに,私たちは欧米文明をして普遍的な人類文明の先駆者,教師として受容してゆくことになります。近代自然科学はその典型でしょうが,人文的社会的諸学においても,また,政治社会制度(自由民主主義的な政治制度や市場経済など)においても,欧米文明は自らの産物を普遍的なるものとして,非西欧社会に対して,これに付き従うようにと言い募ってきます。
こうして,私たちは,政治的経済的のみならず,精神的文化的にも,欧米文明の覇権を受け入れることを求められています。
こうした欧米の世界制覇は,長い年月をかけて,しばしば凄惨な征服と奴隷化,絶滅を伴いながら,遂行されてきたものです。そして,そのプロセスは,現在も進行中です。
これに対する非欧米世界の抵抗も,連綿として,続けられてきており,これもまた現在進行中です。
この観点からは,インカ帝国滅亡後のツパクアマルの乱も、北米インディアンによる武装抵抗も、インドのセポイの乱も、日本の尊皇攘夷運動も、中国の義和団の乱も、朝鮮の東学党の乱も、ケニアのマウマウ団の乱も、ガンジーに率いられたインド国民会議派の運動も、ナセルによるアラブ民族主義の鼓吹も、中国、ベトナム、朝鮮、キューバを初めとする第三世界共産主義運動も、今日のイスラム原理主義も、欧米帝国主義、植民地主義に対する抵抗運動という点で同じ性質のものの異なる形での現れとして把握することができます。
そして,このような非欧米世界の抵抗の諸相において,欧米普遍主義の亀裂が,一瞬,露わにされるのだろうと思います。
本コミュニティは,このような欧米文明の現在と過去を,できるだけその全体像を浮き彫りにできるような要素に着目し,欧米の世界制覇にいたる過程の歴史として見る問題意識に立ちつつ,文明論的世界史的観点から,考察しようとするものです。
本コミュニティは,欧米文明の普遍性を無条件に賛美するものでもなければ,反対に,欧米文明を全否定するものでもありません。
あくまでも,欧米世界と非欧米世界の交流と交易,軋轢と衝突の歴史を踏まえつつ,各文明,文化の多元性と共存を図る道を見出そうとするものです。
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